少年と悪魔
空海少年はこの三日月墓地によく遊びに来ていた。
何をするかといえば、何をするでもない。
ただ墓石に腰を下ろし、静かに飽くことなく空を眺めていた。
当然、この墓地にいるすべての者は困惑した。
ある日、好奇心が手伝って、この墓地で最古参の死霊が彼に話しかけた。
少年は驚いているようであったが、落ち着き払って言葉を紡ぎ始めた。
この墓地で二番目に古い死霊も話しかけた。
こうして死霊達と空海の交流が始まった。
誰かが初めににそうしようと言ったわけではない。
いつの間にか、皆がしていた。
それは奇跡と呼べるものだったかもしれない。
死霊たちは、少年がこの場所で空を見上げる時には、できるだけ優しい風を吹いてくれるように風にお祈りをした。
死霊たちは、少年がこのジメジメとした暗所で、風邪をひかないように、できるだけ暖かい陽だまりを作ってくれるようにと太陽にお祈りをした。
死霊たちは、少年が今夜良い夢を見ることができるようにと星にお祈りをした。
死霊たちは、死で満ち溢れているこの場所が、少年にとって、いつか光をつかむための礎となるようにと神にお祈りをした。
しかし、悪魔エドガーはそれを許さなかった。
悪魔エドガーは人間が嫌いであった。
人間はおびただしくひしめきすぎていること、小理屈で利害を守ろうとする勘定高い者で溢れかえっているところが癪に触った。
悪魔には珍しいことであるが、エドガーには情熱があった。
どうせならこの地球すべての都市を恐怖美の悪戯で貫きたい。
つぶさに潰していくなどの手心は一切加えない。
つまりは、引導を渡したい、プレゼントしたいと思っていた。
エドガーは今それだけの力が自分にはあると自覚し、一つずつ町を滅ぼしていこうと考えた。
今夜もちっぽけな島国の町を一つ滅ぼしてみた。
たった一人の少年を除いて。
エドガーはその少年に興味が湧いていた。
人間がこの世ならざる者に祈祷するのはよくあるが、逆は初めてである。
ちょうど納車されたばかりの新車もあったことが、好奇心を後押しすることになった。