月の昇る頃に③
午後11時半。
目覚ましのアラームが鳴った。
空海は大きく伸びをうって、ベッドから出た。
隣の部屋にいた母親の元へ向かう。
「お母さん」
「なぁに」
眠そうな顔の母親が答える。
「僕ちょっと出かけてきていい」
「どこに行くの」
「赤いスポーツカーの置いてある所に行くんだ。僕どうやら選ばれちゃったみたいなの。だからどうしても行かなくちゃいけないの」
「空海あなた何を言っているの。お母さん、まるで意味が分からないわ。赤いスポーツカー?あなた今何時だと思っているの」
やっぱり取り合ってくれないかと空海が鼻白んだ瞬間、窓の外が、急に真昼のように明るくなった。
なぜ急に明るくなったのか疑問はある。
しかし、空海にとって今大事なことは、あの赤色のスポーツカーであったため、疑問は後回しにすることにした。
「お母さん、今は午前11時半だと思うの。午後じゃなくて午前なの」
空海の言葉に母親は突然呆けたような顔になった。
口角からも涎が垂れ始める。
「そうね、お母さん間違っていたわ。今日は6月66日の午前11時半だったわね。すっかり忘れていたわ。死ぬほど恥ずかしい」
今日は8月5日である。
母親は2ヶ月繰り越しの読み方をしていた。
「とりあえず行ってくるね」
「ええ。空海も車には気をつけるのよ」
外に出ると、先程まで明るかった空が夜空に戻っていた。
満月も浮かんでいる。
空海は目的地へと歩き出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
時刻は午後11時半。
陸は町の中をさ迷い続けた。
誰か助けてくれる人を探すために。
しかし、町から光は消え、人や車の往来もなく、閑散としてしまっていた。
つんとした硫黄のような匂いも鼻につく。
陸は何度も何度も同じ場所を走らされていた。
時折、見たこともないはずの建物や道路が出現することもあった。
陸は後ろを振り返った。
いつからか、自分の背後には三日月墓地がまるで影のようにピトリと張り付いていた。
空海も同じような奇怪に苛まれているのだろうか。
空には満月。
その下に三日月。
物事には必ず理由がある。
陸は三日月墓地へと向かうことを決心した。