コンプレックスが偽る恋 3
次の日、朝から亮太を除く三人が家まで来てくれた。亮太からはメールで『バイトでどうしても行けない。すまん』てだけ来てた。律義なん所が彼らしい。
「亮太ってさぁ、何でバイトしてんの?」
お嬢の言葉に部長は何か知ってるのか、少しむくれて答えた。
「馬鹿だから……」
答えの様な、そうでないような事を言った。
お嬢が追及しようとした時、乙女ちゃんが慌て間に入る。
「ま、いいじゃない。それより、今日はむっちゃんよ。二人とも、持って来てくれた?」
日に焼けて乙女ちゃんはさらに格好良くなっていた。元々綺麗な顔立ちだから、またファンを増やしてそう。
乙女ちゃんに言われて、部長とお嬢は持ってきた袋から、色々出して来た。
「まぁ、サイズもあるから、そんなに無かったけど」
お嬢はそう言いながらも、コスメまで用意してくれてた。多少の憎まれ口は、彼女の照れ隠しなのだ。
「さ、むっちゃん。変身よ」
部長が夏の陽射しの様な明るい笑顔を向ける。
乙女ちゃんが、拳を鳴した。
「うふふ。この日を待ってたのよ。むっちゃん、爪の先まで任せてね」
詰め寄る皆。私はちょっと怖くなって、半笑いで後ずさる。
「むっちゃん、あなたの美は約束されましたぁ」
部長がどっかで聞いた事あるような事を言って、私の眼鏡を外した。
ビックリした。まず、部長の熱心さに。
どうして彼女はこんなに他人に一生懸命になれるんだろう。あぁでもない、こぅでもない。鏡の前で私の周りをぐるぐる何周もして、厳しい顔でチェックを入れて行く。私はそんな部長が羨ましかった。
ビックリした。次に、お嬢のこだわりに。
どうして彼女はこんなに美にこだわり、真剣になれるんだろう。これを試してみて。やっぱり、今はこれが流行だからこっちかな。そんな風に呟きながら凄い知識の量を総動員して、少しの妥協も許さない。私はお嬢が美しい理由がわかった気がした。
ビックリした。乙女ちゃんのセンスに。
どうして彼はこんなに器用なんだろう。実は服を着替えた後に、髪を結ったり、お化粧をしてくれたのは彼なんだけど、彼の手が触れると、魔法の様に私が生まれ変わっていく。私はそんな乙女ちゃんを尊敬した。
おかげで二時間、鏡の中の私は突っ立てビックリしてだけだった。そして気がつくとすっかり変身していたのだ。
私は鏡の中の私と信じられない気持ちで見つめ合っていた。眼鏡を外されてるから、まだぼんやりとしか見えないけど……。
「はい。どう?」
乙女ちゃんの弾む声が、眼鏡をくれた。
そこには、今まで着た事のない可愛いキャミソールに短いスカート。髪は綺麗に結わえてあって、あちこちに髪飾りがキラキラしてる。眉も整えられ、アイラインのせいか、いつもより目も大きくパッチリ。そんな生まれ変わった私がいた。
「一度思いっきりむっちゃんを改造したかったのよね~。あ~スッキリした」
乙女ちゃんが、私の後ろから両肩に手を置いた格好で微笑んだ。
「乙女ちゃんってさ、絶対こういう才能あるよね」
お嬢が感心しながら、片付けしてる部長に言う。
部長は鏡の私を見ながら
「うん。この道、向いてるんじゃない」
「やだぁ。褒めすぎだって」
乙女ちゃんは照れて、両頬を抑えてから、再び私の肩に手を置いた。
「元々むっちゃんは可愛いのよ。それが眠ってただけ」
そして、直に私と目を合わす。眼鏡をそっと外した。
「眼鏡もいいけど、今日は外してみて。むっちゃん、本当はそんなに目、悪くないでしょ?」
見抜かれてたのに、私は苦笑して頷く。そう、私は眼鏡を、視力を補うと言うより顔を隠す為につけてたのだ。
「ほら、笑って。笑顔が女の子の一番の武器なんだから」
優しい乙女ちゃんの言葉。鏡の奥では他の二人も励ます様に私に力強く頷いていた。
私は慣れない笑みを作る。まだぎこちない形の笑顔。それでも……
「睦月~。お友達よ」
「「来た」」
皆、顔を見合わせる。
次いで私に視線が集中した。
「自信持って」
乙女ちゃん。
「楽しんできなさい」
お嬢。
そして、いつも勇気をくれる
「頑張って」
部長。
私はしっかり頷くと、部屋を出た。
まるでそれは戦いに挑む戦士にでもなった。そんな感じだった。