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風花夜月妖譚【かざはな やげつ ようたん】  作者: YUQARI
第二章 茅葺き屋根の古寺
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和尚さまの弓。

「その地面に弓を引いていた月が《下弦(かげん)の月》じゃよ」


『え? 下弦? 下弦って、弦が下に向いているっていう意味じゃないの? 僕が見た月の弦は上に向いていたけれど、それでも()弦って言うの?』


 僕は尋ねた。

 その言葉に、和尚さまは笑う。


「ふふ。お前は賢いの。……そうじゃ、下弦と言うのは弓の弦が下を向くから、そう名付けられた」


 和尚さまは愉しげに喉を鳴らす。


「下弦の月が狙っているのは、本当は《天》なのだよ」

『天……?』


 僕はわけが分からなくなって、頭を抱えた。


 和尚さまはそんな僕を見て、くすりと笑うと優しく頷いた。



 頷きながら、和尚さまは弓引く仕草をする。


 シュルっと衣擦(きぬず)れの音がして、袖が和尚さまの右の手のひらを隠す。

 和尚さまはそれを弓の弦に見立てて、袖の先を掴んだ。



「地に弓を向け引き絞り、沈む時に《天》を狙う。

 ……それが下弦の月」


 真剣な顔で天を狙い、和尚さまは弓を引く。




 カン──!




『!』

 ビクッ!


 僕には和尚さまの射る弓の音が、聞こえたような気がした。その音はとても悲しく響いて、僕は少し、恐ろしくなる。



『……うん。なんとなく分かった』


 和尚さまの言葉に、僕は納得する。

『そうか。引き絞らないと矢は射る事が出来ないからね……。

 じゃあ反対の上弦の月は、天に弓を向けて引き絞った後に、地に向かって矢を射るんだね?』


 和尚さまは笑う。



「ふふ、そんなところじゃ。お前は頭がいいな」

 言いながら、また僕の頭を撫でてくれる。


 褒められて、僕は得意になる。パタパタとしっぽを振った。


『じゃあ、じゃあ、《弦月》って言うのは、その二つの月のこと?』

「そうじゃよ」


 和尚さまはその言葉に、悲しげに眉を寄せながら小さく笑う。



「私は、天にも地にも、弓を引いてしまったのじゃからな……」


 和尚さまは遠くを見つめるように、顔を上げた。



『和尚さま……?』


 黙り込んでしまった弦月(げんげつ)和尚さまを、僕は少し心配しながら、その顔を仰ぎみる。


 泣いてはいないけれど、僕には弦月(げんげつ)和尚さまが泣いているように見えた。



『……』

 僕はそんな和尚さまを慰めようと思って、ぺろりとその頬を舐める。


「!」

 舐められて、和尚さまは少し驚いた様子だったけれど、すぐに笑って僕に語りかける。


「ふふ。くすぐったいの。

 そうじゃ、……お前の名はなんと言う?」


 弦月(げんげつ)和尚さまに問われて、僕は首をかしげた。



 僕は、生まれた時から一人だった。


 名前をつけて貰った覚えなんて、なかったから──。



    挿絵(By みてみん)


          × × × つづく× × ×


   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

     気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡


        更新は不定期となっております。

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