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蛍のように、光り輝く鬼火。

 しだいに夜は、()けていく。

 日が落ちきって、いったい どれくらい経っただろう?


 辺りは真っ暗になったんだけど、柳の木には瑠璃姫さまの狐火が輝いているから、練習には差し支えない。

 気がつけば、真っ暗になってたから僕は驚いた。夢中に練習していたから、ちっとも気が付かなかった。


 やっぱり、練習ってすごいよね! 少しずつではあったんだけど、僕は確実に、狐火の近くまで跳べるようになっていた。


 あと少し……っ!

 そもうちょっと……っ!



 こんなに早く届きそうになるとか、僕って凄くない!?

 目に見えて上達したのが分かるから、もう面白くって仕方がない。

 人形(ひとがた)変化(へんげ)するのも、もう夢じゃないかも知れないって思うとやめられない!


 こうやって何かに挑戦していると、何でもやれそうな気がして、胸が踊る。


 ドキドキと高鳴る胸を抑えつつ、僕は地面を蹴る足に力を入れた!




 ヒョン──!




 この時僕は、調子に乗り過ぎてたんだと思う。

 やらなきゃ良かったのに、僕は調子に乗って、獲物を狩る要領で牙を()いた。



『……うがぁーっ!!』




──ぱっくんっ!




 勢い余って、前足で触わる(・・・)はずの狐火を、前足通り越して口の中に入れてしまった。



『!?』


 うげ! やらかした……。



 まさか口に入るとか、誰が思うだろう?

 慌てて吐き出そうとする、が。




 ──ごくり。




『……ひっ!』

 勢い余って、思わず飲み込んでしまった。


 しまった食べちゃった……!



 目の前でフワフワと舞っている狐火に噛みつき、思わず飲み込んでしまった僕は、青くなる。


 他の妖怪の火って、食べたらどうなるの……!?



『……あ、あ……どうしよう。どうしよう……っ!』

 オロオロと辺りを見廻していると、弦月(げんげつ)和尚さまがやって来た。


「……狐丸? 狐丸はどこじゃ?」

 暗くなったのに僕の気配がなくて、心配で探しに来たみたいだった。

 僕は泣きながら、そんな弦月(げんげつ)和尚さまに飛びついた。


 ……当然、涙は出てないけど妖怪なんで。……でも、心は凄く焦っている。どうしたらいいのか分からなかった。



『うわーん。和尚さまぁ。

 ……ぼ、僕、狐火を……狐火を食べちゃったよう!!』


 泣きついてくる僕の言葉に、弦月(げんげつ)和尚さまは狼狽(うろた)えた。


「な、なに!?」

 素っ頓狂な声を上げる。

 その声に触発されて、僕は動揺した。


 どうしよう。

 やっぱり食べてはいけないものだったんだ!


 僕は更に青ざめる。

『うわーん。どうしよう。どうしよう……』


「き、狐丸、狐丸や?……落ち着け、落ち着くのだ!」


 一生懸命なだめてくれているけれど、和尚さまも気が動転しているように見えた。

 ううん。僕より慌てている。

 そんな和尚さまを見て、僕は更に更に戸惑った。


 うわぁーん。とんでもない事しちゃったよぅ……。



 僕と和尚さま二人、わたわたとするばかりで、解決の糸口はなかなか見いだせない。


「と、とにかく瑠璃姫に会いに行ってみるかの……?」


『瑠璃姫さまに……《会う》……?』

 僕は首を傾けた。


 そんな事、出来るんだ?

 お寺の狐火……僕が食べてしまった狐火の正体は、地下に封印されている瑠璃姫さまっていう、九尾の妖怪のものだ。


 お寺の住職である弦月(げんげつ)和尚さまも当然、瑠璃姫さまの存在を知っているはずだった。……そうだよね、僕、すっかりその事、失念しちゃってたけど。

『……』


 けれど僕は思う。そうなると和尚さまは、ただの和尚さまじゃないんだって。

 だってそもそも、(あやかし)のタマや僕を見ることが出来て、その上まったく(おび)えないって、普通の人間だったのなら、有り得ないもん。


 だってさ、僕。今まで散々怖がられたんだよ? それなのにここへ来て、ごろっと生活が一変した。


 それは単に、和尚さまが優しいからじゃなくって、妖怪に慣れてて、何かしらの対応が取れる人物だったってことだと思う。


『……』

 だから僕は思ったんだ。

 もしかしたら和尚さまは、瑠璃姫さまを知っているどころか、封印した張本人……もしくは、瑠璃姫さま……九尾の監視役であったりするのかも知れないって。



「瑠璃姫……」

 そうぽつりと言った、和尚さまの顔が曇る。

『……』

 僕に《行ってみるか》と尋ねはしたものの、本当は乗り気ではないように見えた。


『……和尚さま。瑠璃姫さまに、会えるの?』

 和尚さまの顔を覗き込みながら、僕は恐る恐る尋ねてみる。

「……」

 僕の質問に、和尚は困ったように笑う。


「あ……ああ、会えるには会える。が……」

 言って、少し黙り混む。

「……妖狐のお前が見ても、楽しいものでは無いぞ?」


 和尚さまは、もう笑ってはいない。

 悲しい表情を、浮かべていた。


『……和尚さま』

 和尚さまの様子が変だ。僕は心配になる。


 ……和尚さまが困るなら、僕は行かなくてもいいや。



 確かに、和尚さまの存在は不思議な存在だ。妖怪を見ることが出来て、恐れない。

 そればかりか、こんなにも優しくしてくれる……。


 もしかしたら、瑠璃姫さまを封じた人なのかも知れないって思って、ちょっと焦ったけれど、だけど和尚さまからは、嫌な感じは受けなかった。


 だから僕は、見も知らぬ妖狐の瑠璃姫さまよりも、目の前にいる優しい和尚さまを信じた。


 だって、ずっと一緒にいたいって思ったんだ。

 だから僕が瑠璃姫さまに会うことで、和尚さまの顔が曇るのなら、会わなくったっていいやって思った。



 ……そう、思ってたんだけど、状況が変わる。



 いきなりポワッと、僕の体が光り出したんだ!

『……う、うわ……っ』


 痛くも苦しくもない。けれど、これは なんなの!?


 目が見えない和尚さまにも、その光りが(まぶた)の裏にまで届いたんだと思う。僕が光り輝いたと同時に、ビクッと和尚さまの肩が震えた。


「! こ、これはいかん!」

 と、和尚さまは僕を抱き上げた。

 迷いなく僕を抱き上げられたのは、光ってたからだよね。絶対……。


「もう、迷ってる暇など ありはせん……っ」

 そう一声叫ぶと、和尚さまは寺の中へと急いだ。



 いつも物静かな和尚さまが、ドタドタ音を立てながら、廊下を走っていたものだから、その騒ぎを聞きつけて、タマがやって来た。

「き、狐丸!?」


 けれど話なんて出来はしない。

 和尚さまは、意外にも身軽で速かったから。


「ふにゃ!」




──ぽんっ!




 僕は抱き上げられた和尚さまの肩越しに、タマが猫の姿になって、こっそり後を追いかけて来るのを見た。


 不安に駆られている僕を安心させるためなのか、タマはそっと片目をつぶってみせる。

 けれど笑ったその顔は、緊張で引きつっていた。


 ……タマ、それってちょっと惜しい。

 でも、分かってる。僕こんな(光ってる)だから、やっぱり引きつっちゃうよね。

『……くぅん』

 僕は小さく唸った。


 唸ることしか、出来なかった……。




┈┈••❈••┈┈••❈••••❈••┈┈••❈••┈┈




 バタバタバタ……と慌ただしい足音が寺中に響いた。

 夜は慌ただしく()けていく。



 誰もいなくなった暗闇に、

 木々に取り憑いた狐火だけが


 蛍のように、淡く光り輝いていた。



    挿絵(By みてみん)


           × × × つづく× × ×


   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

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