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風花夜月妖譚【かざはな やげつ ようたん】  作者: YUQARI
第二章 茅葺き屋根の古寺
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僕の名付け親。

 僕は、グルルッ……と威嚇音を出す。

 怒りで毛並みも逆立った。


 和尚さまは、眉を寄せる。

 それが怒っているように見えて、僕は悔しくなる。


『……僕、僕はね、そんな言葉知らない』

 僕は必死に口を開いた。

 思った事を口にする。


 和尚さまの言葉はまるで、名前がないのが悪いみたいな言い方だった。それが(しゃく)に障った。


 僕の今までの生活を、全否定されてような気がして、気分が悪かったんだ。



『僕には名前がない。生まれた時から一人だった。

 だから、つけてくれる人がいなかったんだ。

 名前がないのが悪いっていうんだったら。……だったら、和尚さまがつけてよ!

 僕に名前をつけて!!』


 半分怒って、半分期待して、僕は叫ぶ。

 僕だって分かってる。名前は特別(・・)な贈り物。簡単に手に入るものじゃない。誰かが誰かを大好きで、たくさん話したいって思う時に必要になる。

 『ねぇねぇ』って呼び方じゃなくて、自分だけの、特別な《存在の(あかし)》。



『……』

 名前なんていらないなんて言ったけど、そんなの嘘だ! 本当は欲しい! 喉から手が出るほど欲しかった。だけど望んでも手に入らない。自分で付けても、誰も呼んでくれない。だから諦めてた。

 僕には、手に入れることの出来ないものなんだって!


 僕だって、……僕だって名前が欲しいんだ……!


 ……なのにそれを責めるなんて。




 僕に言われて弦月(げんげつ)和尚さまは、少し(ひる)んだ。

「う、うーむ。……しかし、わしなどがつけるのは……」


 煮え切らない反応に、僕はムッとする。

 ほら見てみろ。そうくるって思ってた。


 ……僕は少しガッカリする。期待してなかったって言うと嘘になるから。

 本当は、僕も名前が欲しい。名前をつけて貰えるかもって、ほんのちょっぴり期待した。



『……じゃあ、いらない』

 だけど誰かがつけてくれないと、僕は名前を持つことが出来ない。つけてもらう意味がない。

 ぷいっと僕は横を向く。


『今まで、なくても何ともなかったし、別になくてもいいよ……っ』

 半ば、やけっぱち。



 少しの期待……。

 その事実が僕を傷つける。



 必死にそっぽを向いて、ぷぅ……と頬を膨らませてみた。けれど心は収まらない。悲しくて悲しくて仕方がない。



 ……でも、いいんだ。しょうがない。

 和尚さまは、今日会ったばかりの人なんだから。



 今まで会話すらした事がなかった。


 それなのに今こうして、僕と話をしてくれた。それだけで、十分じゃないか。



 弦月(げんげつ)和尚さまは唸った。

「いやいや、そんな訳にはいかぬ。……」


 うーむうーむと悩んで、弦月(げんげつ)和尚さまは、ぽんっと手を打った。



「分かった分かった! それならば名をつけてやろう!

 お前の名前は、『狐丸(きつねまる)』がいい!」


『……』

 え? ……つけて、くれるの……?

 僕は目を見張る。

 ……え"。でも、《狐丸》って……。


 僕は少し尻込みする。


 けれど和尚さまは、そんな僕の反応を知ってか知らずか、とても嬉しそうだ。

 これはいい名をつけた! とばかりに和尚さまはご機嫌で、僕に微笑みかけてくる。

『……』

 けれど僕は違う。

 慌ててグルルッて、唸ってみせた。だって少し照れくさい。


 狐丸? 僕は《狐丸》なんだって……!

 けれど僕は、必死にその嬉しさを隠した。


 だって《狐丸》だよ? 見たままじゃないかっと、僕は小さく(うめ)く。


 少し、おかしかった。

 必死に笑いをこらえた。

 笑いを堪えるために、怒ってみせた。


 すると和尚さまが膨れた。大人なのに ほっぺを膨らませたんだ!


「お前がつけろと、わしに言ったのじゃ。何か文句があるのか?」

 和尚さまが僕に、ずずずいっと凄んでみせる。


 僕は、うぐっと息を呑む。



 それから和尚さまは、にやっと笑うと、僕に告げた。

「そうであろう! 文句は言えぬであろう?

 今日からお前は『狐丸(きつねまる)』じゃ。よいな?」

 和尚さまに念を押され、僕は仕方なく頷いた。



『……分かった。僕は……僕は狐丸(きつねまる)……!』

 僕は、自分の名前を宣言する。


 すると『よろしい。』と弦月(げんげつ)和尚さまは、満足気に頷いた。



 文句を言ったけれど、僕は本当は嬉しかった。

 こんなに沢山、誰かと話をしたことはなかったし、撫でられたことも無かった。

 ましてや、名前なんて……っ。


 小躍りしたくなるのをじっと我慢して、僕は和尚さまに撫でられる事を選んだ。


 ポッカリ空いていた心の中が、なんだかあたたかくなったような気がした。




 柔らかい風が吹く。


 それは、氷のように凍てつく冬の風ではなくて、

 ほんのり暖かい、春の香りを含んだ



──優しい風だったんだ。



    挿絵(By みてみん)


          × × × つづく× × ×


   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

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        更新は不定期となっております。

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