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第二章 《たった一人の覇循軍》-2

〈アスラトル〉の刃が、コーダの乗る〈センティ〉を貫いた。

 むろん、操縦者からはぎりぎり外している。ブレードを引き抜けば、力なく敵機は倒れていく。見事なまでに、操縦系統は破壊されていた。


「さて、準備運動は終わりだ――が、ふむ。全員倒してしまった」


 壊れたゼミウルギアから脱出したコーダたちは、峡谷を脱兎のごとく駆け抜ける。


「……すごいわね。あれだけゼミウルギアは壊れてるのに、誰もケガをしていない」


 全員が逃走し、ミクトルが追撃を加えることもない。

 テーレが前の操縦席から身を乗り出してミクトルのほうへ振り向く。どうして、という問いかけの視線が向けられると、ミクトルはおもむろに答えた。


「残念ながら生身の人間に手を出しては、覇王の沽券に関わる。それに――」


 と、テーレに向けて指を突きつける。



「お前が血を見たい性格だとは思わんからな」



 彼女は四輪車が破壊されたことに憤ってはいたが、やりすぎるなとも忠告した。優しさか、甘さか。どちらであったにしても、彼女が過剰な報復は望まなかった。

 ならば、王たる者として臣下の些細な願い程度叶えてやれないなど器が知れる。ましてあの程度の敵、それこそゼミウルギアなど使わなくても勝てるだろう。


「あれだけやられれば、コーダの一味もしばらくは静かでしょうね」

「ならばやることがあるな。ここは少し目立たぬようにしておく必要がある」


〈アスラトル〉を遺跡のほうへ向けると、ミクトルの体表から法力が溢れる。

 何をしているのかテーレにはわからなかったが、しばらくすると〈アスラトル〉の前方に光の板が多数出現した。それはまた、現代にはない技術だ。


「今度は空中投影ディスプレイ……ロストテクノロジーが湯水のように出てくるわね」


 驚き疲れたのか、若干呆れたようにテーレは言う。

「オレの時代でも最先端技術だったがな。ただ、この基地のシステムはオレが知っているものより発展している。いくらかの年月、誰かがシステムを更新してくれたらしい。俺の法力で起動できるように登録はしてあるが、俺も知らん技術が多い。アスラトルを使って、少し調べてみる」

「あなたを、冷凍睡眠させた人がこの場所を改造し続けたってこと?」

「多分な。オレを起こすのを忘れて、一万年間放置されたわけだが。何々……ああ、なるほど、光学迷彩と物理障壁の二重障壁だな。機体の認証を設定しておいてと」


 画面に流れる情報は全て古代語であり、テーレには時間さえあれば読み解くことはできるだろう。だがこの短時間では不可能だ。

 対してミクトルはやはり見知った言語であるためか、すらすらと読み解いていく。


「これで完了だ。シャッターを閉じれば、他の奴らには見つけられんし、開けられん」


 彼の言葉通り扉は閉じられ、光学迷彩が覆い隠す。遺跡があった痕跡は全く分からない。


「すごいわね。光学迷彩なんて、欠片も残ってない技術よ」

「オレの時代でも巨大施設でしか運用できなかったからな。あまり実用的ではなかった」


 それでも入り口を閉じれば、不届き者が侵入することもない。

 たとえ谷の上に誰かがいてこの光景を見ていたとしても、現代式ゼミウルギアの武装でシャッターを破ることはできないと、ミクトルは豪語する。


「ごめんなさい、ミクトル。なんだか、いろいろお世話になって」

「ん、気にするな」


 ふいに、そんな言葉がテーレから聞こえてくる。ミクトルは軽い調子で答えた。


「部下に送迎されなければ一歩も外に出られん王ではなかったのでな。部下を助けることもよくあったし、よく城を抜け出しては、街で遊んでいたりもしたし」

「それ絶対親衛隊とか家臣の人たちにあとで怒られる奴よね」

「おお、どうしてわかった」

「わかるでしょ!」


 一万年前の世界で暮らしていた時と、ミクトルの調子は変わりがないのだろうとテーレは理解した。

 郷に入っては郷に従え、という故事があるが、彼には適用されないと確信もした。

 幸いにも一人では何もできないおぼっちゃまというわけではないようなので、その気になれば一人で生きていけそうなくらいだ。

 だけどそれは、()()()()()()()()()()


 ……彼と、このゼミウルギアなら、辿り着けるかもしれない。


 ぐぅっ、と拳を握る少女の顔は、少しだけ険しくなった。


「車は壊れてしまったが、お前の家までは、アスラトルで移動するか」

「あ、そうね! お願いするわ。街まではゼミウルギアなら数時間もあれば着くから」


 本来なら彼女の四輪車で移動するはずであったが、無理だろう。それでもテーレは玉座だった荷台に乗せ、持って帰ると主張した。


「大切なものなら、置いてはいけんな。それはともかく――」


 そこまで言った時、ぐぅぅぅぅ、と長い音が鳴る。


「とりあえず、オレは腹が減ったぞ」

「ならちょうどいいわ。とてもおいしいレストラン、案内してあげる」


 本当か、とわずかに身を乗り出したミクトルの目が、妙にギラギラとする。


「楽しみにしておいて。一万年後の世界は、あなたの時代よりおいしいわよ」


 自信たっぷりな、テーレであった。

 ひとまず、コーダたちのゼミウルギアに残っていた非常食で空腹を紛らわしておくと、〈アスラトル〉は荷台を引きながら走り出した。



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