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風花夜月妖譚【かざはな やげつ ようたん】  作者: YUQARI
第三章 お寺の奥の深い洞窟
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あたたかい粉雪。

 しばらく舐め続けられて、僕は笑い疲れ ぐったりとなる。も、もうダメ……。これ以上、笑えない。


 ひぃーひぃーと悲鳴を上げて、僕は息をする。

 そ、それに腕……瑠璃(るり)姫さまの腕が、めちゃくちゃ重い。逃げる力も既になくなって、僕はただただ唸る。


『ん? どうした? 何を唸っておる……。

 お、おぉ、そうであったな。すまぬ。すまぬ。

 ……けれどこれで、いくらか落ち着いたであろう?』

 言って瑠璃姫さまはクスクス笑いながら、その腕をどけてくれた。


 一気に体が軽くなる。


『! はい……でも、もう笑い疲れました……』


 一通り舐められ、体は光らなくなったけれど、笑いすぎて力が出ない。僕はぱたり……とその場に寝そべる。

『……もう本当に、ダメ』


 ぐったりと長くなる僕を、瑠璃姫さまは小さく笑いながら横目で見た。

 けれどすぐに真面目な顔で、弦月(げんげつ)和尚さまに向きなおる。


弦月(げんげつ)。このキツネは、どうしたのだ?

 また、(われ)のように封じる気なのか……?』

 怒気を押さえるかのように、震えた声で瑠璃姫さまは、和尚さまにそう尋ねた。


 その顔は、少し、怖い――。




 《封じる》……?

 僕の耳がピクピクと反応する。


 僕を封じる!? 僕は何もしていないんだけど? なんで? 僕が妖怪だから?

 不安になって、僕は二人を交互に見た。


 逃げればいいんだろうけれど、今の僕に、そんな体力なんて残っていない。

 だってもう、夜なんだよ? 普通なら眠ってるんだよ? それなのに、変化(へんげ)の練習でたくさん飛び跳ねたし、長い洞窟は彷徨(さまよ)ったし、瑠璃姫さまに舐められて、ずっと笑ってたから、もう体力の限界だった。



 和尚さまは瑠璃姫さまのその言葉に、小さく溜め息をつくと静かに口を開いた。


「……封じるつもりなどありはせん。(わし)にはもう、そんな力は無い。そんな気力もない。

 ……苦労を掛けるのは、お前一匹で十分。そうであろう……?」

 そう瑠璃姫さまへ、言葉を返した。和尚さまは、瑠璃姫さまをふり仰ぐ。……まるで見えているみたいに。


(わし)の最大の罪は、お主を封じたこと。

 ……例え、騙されていたとしても、この罪は消えぬ。

 いや、神や仏が許したとしても、この儂自身が生涯、己を許すことは出来ぬ……」

 そう言って、苦しそうに眉を寄せた。

「あの時もっと、お主の話を聞くべきだったのだ……」



『……和尚さま……?』

 何かあったのだろうか? 《封じる》……なんて、穏やかな話じゃない。けれど二人の仲は、そうギスギスしたものでもないように見えた。


 瑠璃姫さまは、和尚さまを(なじ)っているようにも見えるけど、(いた)わっているようにも見える。

 和尚さまは和尚さまで、自分のした事を本当に悔いていて、だからあの時……僕が初めて和尚さまに会った時、あんなに遠慮がちに僕に触れたんだと思った。

『……』


 過去を後悔するかのように、和尚さまは苦しげな表情を浮かべた。その姿を見て、瑠璃姫さまはホッと溜め息をつき、困った顔で……けれどドキリとするほど、優しく笑った。


『何を今更……』

 瑠璃姫さまは言う。

『人と言うものは、往々にして話を聞かぬものだ。

 そしてそこが、面白くもある……と、(われ)は思う』

 優しくそう言って、和尚さまを見下ろした。


「……」

 弦月(げんげつ)和尚さまは、……けれど下を向いて黙り込む。


 瑠璃姫さまは、困ったように溜め息をつく。

『お前の。……人の人生など、(まばた)き程度しかないではないか。

 今、(われ)をここに留めてはおるが、それは吾にとって、ほんの一瞬の出来事でしかない……。

 気に病む必要もない。吾は、ここにいれることが幸せだと思っているしの……』

 言って、和尚さまに、ふっ……と息を吹き掛ける。


「!」

 和尚さまの肩が揺れた。


 パラパラと粉雪が舞う。



 瑠璃姫さまの妖力で出来た、キラキラ光る粉雪。

 瑠璃姫さまは機嫌がいいと、よくこの粉雪を降らせるのだと、後からタマが教えてくれた。


『うわぁ。綺麗……』


 粉雪はとても綺麗で、僕は思わず溜め息を漏らす。

 春になって、もう見ることも出来なくなった、柔らかい雪。

 僕の大好きな、《雪》。



「……」


 目が見えない弦月(げんげつ)和尚さまにも、この粉雪が分かったようで、ハッとしたように顔を上げた。

 見えなくても、触れさえすれば、その粉雪を感じることが出来る。


 懐かしむように和尚さまは微笑んで、その粉雪を愉しんだ。


 粉雪は和尚さまの手に触れると、ふわりと消えた。

「……」

 和尚さまは溜め息を吐く。


「昔はそなたの作るこの粉雪が大好きで、《出してくれ》とよく強請(ねだ)ったものだな……」

 若かりし頃の自分を思い出したのか、和尚さまはそう言って、少し微笑んだ。


『お前が気にすることなど、もう何もない――』

 誰に言うでもなく、ポツリと瑠璃姫さまが呟く。


 和尚さまに、その呟きが聞こえたのか聞こえなかったのか……。ただ穏やかに微笑む、和尚さまの笑顔を、瑠璃姫さまは優しく見護った。



    挿絵(By みてみん)

           × × × つづく× × ×


   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

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