第一章「午後2時」
初めまして。
こののべ かたな と申します。
初投稿で拙く感じると思いますが、皆さまのお暇潰しの一助になることができればこれ幸いです。
これは太陽が頂点を過ぎた頃のお話である。
ある町で、一生仲良しでいようと誓った二人の少年がいた。
並んで話をしながら通りを歩いていると、歩道際に停められた一台の見慣れない車。
知らず知らずのうちに、空海の視線はその車に引き寄せられていた。
見惚れてしまう。
こんな格好いい車がこの世には存在したのか。
つい青空に問いかけてしまうほどに、その車は彼を惹きつけた。
太陽の輝きをグッと吸い込むかのような深紅のボディーカラー。
スピードを追求するため贅肉を削ぎ落としても、尚且つ感じられるグラマラスなフォルム。
空海は意気軒昂として、その車を思わず触り始めた。
高揚感溢れるままに「スゴイ、スゴイ」を連呼する。
空海は前部座席の窓ガラスの方から車内を覗き込んだ。
父親の車とはまるで違う。
「もう行こうよ」
あまり気が進まないらしい顔つきで、もう一人の少年である陸が声をかける。
本当はもっと見ていたいんだけどなぁ。
不本意ながらも渋々と空海は陸に従った。
でも本当に格好いい。
こんな車に乗っている人は一体どんな人なんだろうと想像を巡らせては、後ろ髪を引かれる気持ちで、空海は何度も車を振り返った。
陸が少し先で「何してるの」と目顔で示す。
この近所では初めて見かけた車である。
放置車両などではない。
この近所には"三日月墓地"と呼ばれる三日月地帯の墓地がある。
きっと誰かが法事か何かでお墓参りに来ているのだと空海は考えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
陸は、自分が分裂しそうになるのを感ずるほど、震えていた。
どうしてだろうと考える。
まるで説明不能という病に深く打たれてしまったかのような感覚であった。
さっきから震えが止まらない。
もしかすると、この車のせいじゃないだろうか、と陸は考えた。
空海の目を引いたこの車。
空海がさっきから触っているあの車。
あぁ駄目だよ、こんなに高そうな格好いい車に、そんなにペタペタと手形をつけちゃあ。
普段の陸なら、きっとそう咎め、諭したことだろう。
でも今はそうしなかった。
どこで引っかかっているのだろう。
この車、気持ち悪い?
この車さっきから僕らを見つめているような気がする。
もしくは、僕らを値踏みしているような気がする。
この名状しがたい感覚をおさめる言葉を、無意識の海からうまく拾い出せないことが、陸をむずがらせた。
でも知っている。
大切なのはどれだけ言葉をかじっているかではない。
どれだけ物事を素直に感じ取ることができるかだ。
空海が運転席の窓ガラスの方から車内を覗き込んでいる。
やめてほしいのになぁ。
えっ?
陸は一瞬奇妙な顔を見たような気がした。
空海が覗く窓ガラスに映った空海の顔。
どうして笑っているの?
どうして僕の方を向いているの?
そして、それは陸そっくりの顔をしていた。
陸は瞼をゴシゴシとこすった。
大丈夫。今度はちゃんと窓ガラスには空海の顔が映っている。
でも、もう気分が悪かった。
父親の車とはまるで違う。
この世にはない雰囲気を醸し出している。
「もう行こうよ」
陸はたまらず、空海にそう声をかけた。
名残惜しそうな顔で空海が振り向いたその瞬間、
曰く、"気味が悪い"
陸は先ほど表す術のなかったこの車に対する第一印象を明確に表現することができた。
そう、これは気持ち悪いのではなく、"気味の悪い"感じと置き換えられなくてはならない。
陸が筋の通った答えらしきものに確言できたのは、この近所にある"三日月墓地"のおかげであった。
この車は三日月墓地と同じ感じがする。
曰く、"死に満ちている"
我ながら決定力のある言葉だと思えた。
陸はまだ渋った視線を送ってくる空海を、断腸の思いで車から引き離した。
「またね」
視線を背中に感じながら、どこかで機械のような声もした。
空耳がしたんだと勘違いをしたかった。