プライドが邪魔する恋 3
それから七瀬さんは、私を家まで送ってくれた。
走り去る車のランプに、ちゃんと気持ちを伝えなかった事を少し後悔し始める。
私は自分の家だと行ったマンションから、再び歩き出した。そう、実は私の家は、今いる様な高級マンションじゃない。
通りを一本戻る。
「……」
錆び付いた階段。剥げたペンキ。木造のボロ文化住宅。これが、本当の私の家。
階段を昇ると、貧乏たらしい音が跳ね返ってくる。私は誰もいないか確認して、家の鍵を開けて体を滑り込ませた。
「お姉ちゃんお帰り!」
途端、チビ達がタックル。わらわら群がるチビは総勢四人。内一組双子。
「遅かったね」
台所に立つ母親が、二つの鍋をかき混ぜながらそう言った。
子沢山に、おさがり着回しの自前カットの子ども達。シールだらけの家具、破けたままの障子。何から何まで全てが貧乏臭い。こんなの私に似合わない。
私は「悪い?」それだけ言って、居間に向かった。
早くこんな生活抜け出したい。心からそう思った。
次の日は雑誌の撮影だった。
色んな洋服が着れて華やかなスポットに照らされる。皆に注目されて、ちやほやされ、知らない子達からファンレターだって最近は貰ったりする。
この世界こそ、私に相応しい。あんな貧乏じみた暮らしなんて……。
「せ~んぱい」
「六本木」
しまった。ぼんやりしてたから、こいつがいるのに気がつかなかった。
こいつといると、ブサイクが伝染りそうだ。
私は無視を決め込んで歩き出した。
「もう休み時間、終わりですよ~。どこに行くんです?」
教室を出た私を追いかける。
「うるさいっ。何なのよ」
廊下で振り返ると、六本木はソバカスだらけの顔に満面の笑みを浮かべた。
「やっと止まってくれた。先輩。先輩の妹さん、第二小ですよね」
「そうだけど?」
なんだ、ストーカーは家族まで調べあげるのか。
「僕の弟が同じクラスで、こないだお宅にお邪魔したんですよ」
「ふ~ん」
だからなんだ。弟が家に来たくらいで……って!
私は六本木の肩を掴んだ。奴はニヤリと笑い。
「それで、僕も一緒にお邪魔したので……」
「アンタ! 家に上がったの!?」
コクンと頷く六本木。茫然とする私。
「先輩。皆がいるので、恥ずかしいですよ」
そばかすが赤らんだ。私は慌て手を離す。六本木は優越感を露に
「僕、写真部じゃないですかぁ。で、先輩の家も撮ったんで……」
「なんですって!」
私は顔を引きつらせる。六本木はそんな私をクスクス笑い。
「昨日渡そうとしていたのは、その写真なんです。僕達、時間が……」
その時、チャイムが鳴った。生徒達がガヤガヤ教室に戻って行く。
「あ、先輩。僕、その写真持ってますから、今度あげますね」
そう明るい声で手を振り、学年が違う六本木は急ぎ足で去って行ってしまった。
私は立ち尽くす。
これは脅迫だ。無邪気な六本木の笑顔が、いつも以上に気味悪く思えた。