2話 おじさんと美少女
どうも、おじさんです。
つい先日、気を失ったところを視聴者の方に助けていただきました。
俺があの後どうなったかの大まかな話を医師から話を聞いた。
救急車で運ばれている最中にうっすらと発光していたが、その光が突然強くなって運転手以外は視界を奪われたそうだ。
視力が回復した頃には俺が横たわっていた場所に少女がいた。それが今の俺である。
「退院したはいいけど……これからどうしようかねえ」
ある日突然、性別が変わる現象自体はそれなりに前例がある。
50年前からスキルを発現したことで姿形が変わる人々がおり、俺のように性別が変わる者もいる。
俺以外にも似た事例が数十万以上あることから協会のステータス調査も雑なものだった。
「補助金は貰えたからいいけど、探索稼業がちと厳しいな」
手元のシーカーカードを専用の小型端末にかざす。
名前:無力 日々人
ランク:1
戦闘力:230 → 72 前回比:-158
スキル
《漢になれ》New!!
・防具以外装備不可
・《漢になれ》及び《○神の祝福》を除くスキルの習得不可
・身体の耐久性が戦闘力に応じて上昇
・単独訓練及び戦闘でのみ戦闘力上昇
・戦闘力が伸びやすくなる
《女神の祝福》New!!
・容姿が御姿に固定され、不変となる
・常に浄化される
「スキルが2個も発現したが、しかしこれは……縛りプレイって奴だな?」
まず1つ目のスキルのせいで俺が6年の間に稼いで揃えた武器は一切使えなくなった挙げ句、2つ目は事実上の弱体要素。
戦闘力が大幅に下がったのも成人男性から少女と呼べるほど、小柄になった影響だろう。
戦闘力以外のデメリットはキッチンの戸棚に手が届かないことや服がぶかぶか過ぎて着られなくなったことなど他にも沢山。
というわけで、
「配信開始っと」
カチッとマウスで左クリック。
ディスプレイに表示されている歯車が回りだし、OFFからON AIRという文字へ切り替わる。
「はい、どうも~おじさんで~す」
【はい】
【待機300人超えはやりますねえ!】
【発光おじさん以来だな】
【で、誰この美少女】
【なんだこのおっs……】
【おじさんまさか誘k】
「してないが、誘拐じゃなくて本人だが?」
【かわいそうに、脅されてるんですね】
【おいたわしや】
【たわし屋も泣いています】
「おじさん本人なんだよねえ。それがねえ!?」
だめだめニートおじさん参上! とプリントされたTシャツを全面に押し出して強調する。
【マジで?】
【オイオイオイ】
【青服の人、こいつです】
【馬鹿野郎あのおじさんが青髪碧眼ポニテ美少女なわけないだろ!】
【いい加減にしろ!】
【お前はパフェかッ!】
【パフェおじさん!?】
「誰がクソ雑魚ダメダメニート人間のクズおじさんじゃゴルルァ!」
【そこまでは言ってない】
【まあ落ち着けよ、良い茶葉が入ったところなんだ】
【おじさん認証終わった?】
【これは発光おじさんですわ】
【おっすおじさん】
「お前ら最初から分かってて煽ったな……まあいいけど」
うちのリスナーはこういうじゃれ合いが好きなようで、身内のノリというものがある。
視聴者を増やす目的の場合は身内のノリというのは敬遠されるが、うちは最初からそういうのがメインなので問題ない。
「で、今回配信を再開したのはねえ。ざっくり言ってしまうとダンジョン探索どうしようねって話」
【ざっくりし過ぎィ……】
【あ、そういう話ね】
【大変そうだねって話】
【てか美少女化したはいいけど戦闘力下がってる疑惑】
【それな】
【ただでさえクソ雑魚だったのに】
「戦闘力も下がったからどうしようねって話」
【取り敢えず情報小出しにすんなって話】
【列挙しろって話】
【話って話】
【話のゲシュタルト崩壊やめてって話】
【あたまこわれる】
「そう言うと思ってね、取り敢えずメモ帳に書いといたぞッ!」
【最初から出せや】
【このッ……キがッ!】
【いくら可愛くても許されないこと、あると思います】
【まあ私は許しちゃうんですけどね古参さん】
メモ帳の内容はこうだ。
○おじさん困ったリスト
・成人男性から美少女になって弱体化してしまった。困った。
・スキルの影響で防具以外装備できなくなった。困った。
・スキルの影響で単独戦闘、訓練以外の方法で戦闘力が上がらない。困った。
・身長が低くてキッチンの戸棚に踏み台無しで届かなくなった。困った。
・困った。
「これが困ったリストね。みんな読んでくれたかね」
【これは】
【やばいね】
【主に困った。のウザさ加減が】
【中身おじさんって分かってるとウザさしかないんだが】
【最後の身も蓋も無さすぎて腹痛い】
【なにこれ武器装備できないってこと?】
【致命的じゃんね】
【弱体化した上に単独じゃないと戦闘力上がらないとか詰みでは?】
【真面目な話、ほぼほぼ詰んでます】
【下から2番目可愛くて草】
その通りだリスナー諸君。控えめに言って詰んでいる。
リストには書いていないが、《漢になれ》というスキルにはメリット効果もある。
・身体の耐久性が戦闘力に応じて上昇
・戦闘力が伸びやすくなる
この2つは間違いなくメリットだろう。
リストに書いているのはデメリット部分のみ。感の良いリスナーならすぐ気づくはずだ。
【で、メリットは?】
【普通に考えてそんなに縛り強いならメリット効果やばめな感じがする】
【スキル原則的にね】
【つっても固有系スキルならメリット部分は非公開のほうがいいような】
【まあな、上位探索者は汎用スキル以外非公開だし】
「一応あるよ。身体の耐久性が戦闘力に応じて上昇、だってさ」
【あら珍しい効果】
【デメリット効果デカすぎて実質死んでるけどな】
【レアな部類だな】
【強くなればなるほど防具要らずになるからなー】
【上位探索者にいたよな、防具無しで機関銃すら防ぐ変態】
【アレと比較はいけない】
【ただデメリットの割に合わないな】
【レアな死にスキル】
「ちょっとは手加減してくれよお、泣くぞお」
つーっと頬に涙が伝う。
この身体になってから前より涙脆くなった気がするな。
【もう泣いてる不定期】
【絵になるな】
【ちょっと胸がキュッとしたわ】
【中身おじさんって分かってても心が痛むからやめれ】
【それは反則】
「ヨシッ! 嘘泣きはこの辺でやめといて……誰か良い防具売ってるとこ知らん? 前使ってたやつ全部売っぱらったのと補助金のおかげで余裕あんのよね」
俺は机の上に札束を勢いよく置き、カメラに向かってドヤ顔をかました。
【前のやつは使えんか】
【札束ドンッで耳ないなった】
【鼓膜キーンよ】
【おじさんが住んでる地方だとフォルーナ防具店かな】
【そこって女性用だろ?】
【おじさんは女の子だぞ】
【女の子おじさん?】
【変な意味に聞こえるからやめい】
「フォルーナってあそこか。前に買い物行った時見たぞ」
【場所知ってるなら問題なさそうね】
【私はどんとこいよッ!】
【意味わからんくて草】
【店員さんじゃね(テキトー)】
【おじさん買い物なんて行くんすね】
【通販おじさんかと思ってた】
「たまにね」
普段は通販で注文したもので炊事や家事をするのでほとんど買い物はしていなかった。
買い物に行くときは大抵、探索用の道具を買いに行く時だけだ。
「よし、リスナー諸君ご苦労ね。今日はここらで配信終わりますぞーい」
【偉そうだな】
【可愛いから許す】
【おう、また明日な】
【おつ】
【おつ】
【おつカレー】
ディスプレイの表示がちゃんと配信終了状態になったのを確認して離席する。
「明日は買い物だな。他にも色々揃えないといけないし」
服とか下着とか防具とか。
俺はその後、明日の買い物ルートを作成してから寝床についた。
久しぶりの探索用品選びでちょっと興奮して寝付きが悪いのはご愛嬌である。