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コンプレックスが偽る恋 10

 私の足取りは重かった。

 乙女ちゃんが皆を呼ぶのは目に見えてたから。

 携帯を見ると、十津川くんからのメールが入ってた。私はマックに行く事を送って、約束の場所に向かう。

 朝はバイクで通り過ぎた道は、夏休み前にはいつも弥生と歩いた道。

 弥生のおかげで、高校生活は寂しくなかったな、と弥生と一緒に歩いた日のことを思い出す。

 朝、酷い事しちゃったかも。

 私は紙袋を抱き締めると、走り出した。


 マックにはやっぱりコイケンの皆が揃っていた。

 弥生は気まずそうにボックス席の端に座り、隣りはお嬢と亮太が座っていた。お嬢も弥生から何か聞いたか、それともメールを無視し続けた事に怒ってるのか、少し機嫌悪そうにしかめ面でストローを回してる。亮太は夏の間に何のバイトをしていたのだろう? 乙女ちゃん以上に真っ黒に日焼けしていた。

 私は、ヒラヒラ手を振った乙女ちゃんの隣りに座った。

 弥生とお嬢は私と目を合わさない。亮太は、私を見ても顔色一つ変えなかった。弥生達みたいに反応されるのも嫌だけど、こう無反応も気まずい。

「久しぶり」

「よぉ」

 亮太は軽く手を上げると、手にしてるハンバーガーを口に放りこんだ。

 重い空気だ。それを柔らかくしたのは、やっぱり乙女ちゃんだった。

「全員揃うの久しぶりよね~」

 穏やかな声で乙女ちゃんは私に笑顔を向けると、私の両肩に後ろから手を回した。

「さて、今日のメインのむっちゃんが来たんだし、色々聞いちゃいましょ」

 それぞれの視線が集まる。

 私は目を逸らした。


 それから乙女ちゃんは、私に色々質問してきた。

 いつも思うけど、乙女ちゃんは話を聞くのが凄く上手だ。始めは話し辛かった私も、トゲトゲしかった皆も和んで来る。気がつけば、夏休みの前みたいに私達はキャイキャイはしゃぎながら話していた。

「じゃ、ほとんど毎日会ってたんだ」

 お嬢の感心する顔に、私もすっかり得意になって頷いた時

「でも、本当に大丈夫なの? その人達」

 水を差す弥生の声がした。

 私はそれまでだ気持ち良く話してたのもあって、ムッとして弥生を睨み付けた。

 弥生の言葉にお嬢も頷く。

 今、気がついたけど、お嬢は一つも日焼けしてなかった。真っ黒な亮太の隣りにいるから、余計に色白にみえる。

「……確かに。十津川ってさ、あの金髪でしょ? うちじゃ浮くからって、一高の奴等とつるんでる」

「一高。九頭の所か」

 亮太は先輩の事を知ってるみたいで、眉を寄せると唸った。

「何か誤解してるわ。見た目は怖いけど、十津川くんも九頭先輩もいい人よ」

 私は皆の浮かない顔を一人一人見た。

「……むっちゃん。そぅなったのは、その人達のせいなの?」

 弥生の言葉。何だか親と同じくらいいちいちムカツク。

「何が言いたいのよ」

 私は半ば挑発するような口調になる。弥生も少し頬に赤みを差して

「じゃ、ハッキリ言うけど、そんな格好むっちゃんらしくない。朝、おばさんにも聞いたよ。夜遊びしたり、家の手伝いしなくなったり、どうしちゃったのよ」

 弥生は一気にまくしたてると、キッと私を見据えた。私は私でフツフツと怒りが込み上げて来た。手にあったハンバーガーの包み紙を握りつぶす。

「私らしくないって。じゃ、私らしいって何?」

 唇を一度噛むと、握った拳を見つめた。

「あの、ダサくて暗い私が、私らしいって事?」

「そんな事……」

「そうだよね!」

 私は弥生の言葉を遮り頭を起こす。

「弥生にとっては私がダサいままが良いよね。引き立て役にもってこいだし」

 弥生の顔色が変わる。

「なっ」

「どういう事よ」

 お嬢が割って入った。私は口の端をつり上げ、動揺する弥生を睨む。

「弥生はね、ダサくて暗い私を引き立て役にする為に近付いてたの」

「そんな事、本気で言ってるの?」

 弥生の声が震える。

「むっちゃん。それは……」

 乙女ちゃんのなだめる声も、友情を裏切られた私には届かない。

「もう、偽善面に利用されるのはまっぴらよ。十津川くんと仲良くならなかったら、アンタに騙されてダサいままだった。私はアンタなんか……」

「いい加減にしろっ」

 机がいきなり悲鳴を上げた。私は驚いて振り向く。そこには、見た事ない亮太の怒った顔があった。

「何を吹き込まれたか知らないが、親友を傷つけて、気持ち良いか」

「え」

 見ると、弥生が泣いていた。

 私の中に言い様のない、気持ち悪さが広がっていく。

 亮太は私を見据えたまま言葉を続ける。

「頭冷やせよ。お前、完全に自分を見失って……」

「もういい!」

 私は亮太に怒鳴りつけると席を立った。

 見ると、お嬢や乙女ちゃんまで非難の目を私に向けてる。

「何よ、皆して」

 チリッと胸が痛んだ。けど後ろめたさ何て、あるはずない。だって、悪いのは弥生の方でしょ?!

「むっちゃん。捻くれすぎよ。何それ。被害妄想?」

「っ!」

 お嬢の馬鹿にしたような言葉がとどめだった。

 私は机を叩いて立ち上がると

「バッカみたい。付き合ってらんない。じゃね!」

 席を立った。

 怒りのまま、私は走り去る。

 面白くない。面白くない。皆、弥生の味方して、十津川くん達の悪口言って、私が変わったのも一緒に喜んでくれないなんて! もぅ、コイケンの皆なんていらない。

 私はそう心に決めたのだった。

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