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風花夜月妖譚【かざはな やげつ ようたん】  作者: YUQARI
第三章 お寺の奥の深い洞窟
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穿たれた黒狐

 灯りを持って来てはいなかったけれど、さっき和尚さまが言った通り、たくさんの狐火で、辺りはとても明るかった。



『すごい……キレイ……』

 僕は思わずそう、呟いてしまう。



 辺りはとても綺麗だった。


 本当なら不気味な洞窟の中。

 それなのに、ところどころに灯る、瑠璃姫さまの青白い狐火は優しく辺りを包み込む。

 洞窟の岩肌にこびり付いている柔らかな苔は、ほんのり水分を含んでいて、その水滴が狐火に照らされると、キラキラとまるで星空のように輝いた。

『うわぁ……』

 狐火に見とれながら、僕は地下へと降りて行く。


 こんなにも綺麗な狐火を作り出せる瑠璃姫とは、いったいどんな人なのだろう……? 僕の興味は、更に大きく膨れ上がる。


 凍りつくような、狭い洞窟の通路。


 けれど、ほんわかと光り輝く青白い狐火のお陰で、《怖い》という気持ちにはなれない。どちらかと言うと、ちょっとあったかな気持ちになるのが不思議だ。


 寺の庭で見た、狐火もそうだった。


 昼間でも陽の光が届かない地下に閉じ込められ、それでもなお、こうやって あたたかな狐火を作り出せるなんて、よほど精神の強い妖狐なのだろうなって僕は思う。


 どんな妖怪(ひと)なのかな……?


 洞窟の通路を降りながら、僕はひとり、瑠璃姫さまに会えるのが、とても愉しみだった。





『はぁはぁはぁ……お、和尚さま……っ。和尚さま!! ま、まだ着かないの……っ?』


 僕は息を切らしながら、和尚さまに尋ねた。


 もう随分長いこと、こうして歩いている。ずっとずっと歩き続けているのに、それなのに、なかなか瑠璃姫さまのところへつかないんだ! いったいどうなってるの!?

 お寺の洞窟って、こんなに長いの!? と僕は呆れた。


 こんなに深い地下に封印されてるなんて、瑠璃姫さま、よく平気だよね!? いやもしかして、僕たちって迷ったんじゃないの!?


 僕は唸る。

 唸りながら、心配になった。




 洞窟の中は、一本道じゃなかった。


 複雑に入り組んでいて、目の見えない和尚さまがどうして迷わずに進めるのか、僕には不思議だった。


 ううん! 絶対、迷ったに違いない!!


 でも安心して! 僕にはこの《鼻》があるから! 出口だって、瑠璃姫さまのところだって、ちゃんと案内出来るからね!


 そう思い僕は、ぴすぴす! ぴすぴす! と鼻を鳴らす。うん。大丈夫。多分なんとかなる!

 鼻を鳴らし始めたそんな僕に向かって、和尚さまは軽く笑い、口を開いた。


「ふふ、狐丸や。もしや運動不足なのではないのかい? もう、息切れを起こしてしまったのかい……?」


 袖で口許を隠し、ふふふと笑う。


 笑われて僕は焦る。

『ぼ、僕はまだ、平気だしっ! それに、息切れじゃないし! 鼻をふんふんしてただけだし!

 和尚さまは目が見えないだろう? もし道に迷ったんなら、僕が本堂に連れて帰れるから安心してって言おうと思ったんだ!』

 僕の強がりに、和尚さまは再び笑いながら、答えた。


「ふふ。それは頼もしいのぉ。しかし、それには及ばぬよ? どれ、そろそろじゃ……!」


 どれ程歩いただろう?


 寒さも(あい)まって、軽く息切れを起こしかけた頃、僕たちは広々とした空間に出た。




『うわ……』

 天井……が、ものすごく高い!


 お寺の高さの二倍はあるんじゃないかな? そこはとてもひらけていて、開放感のある場所だった。


 僕は目を見開いて驚く。


 高い天井いっぱいに大きな鍾乳石が垂れ下がり、今にも落ちてきそうで怖くなる。

 そしてそれらはキラキラと白く輝き、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 う\"……。そりゃ綺麗だよ? だけどあれ(・・)が落ちたら、僕たち串刺しなんじゃない?

 不気味に光る鍾乳石に、僕はたじろいだ。



「ふふ。凄いじゃろ? ……あぁ、一言言っておくが、天井のモノ(・・・・・)は落ちては来ぬ。

 そういう(しゅ)が掛けられておるからの」

 和尚さまは、ふふふと笑った。


 ……和尚さま、もしかして実は性格悪いんじゃないの?

『……』

 僕はムッとして和尚さまを睨む。



 青白い狐火が、上下しながら洞窟内を揺れるさまは、本当に幻想的で、僕は息を呑む。

 そして、その奥の壁にそれ(・・)はいた。


『!』


 青白い炎に照らされて、大きな漆黒の九尾が、壁の一面に(はりつけ)にされている。


 九つのうちの八つのしっぽが、大きな釘で壁に穿(うが)たれていて、痛々しい。


 僕は目を見張った。

『お、大きい……』


 瑠璃姫さまは、僕が思っていたよりも、ずっとずっと大きな黒狐だった。


 あのように穿たれているのに、瑠璃姫さまは、あんなにあたたかな狐火を出しているの……!?


 僕は少し恐ろしくなって、和尚さまの衣を掴んだ。

 すると和尚さまは、優しく僕を抱き上げてくれる。

「……。やはり、妖狐のお前には、少し酷であったか?」

 そう優しく呟いて、和尚さまは、僕の背中をさすってくれた。

『……ううん。大丈夫』

 僕は和尚さまのぬくもりを感じ、ホッと息を吐いて、その胸に擦り寄った。


 僕は和尚さまの腕の中から、瑠璃姫さまを垣間見る。

 瑠璃姫さまは、確かに穿たれてはいたけれど、自分の前足に大きな頭をもたげ、気持ちよさそうに眠っていた。

 ふわふわの毛並みが、その呼吸に合わせて上下するさまは、あたかも春の野原に寝転がる子ギツネのようだった。



『……』

 そんな瑠璃姫さまを見ていると、八つの尾が大きな杭で穿たれていたとしても、なんの問題もないかのようにも見える。



『瑠璃姫さまぁ~!』

『!』

 突如上がったタマの声に、僕はビクッと身を震わせた。

 そんなこととは知らないタマは、僕の後ろから、嬉しそうにピョコピョコ跳ねながら、穿たれたその黒狐(こくこ)にすり寄った。


 小さな子猫と大きな黒狐。

 その対比が凄まじい……。


「ん……? おや、タマなのかい? いつの間についてきたのだ?」

 和尚さまが、わざとらしく素っ頓狂な声を出す。

 ……知ってたくせに。とんだ食わせ者だ。


 けれどそれはタマだって気づいている。そんな和尚さまを振り返り、タマはペロッと舌を出して見せた。


「全く……油断も隙もありゃせんわい……」

 和尚さまは困った笑みを浮かべたけれど、タマを叱るようなことはなかった。



    挿絵(By みてみん)


           × × × つづく× × ×


   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

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