穿たれた黒狐
灯りを持って来てはいなかったけれど、さっき和尚さまが言った通り、たくさんの狐火で、辺りはとても明るかった。
『すごい……キレイ……』
僕は思わずそう、呟いてしまう。
辺りはとても綺麗だった。
本当なら不気味な洞窟の中。
それなのに、ところどころに灯る、瑠璃姫さまの青白い狐火は優しく辺りを包み込む。
洞窟の岩肌にこびり付いている柔らかな苔は、ほんのり水分を含んでいて、その水滴が狐火に照らされると、キラキラとまるで星空のように輝いた。
『うわぁ……』
狐火に見とれながら、僕は地下へと降りて行く。
こんなにも綺麗な狐火を作り出せる瑠璃姫とは、いったいどんな人なのだろう……? 僕の興味は、更に大きく膨れ上がる。
凍りつくような、狭い洞窟の通路。
けれど、ほんわかと光り輝く青白い狐火のお陰で、《怖い》という気持ちにはなれない。どちらかと言うと、ちょっとあったかな気持ちになるのが不思議だ。
寺の庭で見た、狐火もそうだった。
昼間でも陽の光が届かない地下に閉じ込められ、それでもなお、こうやって あたたかな狐火を作り出せるなんて、よほど精神の強い妖狐なのだろうなって僕は思う。
どんな妖怪なのかな……?
洞窟の通路を降りながら、僕はひとり、瑠璃姫さまに会えるのが、とても愉しみだった。
『はぁはぁはぁ……お、和尚さま……っ。和尚さま!! ま、まだ着かないの……っ?』
僕は息を切らしながら、和尚さまに尋ねた。
もう随分長いこと、こうして歩いている。ずっとずっと歩き続けているのに、それなのに、なかなか瑠璃姫さまのところへつかないんだ! いったいどうなってるの!?
お寺の洞窟って、こんなに長いの!? と僕は呆れた。
こんなに深い地下に封印されてるなんて、瑠璃姫さま、よく平気だよね!? いやもしかして、僕たちって迷ったんじゃないの!?
僕は唸る。
唸りながら、心配になった。
洞窟の中は、一本道じゃなかった。
複雑に入り組んでいて、目の見えない和尚さまがどうして迷わずに進めるのか、僕には不思議だった。
ううん! 絶対、迷ったに違いない!!
でも安心して! 僕にはこの《鼻》があるから! 出口だって、瑠璃姫さまのところだって、ちゃんと案内出来るからね!
そう思い僕は、ぴすぴす! ぴすぴす! と鼻を鳴らす。うん。大丈夫。多分なんとかなる!
鼻を鳴らし始めたそんな僕に向かって、和尚さまは軽く笑い、口を開いた。
「ふふ、狐丸や。もしや運動不足なのではないのかい? もう、息切れを起こしてしまったのかい……?」
袖で口許を隠し、ふふふと笑う。
笑われて僕は焦る。
『ぼ、僕はまだ、平気だしっ! それに、息切れじゃないし! 鼻をふんふんしてただけだし!
和尚さまは目が見えないだろう? もし道に迷ったんなら、僕が本堂に連れて帰れるから安心してって言おうと思ったんだ!』
僕の強がりに、和尚さまは再び笑いながら、答えた。
「ふふ。それは頼もしいのぉ。しかし、それには及ばぬよ? どれ、そろそろじゃ……!」
どれ程歩いただろう?
寒さも相まって、軽く息切れを起こしかけた頃、僕たちは広々とした空間に出た。
『うわ……』
天井……が、ものすごく高い!
お寺の高さの二倍はあるんじゃないかな? そこはとてもひらけていて、開放感のある場所だった。
僕は目を見開いて驚く。
高い天井いっぱいに大きな鍾乳石が垂れ下がり、今にも落ちてきそうで怖くなる。
そしてそれらはキラキラと白く輝き、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
う\"……。そりゃ綺麗だよ? だけどあれが落ちたら、僕たち串刺しなんじゃない?
不気味に光る鍾乳石に、僕はたじろいだ。
「ふふ。凄いじゃろ? ……あぁ、一言言っておくが、天井のモノは落ちては来ぬ。
そういう呪が掛けられておるからの」
和尚さまは、ふふふと笑った。
……和尚さま、もしかして実は性格悪いんじゃないの?
『……』
僕はムッとして和尚さまを睨む。
青白い狐火が、上下しながら洞窟内を揺れるさまは、本当に幻想的で、僕は息を呑む。
そして、その奥の壁にそれはいた。
『!』
青白い炎に照らされて、大きな漆黒の九尾が、壁の一面に磔にされている。
九つのうちの八つのしっぽが、大きな釘で壁に穿たれていて、痛々しい。
僕は目を見張った。
『お、大きい……』
瑠璃姫さまは、僕が思っていたよりも、ずっとずっと大きな黒狐だった。
あのように穿たれているのに、瑠璃姫さまは、あんなにあたたかな狐火を出しているの……!?
僕は少し恐ろしくなって、和尚さまの衣を掴んだ。
すると和尚さまは、優しく僕を抱き上げてくれる。
「……。やはり、妖狐のお前には、少し酷であったか?」
そう優しく呟いて、和尚さまは、僕の背中をさすってくれた。
『……ううん。大丈夫』
僕は和尚さまのぬくもりを感じ、ホッと息を吐いて、その胸に擦り寄った。
僕は和尚さまの腕の中から、瑠璃姫さまを垣間見る。
瑠璃姫さまは、確かに穿たれてはいたけれど、自分の前足に大きな頭をもたげ、気持ちよさそうに眠っていた。
ふわふわの毛並みが、その呼吸に合わせて上下するさまは、あたかも春の野原に寝転がる子ギツネのようだった。
『……』
そんな瑠璃姫さまを見ていると、八つの尾が大きな杭で穿たれていたとしても、なんの問題もないかのようにも見える。
『瑠璃姫さまぁ~!』
『!』
突如上がったタマの声に、僕はビクッと身を震わせた。
そんなこととは知らないタマは、僕の後ろから、嬉しそうにピョコピョコ跳ねながら、穿たれたその黒狐にすり寄った。
小さな子猫と大きな黒狐。
その対比が凄まじい……。
「ん……? おや、タマなのかい? いつの間についてきたのだ?」
和尚さまが、わざとらしく素っ頓狂な声を出す。
……知ってたくせに。とんだ食わせ者だ。
けれどそれはタマだって気づいている。そんな和尚さまを振り返り、タマはペロッと舌を出して見せた。
「全く……油断も隙もありゃせんわい……」
和尚さまは困った笑みを浮かべたけれど、タマを叱るようなことはなかった。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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