名前がないということ。
『名……?』
小首を傾げながら、僕は和尚さまを見る。
和尚さまはそんな僕を見て、明らかに戸惑った。
「お前の名前だよ。……もしかして、ないのか?」
和尚さまは、少し声をひそめた。
それから困ったような顔をする。
僕はそれを見て、ズキリ……と心が痛んだ。
『……』
僕には、家族がいない。
生まれた時からひとりぼっちだった。
だから名前なんてあるはずがない。
僕は思い切って首を振る。
『名前なんて知らないよ。僕は雪から生まれたんだ。
雪は話さない。
僕の近くで話せるヤツなんて、誰一人いなかったから……』
言いながら、僕は少し俯く。
名前がないことが、ひどく悲しいことのように思えた。
そしてその事で、目の前の和尚さまが、ひどく困った顔をしているのが嫌だった。悲しませたのだと思った。僕は、いけない事を言ったのだと、そう感じた。
だからどうしても この場の雰囲気から逃げ出したくなって、どうにかしてまた元のような、明るい雰囲気に戻そうと必死になった。
僕は一生懸命考えて、ある事を思いつく。
小さく、あっと呟いた。
そうだ! いい事を思いついた!
『でもね、でもね! 和尚さまとは、話せるよね!
僕ね、誰かとこんなに話した事って、今までになかったから、とっても嬉しいんだ……!』
誰かと話したのは、初めてだよと、僕はパタパタと耳をはためかせ笑ってみせる。
これは僕のとっておき。
僕が生まれて一番嬉しかったこと! だから和尚さまも喜んでくれるって思ったんだ。
僕は出来るだけ、明るい声を出してみる。だって弦月和尚さまに、心配を掛けたくなかったから。
「……」
だけど弦月和尚さまは、黙り込む。
笑いかけてはくれなかった。泣きそうな顔を僕に向けた。
……和尚さま? 僕は和尚さまの表情が見えるんだよ? 和尚さまは僕の顔が見えなくっても、和尚さまを僕は見ることが出来る。
その顔を見れば、和尚さまが今、何を思っているのか、僕には手に取るように分かるんだ。
……だから、そんな顔、しないで……?
『……』
そもそも和尚さまを騙すなんて、無理な話だったのかもしれない。
僕はまだ生まれて間もないけれど、和尚さまはずっと長く生きているんだから。
だから隠そう隠そうって必死になっている子どもの……僕の本当の気持ちなんて、きっと簡単に分かったのに違いない。
例え僕が、不思議な力を持っている物の怪だとしても、例え弦月和尚さまのその目が見えないと言っても、僕の声の震えくらいは分かったんだと思うんだ。
だから、隠し通せるわけなんてなかった。
『……』
必死に隠そうとしてはしたけれど、もう限界だ。
だって、ずっと苦しかったから。
それをなかったことにするのなんか、今更出来やしない……!
出来るわけがない。
そうだよ! 僕はずっと辛かったんだ……!!
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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