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風花夜月妖譚【かざはな やげつ ようたん】  作者: YUQARI
第二章 茅葺き屋根の古寺
18/36

名前がないということ。

『名……?』



 小首を傾げながら、僕は和尚さまを見る。

 和尚さまはそんな僕を見て、明らかに戸惑った。


「お前の名前だよ。……もしかして、ないのか?」

 和尚さまは、少し声をひそめた。


 それから困ったような顔をする。


 僕はそれを見て、ズキリ……と心が痛んだ。

『……』

 僕には、家族がいない。



 生まれた時からひとりぼっちだった。

 だから名前なんてあるはずがない。



 僕は思い切って首を振る。


『名前なんて知らないよ。僕は雪から生まれたんだ。

 雪は話さない。

 僕の近くで話せるヤツなんて、誰一人いなかったから……』


 言いながら、僕は少し(うつむ)く。



 名前がないことが、ひどく悲しいことのように思えた。

 そしてその事で、目の前の和尚さまが、ひどく困った顔をしているのが嫌だった。悲しませたのだと思った。僕は、いけない事を言ったのだと、そう感じた。


 だからどうしても この場の雰囲気から逃げ出したくなって、どうにかしてまた元のような、明るい雰囲気に戻そうと必死になった。



 僕は一生懸命考えて、ある事を思いつく。

 小さく、あっと呟いた。

 そうだ! いい事を思いついた!


『でもね、でもね! 和尚さまとは、話せるよね!

 僕ね、誰かとこんなに話した事って、今までになかったから、とっても嬉しいんだ……!』


 誰かと話したのは、初めてだよと、僕はパタパタと耳をはためかせ笑ってみせる。

 これは僕のとっておき。

 僕が生まれて一番嬉しかったこと! だから和尚さまも喜んでくれるって思ったんだ。


 僕は出来るだけ、明るい声を出してみる。だって弦月(げんげつ)和尚さまに、心配を掛けたくなかったから。



「……」

 だけど弦月(げんげつ)和尚さまは、黙り込む。

 笑いかけてはくれなかった。泣きそうな顔を僕に向けた。


 ……和尚さま? 僕は和尚さまの表情が見えるんだよ? 和尚さまは僕の顔が見えなくっても、和尚さまを僕は見ることが出来る。

 その顔を見れば、和尚さまが今、何を思っているのか、僕には手に取るように分かるんだ。

 ……だから、そんな顔、しないで……?

『……』



 そもそも和尚さまを騙すなんて、無理な話だったのかもしれない。

 僕はまだ生まれて間もないけれど、和尚さまはずっと長く生きているんだから。


 だから隠そう隠そうって必死になっている子どもの……僕の本当の気持ちなんて、きっと簡単に分かったのに違いない。


 例え僕が、不思議な力を持っている物の怪だとしても、例え弦月(げんげつ)和尚さまのその目が見えないと言っても、僕の声の震えくらいは分かったんだと思うんだ。



 だから、隠し通せるわけなんてなかった。



『……』


 必死に隠そうとしてはしたけれど、もう限界だ。


 だって、ずっと苦しかったから。

 それをなかったことにするのなんか、今更出来やしない……!


 出来るわけがない。

 そうだよ! 僕はずっと辛かったんだ……!!



    挿絵(By みてみん)


          × × × つづく× × ×


   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

     気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡


        更新は不定期となっております。

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