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プライドが邪魔する恋 2

 私は帰りはいつも一人だ。女子高生なら大抵決まった連れはいるもんだけど、モデルの仕事とかもちょこちょこあるし、何より、私には知られたくない現実がある。

 私は不機嫌に顔をしかめると、足早に校門に向かった。

 ふと、誰かの人影が見えて、目を細める。

 もしかしたら七瀬さんかも!

 私は一気に盛り上がる鼓動に、耳まで赤くした。

 七瀬さんは、昨日、私に告白してくれたカメラマンの……助手。確かに告られはしたけど、近付いたのは私の方だ。

 背が高くて、優しくて気が利く。たまにする煙草の匂いと無精髭が、たまらなく大人な感じがして、一目惚れ。強引にメルアドを聞き出したのは一か月も前の事だった。

 実はまだ、返事はしてない。すぐに返事するなんて、安っぽい事なんて出来ない。本当はすごく嬉しかったんだけど……。


 私は逸る気持ちを押さえ、まるで気付いてない様子で校門に向かった。

「皐月さんっ」

 影が飛び出し、道を塞いだ。私はその声に顔を引きつらせる。

「げっ。六本木」

 そこにいたのは、あのうるわしの七瀬さんじゃなく、チビでソバカス面、しかも一年の六本木。

 私は後ずさる。

「何よ」

「今日こそ、皐月先輩と一緒に帰りたいと」

 モジモジする六本木。ハッキリいって趣味じゃない。私は奴が話終わる前に歩き出した。

「あっ、待って!」

「キモい! あんた、ストーカーじゃん」

 私は小馬鹿にして鼻で笑う。

「すみません。でも、今日は、どうしても差しあげたい物が……」

 何か差し出すけど、私は一瞥もせずに振り払った。その拍子に六本木は何かを落とす。ばらっと地面にそれは散らばり、奴は慌ててしゃがみこんだ。後味は悪いがこれで振り切れる。

「つきまとわないでくれる?」

 私はその何かを拾う六本木を見下ろした。

 鏡見た事ないの? こんなので私と付き合いたいなんて、私に失礼だわ。

「しつこいアンタが悪いんだからね」

「皐月ちゃん? どうかしたの?」

 背中からの声に、私の耳がまた赤くなった。私は思いっきり女王様から姫モードに切り換える。

「七瀬さん」

 七瀬さんは格好良い車からこちらを見ていた。

「そろそろ会いたいなぁって思って」

 嬉しい事を言ってくれる。

 私は少し俯く。

「車、乗らない?」

 七瀬さんの少し不安げな声が可愛い。私は極上の笑みを作ると頷き、車に乗り込んだ。

「彼はいいの?」

「いいのいいの」

 所詮レベルが違う。

 私は七瀬さんの肩に寄り掛かり、無様に這い付くばる六本木を見捨てて行った。

 始めて一人で乗る、大人の車に少し緊張していた。

「お腹すいてない?」

 七瀬さんは、いつもの様に優しい。

 私は軽く首を横に振った。お腹は空いていたが、なんだか言うのが恥ずかしい。

「どっか、ゆっくり話したいんだけど。制服じゃ、行ける場所決まってくるか」

 困った顔。それでも、優柔不断にこちらに振ってこない所が、また好き。意外に助手席が運転席に近いのに、ドキドキする。シフトレバーに置かれた手が、大きくて、綺麗。七瀬さんはチラリと時計を見た。

「夜景でも見に行こうか」

 サラリと出た言葉は、かなり魅力的で、私は頷いた。

「行ってもいいですよ。どうせ暇だったし」

 私は精一杯背伸びして澄ました顔で答えた。

 七瀬さんは、苦笑すると、洋楽のナンバーを流した。いつもの楽しい会話が弾みだす。

 知らない街に、明りが灯り始めた。車は山道をのぼって行く。光はやがて、小さな血に降りて来た星空の様に眼下に広がり始めた。

「すごっ」

 口の中で呟いた時だった。

 七瀬さんは車を止める。車から降りなくても、綺麗な夜景が見れた。

「綺麗」

 呟く私に、七瀬さんも夜景を見ながら

「気に入って貰えたみたいで良かった」

 ハンドルに上半身を預けた姿勢。そのまま、私を振り返る。

 途切れる、和やかな空気。私は気付かないふりで、夜景ばかり目に映すけど、七瀬さんの視線が気になって、何も見ていないのと同じだった。

「返事、まだ待たなきゃダメかな」

 七瀬さんの声。心臓が飛び出しそう。まるで鼓動が体全体で鳴り響き、七瀬さんにも聞こえてしまうんじゃないかとさえ心配してしまった。

 ここで素直に頷けば、全ては上手くいく。大好きな七瀬さんの彼女になれる。部員の誰かの恋が実れば即解散のコイケンメンバーには悪いけど、社会人な彼氏なら自慢出来る。私に断る理由はない。けど……。

 私、まだ、七瀬さんから何も貰ってない! 奢りも数回安い店でだけだし。何か、それって、安くあげられてない?

「本当に、私の事?」

「好きだよ」

 七瀬さんの手が、私の手に重なった。私は一度目を瞑ると、そっと答えを告げた。

「七瀬さんの事、もう少し知ってから返事します」

 私のプライドは、貢がない相手に頷く事を許さなかった。

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