夢のような出来事……!
和尚さまの手のひらはとても優しくて、あたたかくて、幸せな気分になる。
僕は、ゆっくり目を閉じた。
「柔らかくて、あたたかい。
そして、この大きなしっぽ!
……うーん。そうだな、お前はキツネか?」
『当たりっ!』
撫でられると、とても気持ちがいい。
僕はスリスリと和尚さまに、頭を擦りつけた。
「……お前の家族はいないのかい?」
撫でながら和尚さまは、僕に聞いた。
僕は首をかしげる。
『家族ってなぁに?』
「《なぁに?》ってお前……」
僕のその言葉に、和尚さまは少し戸惑って、言葉を考えながら口にする。
「一緒に暮らしている者のことだよ」
静かにそう言った。
言われて僕は、『そんなのいないよ!』と膨れて言い返す。
『僕は、最初から一人だったから』
その言葉に、和尚さまは少し驚いた様子を見せ、すぐに悲しげな微笑みを浮かべた。
そうか、それだったら……と和尚さまは呟く。
「ここで、私と一緒に過ごさないかい?」
『!?』
願ってもない言葉だった。
僕は驚く。
そんな事を言ってくれる人なんて、今まで一人としていなかった。
……まぁ、話せたのは、和尚さまが初めてだから、当たり前と言えば当たり前なんだけど……。
だけど待て待て、喜んじゃだめだ。今までだって、そんなことなかったじゃないか。期待すればするほど、傷つくもんなんだぞ!
僕は自分に言い聞かせる。だけど、だけど……。
『い、……いいの……?』
上目遣いで、僕は和尚さまを見上げた。
誘惑に負けた。
僕はこのお寺で、和尚さまと過ごしたい……!
「あぁ、お前さえ良ければね……」
困った顔で、……けれど泣きたくなるほど優しい声で、和尚さまは言った。
僕は、小さく頷く。
とても嬉しかった。思わず目頭が熱くなる。
もしかしたら、嬉しくても泪は出るのかも知れない。そう思った。
『……』
あぁ、でもこれはもしかして、夢かも知れない……。いや、きっとそうだ。僕は夢を見ているのに違いない。
僕は慌ててゴシゴシと顔を掻いて、再び顔を上げた。
『……』
けれどそこには、優しい和尚さまの顔があって、僕をあったかくて大きな手で撫でてくれた。
夢じゃない。
これは、夢なんかじゃない。
それに、寝ぼけているわけでもない。
目の前の和尚さまは、確かに優しく微笑んでいてくれている……!
たとえ夢でも、このまま覚めないで欲しい……!!
僕は、笑った。
多分、変な顔だったに違いない。
……いいんだ別に。
だって和尚さまは、目が見えないんだもの。
『うん……!』
ひとりぼっちだった僕は、自分を恐れない人間を見つけて、幸せだった。
だけど和尚さまは、このとき少し、悲しそうに目を細めた。
僕が何者であるか……、和尚さまにはそれが分かっている。
分かっていなければ、言葉を話すキツネなど、怖くて相手になど出来ないはずだ。
分かっていて、僕と共にあることを選んでくれた。
「……」
和尚さまは、もう見えなくなった目で、本堂の奥を見つめた。
いつしか笑みが消える。
当然、和尚さまは人間だ。
物の怪ではない。
けれど、僕を恐れない。
正体が、分かっているのにも関わらず。
そして僕を恐れない和尚さまもまた、ただの人であるはずがなかった。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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