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プライドが邪魔する恋 1

 ハッキリ言って、私に彼氏が出来ない理由がわからない。

 読者モデルするくらいの可愛さだし、だからって頭が特別悪いわけじゃない。たぶん、私に釣り合う人がいなくて、男子が勝手に私を諦めてるだけなんだろうけど。それこそ馬鹿だ。私みたいな女子と付き合えるチャンスなんて、奴等には一生ないだろうに断るなんて。

 まぁ、いいわ。そんな卑屈な連中はこっちから願い下げ。きっと、私にはクラスの男子より、お金持ちで大人な人が似合うのよ。私は絶対、自分を安売りなんかしない。


 恋愛研究部。略してコイケン。活動は週一のミーティングが中心だけど、実質は毎日に近い。何故なら、恋愛そのものが部活だから。

「はい。じゃあ、皆揃ったぁ?」

 部長の弥生が、思い思いに過ごしていた部員達をグルリと見回した。私はちょうど塗り終わったネイルに息を吹き掛ける。

「綺麗な色ね。新色?」

 隣りに座ってた乙女ちゃんが話しかけてきた。乙女ちゃんと言っても、彼はれっきとした男だけど、ここにいる誰より心は乙女だ。本名は猛なんて厳つい名前で、陸上部と掛け持ちの彼は、私達以外と居る時は『乙女』を隠す、インハイ有力選手だったりする。

「そうそう。今度、塗ってあげようか?」

 私のそんな言葉に、乙女ちゃんは一瞬顔を輝かせたけど、すぐにそれを曇らせて首を横に振った。

「ううん、いい。他に見られたら、おかしいでしょ?」

 寂しそうな顔。そして、傷ついたのは自分のくせに私に気を使って笑う。

「あ、でも、今度買い物一緒に行こう?」

「そうね。私、乙女ちゃんの趣味、かなりイケてるから、参考にしたいもの」

「あら、モデルさんに言われるなんて、光栄だわ」

 乙女ちゃんはそう言って微笑んだ。私はこんな乙女ちゃんが大好きだ。

「そこ。お喋り止めて。ミーティング始めるよ」

 恋愛万年No.2の弥生部長の声が飛んできた。

 私達は顔を見合わせ、肩を竦めた。

「じゃあ、むっちゃんから順に報告~」

 部長の声に睦月は大きな体を縮こませ、俯いたまま小さな声で何か言った。

「三田、聞こえないぞ」

 顧問の保健医、百崎先生が野次を飛ばした。先生は、私でも認める美人だけど、サバサバしていて男っぽい。

 むっちゃんは、厚い前髪のカーテンの奥の眼鏡の向こうから、目だけ上げた。

「すみません。あの、ですから、今週も……その……」

「声かけられなかったの?」

 私はいい加減イライラして口を挟んだ。むっちゃんは、正直苦手だ。ブサイクだから自信ないって、そりゃ、むっちゃんのガタイと顔じゃ仕方ないけどさ。この暗い性格はどうにかならないのかしら。

むっちゃんは頷くと、また下を向いた。

 私は呆れ顔でむっちゃんを睨み付ける。

 これで、むっちゃんは半年も好きな相手に声すらかけないでいる事になる。

「ばっかみたい。『おはよ』くらい、なんて事ないじゃん」

 私は前髪をかきあげた。

「そんな……むっちゃんなりに頑張ってるんだよ?」

 お人好し部長が助け船。

「人それぞれだろ」

 部長の隣りにいた亮太が、やる気なさげに呟いた。そもそも、私はこいつがコイケンにいる意味がわからない。部活のための数合わせの割に、ミーティングには真面目に参加する。

 私は二人に言われてムッとした。私が間違ってるとは思えない。

「まぁ、お嬢のいいたい事も正しい」

 乙女ちゃんが援護してくれた。けど、肘をついて顎をちょこんと組んだ手の甲に乗せると

「でも、私は、むっちゃんの気持ち、わかるなぁ」

 そう言って、私とむっちゃんに微笑んだ。

 私は少し気持ちが柔らかくなって、苛立ちを溜め息にして吐き捨てた。

 話は乙女ちゃんに移された。

 乙女ちゃんは一つ上の、陸上部三年の先輩に恋してる。今年卒業だから、時間があまりない。

 乙女ちゃんは、少し嬉しそうに

「来週から、インハイ予選に向けて、個人的に見てくれるって」

 そう言って小首を傾げた。私達は拍手する。自分の恋を誰にも話せて来れなかった乙女ちゃんは、コイケンでは本当に楽しそう。

「次、お嬢は?」

 私の番。実はとっておきの話があるんだよね。

 私は勿体ぶって、自分の髪を指先に巻いて弄びながら

「えとぉ」

 チラリ皆を見る。焦れったそうな部長の顔が一番面白い。私は弛む口元を必死に隠し、力いっぱいクールを装う。

「告られた」

「「えぇっ~!」」

 あぁ、気持ち良い! 皆の驚く様を、私は優越感いっぱいに横目で確認する。でも、動揺はみせない。

「何よ。私が告られるくらい、普通でしょ?」

 ふふっと含む笑い。小気味良さにかなり気分が良い。

「相手は?」

 部長がやけに必死に訊いて来た。亮太以外は興味津々、身なんか乗り出しちゃって。

「まぁ、大した奴じゃないんだけどぉ」

 私はまるで皆のリアクションなんか意に介してない様に、塗り立ての爪を眺めた。

 この私が告白ごときで浮かれてるなんて、あってはいけない。

「雑誌のカメラマンみたいな~」

「大人ぁ?」

 部長の尊敬のまなざしが気持ち良い。

 結局、この日は私の話で持ち切りで終わった。

 そう、私はこうでなくっちゃね。

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