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風花夜月妖譚【かざはな やげつ ようたん】  作者: YUQARI
第二章 茅葺き屋根の古寺
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安心できる、あたたかい手。

 和尚さまの名前は、弦月(げんげつ)と言った。



 でもそれは、本当の名前じゃないんだって。


 本当の名は、何か深いわけがあって、棄てたのだと、弦月(げんげつ)和尚さまは悲しげに言った。



 何かってなんだろう? 僕は不思議に思ったけれど、その理由を聞くのはやめた。言いたくないって顔をしていたから。



 《弦月(げんげつ)》とは、《天と地に弓引く者》と言う意味で付けたらしい。


『《弓引く》……?』

 僕は小首を傾げる。


 弦月(げんげつ)和尚さまは笑って、僕に説明してくれる。



「月が形を変えるのは、知っているかい?」

 和尚さまの言葉に、僕は頷いた。


『うん。知ってる。僕が生まれた時はまん丸だったけれど、日が経つにつれて、だんだん細くなったから』


 弦月(げんげつ)和尚さまは、僕の話を聞きながら、嬉しそうに頷いた。

「そう。その欠けた月が、弓のように見えた日があったろう?」



 言われて僕は考える。


『うん。満月の後、しばらくしたら月は半分になった。月が登ってくるのがとても遅くなって、僕、眠らずに待ってた事があるんだ』


 僕の言葉に、和尚さまは驚く。


「そんなに遅くまで、起きていたのかい?」

 僕は、こくりと頷く。


『僕は、月の明るい晩に生まれたから、また月が出たら、僕みたいなのが生まれて来るのかなって、思って……』

 呟きながら悲しくなる。


『でも……誰も生まれて来なかった……』



「……」


 和尚さまは黙って、そんな僕の頭を撫でてくれる。

 あったかい……。


 その手が心地よくて、僕は頭を擦り寄せた。和尚さまの手からは、ほんのり香の匂いがして、ほっと落ち着く。


 僕はそんな和尚さまの手が大好きだ。

 いつもあたたかく、僕を迎えてくれる。


 僕が今している話は、本当は悲しい記憶なんだけれど、和尚さまの傍にいれば、懐かしい記憶となって、話す事も出来た。


 今は違う。

 今は、優しい和尚さまの傍にいられて、僕は幸せだから。だから悲しい記憶も笑って話せる。

 僕は小さく微笑んだ。



『その時出てきた月はね、まるで地面に弓を引いているようだったの。

 しなる弓が下を向いていて、真っ直ぐな弦が上の方にあって……』


 だからその時 僕は、それを見て納得したんだ。


『きっとね、月が地面に向かって矢を(つが)えて待っているから、生まれてくるはずの僕の仲間は怖くって、生まれて来れないんだ……って、僕、そう思ったんだ』


 目を閉じながら呟く。少し、声が震えた。



 その時の事を思い出すと、心が壊れてしまいそうなほどに痛くなる。

 ぎゅっと体を丸めて、震える体を必死に押さえた。




──でももう、ひとりじゃない。




「そうか。お前は、寂しかったんじゃな……」


 和尚さまが呟きながら、僕の頭を優しく撫でてくれた。


『……』

 僕は答えず、ただその手に擦り寄った。



    挿絵(By みてみん)


          × × × つづく× × ×


   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

     気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡


        更新は不定期となっております。

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