鎮守の森
春先の夕暮れ時は、驚く程に寒い。
まるで、神様に見捨てられたような、そんな気さえしてくる。
けれど今日の僕の心の中は、春の日差しのようにポカポカだ!まさか、こんな日が来るなんて……っ!
もともと、僕は雪の中から生まれた。
だから寒いのは苦手じゃない。
むしろ、大好き! 氷の張っている極寒の池でも、水浴び出来るほど、僕は冷たいのも寒いのも平気だ。
凄いだろ?
現に水浴びは大好きで、毎日欠かさずやっている。
さっきも、寺の近くの川の淵で水浴びして来たばっかりだ。
お寺の近くにある川は、当然、山からの水。
水源に近いからか、その水はめちゃくちゃ冷たい。
前にいた場所の川よりも水がとても綺麗で、気持ちがよかった。
魚もいっぱい泳いでいて、早速、何匹か捕まえて食べた。ここにいたら僕、太っちゃうかもしんない。
そしてこの寺の境内には、樹齢数百年にもなるほどの大木が、幾つも生えている。
鬱蒼と茂るその木々たちは、まるで寺を護っているかのようで、その存在感に、僕は言葉をなくした。
──飛び跳ねて、遊んだら楽しいだろうな……。
僕が初めてこの木々を目にした時、思わずそんな風に感じた。普通の木とは、何かが違う。
何が違うのかと問われれば、その答えに困るんだけど、うーんなんて言うのかな? ……そう! まず木の形が違う。
『……』
いや、その前に木の形が違うのは当たり前だ。
むしろ《気の形が違う》と言った方が正しいのかも知れない。
曲がりくねった木々は太くて、簡単に折れそうにない。安心して身を委ねられそうだ。
《傍にいるだけで護られる。》
そんな安心感がこの木々にはある。
遊ぶのもいいけれど、木の上で昼寝……も、悪くない。ふとそんな事を思った。
《自信を持っている木》……って言うのもなんだか可笑しな気もするけれど、まさにそんな感じ。
永年、この地を護り続けて来た。《自負》みたいなものがあるように見えた。
──「この寺は、木々に護られておるのじゃ」
弦月和尚さまは、言っていた。
この古寺は、森の木々に囲まれていて、雨風、地震……色々な自然災害から、この寺を護ってくれているんだって。
──「寺だけではないぞ?」
和尚さまは言う。
木々はこの山の麓の民家や田畑も、同じように護っているのだそうだ。
雨風から人々を護り、豊富な水を恩恵を村々に与えてくれる。
まるで神さまのような、そんな森なのだと教えてくれた。
──「《鎮守の森》と言っても、過言ではないのだぞ」
和尚さまは誇らしげだった。
でも、それは、大袈裟な言い方でもなんでもない。だってそれは、紛れもない事実だから。
どこか神がかったこの森の様子に、僕は畏怖を感じたし、力強く伸びているこの木々を見ると、それは相応しい名前のような気がした。
寺の敷地に生えてるからと言って、庭木であるとは限らない。むしろ庭木として植えられたものは、一本もないのかも知れない。
長年そこにあり続け、寺や民家を護る鎮守の森。
だからこそ《自信を持っている木》に見えたんだと僕は思う。
× × × つづく× × ×




