ひとりぼっち。
あ、そうだ。言ってなかった。
僕はキツネ。真っ白いキツネだ。
白くて、体がとても小さいから、白い子ギツネってところなのかな?
そして多分僕は、この《雪の珠》から生まれた。
『……』
なんかそれって、ちょっとおかしいしもするけれど、だって《雪の珠》は、僕と同じ白色だし、僕の大好きな冷たいモノなんだもん!
第一僕は、この雪玉に入っていたから。
それにここには、僕と雪の他なにもない。
だからこの雪が、僕のお母さん。
僕は雪に、スリスリと擦り寄った。
雪は柔らかくて冷たくて、それからとっても、気持ちがいい。
……そしてね、何故か僕が擦り寄っても、その雪は溶けないんだよ? 不思議だよね。
もしかしたら、何かの力が働いているのかもしれない。消えてなくなって、僕が悲しまないようにって!
もしかしたら、僕が大きくなるのを見たいのかも知れない。
『ふふ。』
僕は何だか嬉しくなる。
だってこの雪も、僕のことを仲間だって認めてくれたように思えたから。
スリスリスリスリ……と、雪に頬ずりするのに飽きてきて、僕はゴロンとその雪の上に寝転がってみた。
雪はとても冷たいんだけれど、凄くいい気持ち。
上を見上げれば、満天の星空が見えた。
『うわぁ……』
まだ雪が少し降っていて、星空と雪とを見ていると、まるでお星さまが降ってきているみたい。
僕は目をつぶる。
ずっとこうしていたい気もする。
けれど今の僕はひとりぼっちなんだってことも、嫌というほどに感じている。
『……』
飲み込まれそうな暗闇。
何もないこの世界に、ただ一人取り残されたような気がして、僕はひどく寂しくなる。
雪は仲間かも知れないけれど、それでもやっぱり、僕と同じ姿の生き物に会ってみたかった。
『……』
誰かいないんだろうか……?
僕と同じ真っ白なキツネ。
僕はコロンと伏せて、辺りを探ってみる。
ふわふわの小さい僕の耳は、僕の気持ちを知ってか知らずか、勝手にぴくぴくっと動き、辺りの音を必死に探ってくれた。
うん。この耳はとても良い感じ。
遠くで鳴くフクロウの声が聞こえる。
ホーッホーッって、とても穏やかな声。
……だけど、それだけ。
僕みたいな仲間は、どう探ってみてもいないみたい。
少しガッカリする。
どんなに耳を傾けても、なんの音もしない。
穏やかなフクロウの声ばかり。
静かな静かな冬の夜。
誰もいない雪野原。
物音すらもしない、しーんと静まり返った白い夜。
警戒する《なにか》もなくて、思わず溜め息が漏れる。
あぁ〜、……つまらない。
『……本当に、誰もいないの?』
こてり……と首を傾げて、僕は耳を震わせた。
頭についていた雪が、ハラハラと舞う。
『……』
ひとしきり耳を震わせると、僕は改めて辺りを見廻した。
けれど、なんにもない。
あるわけない。
足跡すらない、まっさらの白銀の世界。
いつもと変わらない広いこの世界の中で、僕は本当にひとりぼっちなんじゃないかと思い始めて、急に不安になる。
ひどく恐ろしかった。
× × × つづく× × ×