プライドが邪魔する恋 4
「今日はこれから撮影なんだぁ。すごいよね~。街でスカウトされて、毎月載るモデルなんてさ」
部長がジュースのストローをくわえた。
彼女は、私が載る雑誌の愛読者だ。もともと、クラスが違う私達が仲良くなったのだってそれがきっかけだった。
私達は今、私のマネージャーさんと待ち合わせのマックにいる。
彼女は他の女子と違って、いつも素直に羨ましがってくれる。一緒にいて本当に気持ち良い。他の女子ときたら、私の美貌と才能を妬んで陰口ばかり。くだらない。私にしたら、努力もしないで僻んでるアンタらの方がどうかしてる。
そんな中、部長はいつも褒めてくれて、私の話も聞いてくれる良い奴だ。
今日は乙女ちゃんは部活でいないのが残念だけど、二番目に信用してる部長に相談する事にした。
「あのさ、一年の六本木、知ってるでしょ?」
「お嬢のおっかけの? なら、うちの学年で知らない人いないよぉ。ね、むっちゃん」
あ、あまりに空気でいるの忘れてた。むっちゃんは俯いたまま、小さく「うん」と肯定した。
「そいつがさぁ」
言いかけて、止まった。そういや、コイケンの連中にも家の事は話してない。
「どしたの?」
首を傾げる部長。私は行き詰まり、
「えと、えとぉ」
視線を彷徨わす。どう、説明すれば……。その時だった。
携帯の着信音が鳴る。この可愛らしいラブラブな曲は、七瀬さんだ!
その電子音に、条件反射の様に鼓動が高鳴りだす。
「ちょっと、ごめんね」
私は二人にそう言うと、少し震える指で七瀬さんからの電話をとった。
電話の着信だけで、体中がドキドキして、くすぐったい気持ちになる。すぐにとらないのは、私の悪いクセだけど、七瀬さんの場合は、焦らしてるんじゃない。声を聞くまでに、落ち着く必要があるのだ。
私は部長やむっちゃんにわからない様に、小さく深呼吸すると、携帯を耳にあてた。
「はい」
「あ、皐月ちゃん。俺なんだけどさ」
いつもの決まったフレーズの出だしに、思わず笑みが零れる。
七瀬さんの、好きな人の、声。私にしか聞こえない、声。
私は嬉しくて、何度も頷きながら聞いた。
「じゃ、また後で」
電話を切るのがいつも切ない。私は切れてからも、少しの間、まだ七瀬さんを感じていたくて、いつも携帯を離せない。
ドキドキが遠ざかる。私はゆっくり携帯を置いた。
「今の、例の人?」
「うん」
私は誇らしげに頷くと、カラカラになった喉にお茶を流し込んだ。
「何か、友達の仕事でモデルがドタキャンとかでね、代わり頼めないかって。ギャラはちゃんと出すし……」
私はわざとそこで言葉を切る。
「出すし?」
珍しくむっちゃんが訊いた。私は弛む口を隠すように手で押さえながら。
「私に会いたいって」
「いや~っ」
部長が自分の事の様にはしゃいだ。
「お嬢……」
むっちゃんが呼んだ。
私は顔を向ける。
「その人、本当に大丈夫?」
カチンときた。私は眉をしかめ、むっちゃんを睨み付ける。
「どう言う事よ」
むっちゃんは目を逸らして
「……大人って、わからないから」
「騙されてるって事?」
私は目を見ないむっちゃんに腹が立った。私が、大人の男性から告られるのが、妙だとでもいいたいの? それとも、私に見る目がないっていいたいの? いずれにしても、むっちゃんに言われる筋合いは無い。
「あのね、七瀬さんは……」
私は鞄から七瀬さんの名刺を取り出して、むっちゃんの前に叩き付けた。
「ちゃんとした人なの! コイケンメンバーにそんな事言われるなんて思わなかった」
怒りが治まらない私を、部長が止める。
「落ち着いてよ。むっちゃんは、お嬢を心配して……」
ちょうどその時、マックにマネージャーさんが入ってきた。
私はもう一度むっちゃんを睨むと、自分の荷物を引っ掴んで
「じゃあね」
出て行った。