51話 天才少女と鬼の痕跡
いろいろと様子のおかしい千鶴さんだったけれど、結論を言えば特に問題もなく宿に帰って来た。綾さんは顔には出さない様にしていたけれど、かなり不安だったみたいで、千鶴さんの姿を見た時に安心したように息を吐いていた。そんな綾さんを千鶴さんが見逃すはずもなく、まるで教師が可愛い生徒を見るような慈しみの籠った視線を綾さんに向ける。先生オーラ爆発だ。いつものことだけど。
「ふふ。大丈夫ですと言ったでしょう?」
「それでも心配なものは心配だったの。それで、何かわかったことがあった?」
綾さんが千鶴さんから恥ずかしそうに目を逸らす。大人になっても千鶴さんの先生パワーには勝てないらしい。言動が完全に子供だ。恐るべし。千鶴先生。
「妹ちゃん、何か変な事考えてない?」
「全然考えてないよ!そんなことよりも、今は千鶴さんの報告を聞かなきゃでしょ!」
じと目で私を見詰める綾さんからそそそっと視線を外す。それと同時に、帰って来たばかりの千鶴さんに洗浄魔法をかけて汚れを払った。千鶴さんが魔法を使った私に可憐な笑みを浮かべながらお礼を言う。
……マジ見た目だけなら清楚なお嬢様!性格とか教養的なところでも、私達の中では一番お嬢様かな?
「きゅい」
「わぷっ!?」
千鶴さんのことを見ながらぼーっとしていると、突然頭の上にどすんという衝撃と共にもふもふなうさぎが乗っかって来た。衝撃はしたのに重みは感じないという不思議な感覚だ。あんまり気にしなかったけど、これも魔法なのかな?あと、頭に居てもわかる超もふもふだ。とても文字で表せない魔性のもふもふだね。
「そういえば、ルナちゃんも千鶴さんと一緒だったんだよね。怪我とか汚れてたり……してなさそうだね」
「きゅい」
当然と言わんばかりに、きゅいと鳴きながら頷くルナちゃん。いや、私の頭に居るから頷いたかどうかは分からないけどね。魔法も使えるってことは自分で洗浄魔法とかも出来るんだろうね。今までに私がやってあげたこと一回も無いし。
っと、そんなことをしているうちに、千鶴さんが武器や防具の類を部屋に置いてある道具入れの中に仕舞い終わり、服装も室内用のラフな格好になっている。着替えはやっ!
「それでは、私が調査した内容を共有しましょうか」
「その話はもう少し後にしよ?千鶴さんは先にごはん食べないと。私達はもう夕飯食べたからね。綾さんも良いよね?」
綾さんもそれでいい頷いたのを見て、私は収納袋から取り出して携帯食を千鶴さんに手渡していく。千鶴さんは「ありがとうございます」とお礼を言いながらそれを受け取った。そして、そのまま食事をしながら…といっても、私みたいに口の中でもぐもぐしながら喋るようなはしたないことはしない…私達と別れた後のことを話し始める。食べ終わってからでも良いのに…。とは思ったけど、話し始めてしまったのでそのまま聞いておくことにする。
「皆さんと別れた後、魔物を避けながら森の奥に向かいました。道中で戦闘は一度もしていません」
「さすが千鶴さんだね~」
「それは過大評価です。私の眼と索敵能力に隠密能力程度では、全ての戦闘を避けるのは無理ですよ。今回はルナちゃんが先導してくれたおかげです」
「ルナちゃんが?」
……普段あまり協力的じゃないこのうさぎが手伝ってくれたってこと?
「先に魔物が居る時や危険がありそうな時に、小さく鳴いて教えてくれただけですよ」
そういえば、度々ルナちゃんがそうやって危険を教えてくれた時があったね。あれってお願いしたらやってくれるんだ…。今度お願いしてみようかな。
「それで?なにか見付けたんですか?」
「ええ。収穫はありました。ですが、私は鑑定が出来ないので本当に収穫なのかどうか確認するために、輪音さんに鑑定してもらおうと思いまして…えっと…これです」
千鶴さんがポケットから取り出したのはなにかの欠片のようなものだった。ぱっと見は、角の先端っぽい?角うさぎ……なわけ無いよね。千鶴さんが私に鑑定しないとわからないと言うくらいだから、たぶん私達が今までに見たことのないもののはずだ。
……ま、考えるより行動するべし。さっそく鑑定してみようかな。
私の持っているユニークスキル〈異世界の天才少女〉(天才じゃないし、もう少女って歳でもないよ!)の能力のひとつ、〈鑑定眼・科学〉。どの辺が科学なのかよくわからないけど、鑑定したものの名前と性質、そして構造を調べることが出来る『魔眼』を使って、千鶴さんが持って帰って来た角の欠片っぽいものを鑑定してみる。するとこんな感じの結果が出た。
【名前】鬼の角(欠片)
【特性】魔力を貯めることが出来る、また使用する際の補助機能もある。
言葉で纏めるとこんな感じかな。構造に関しては骨みたいなものと魔力体がごっちゃになった感じ。今回は特に関係無い情報だからスルーで良いでしょ。
ちなみに、私の鑑定眼はユニークスキルということもあってかなり強力なんだけど、なんでも鑑定出来るわけでは無いみたい。
というのも、実は私達の中で使用者本人である私以外は本人の許可がないと鑑定出来ないの。たぶん、異世界系ユニークスキルの能力の一つである、〈特異体質・異世界人〉の全状態異常無効が影響しているんだと思うけど、確証はない。情報を調べられることが状態異常扱いなのか分からないからね。
それに、ルナちゃんも鑑定出来ない。ルナちゃんに至っては鑑定しているのがバレたみたいで、思いっきりうさパンチされた。めっちゃ痛かったからもうやりたくない。どうせ鑑定出来ないだろうし。
そんなわけで、たとえユニークスキルであっても、何かしらの方法で鑑定をレジストされることはあるということだ。ルナちゃんは魔力も相当多いらしいから、ひょっとしたら魔力量がとても多い相手には鑑定しにくい可能性もある。何はともあれ、現状では検証が難しいから確かめようがない。もっといろいろなものを鑑定して成功と失敗の例を集めて行かないとね。
今は鑑定のことは置いといて、鬼の角について分かったことをみんなにもわかるようにスマホで纏めておこうか。
私は鑑定した内容をスマホのメモ機能に書いて、それをみんなに見せる。綾さんと千鶴さんが覗き込むようにしてスマホを見て内容を確認すると、二人そろって難しそうに顔をしかめた。
「鬼。鬼ねぇ…」
「たしか、私が読んだ本では、ここからずっと東にある公国でしか見られない魔物で、現地では妖と言われているそうですよ。ゴブリンが独自に進化した個体ではないかとも言われていますね」
「さっすが千鶴さん!物知り!」
「いやいや。妹ちゃんも読んだやつだからね?」
「え?そうなの?」
たしかに、魔物についてたくさん書いてある本を読んだような…?あんまり興味がわかなかったから記憶に全然残ってないよ。
私が記憶の彼方にうっすらと残っている情報を手繰り寄せている間に、綾さんと千鶴さんが私を置いて話し合いを始めていた。どうせ私が混じってもまともに応えられないし、いつも通りおまかせしておこう。あ、ちゃんと話は聞いているから大丈夫だよ。こういう時に〈並列思考〉は便利だね!
「妖ってたしか、公国領土から外には滅多に出ないんじゃなかったっけ?これ外交問題とかにならない?」
「魔物が外に出てきただけでさすがに外交問題にはならないと思いますが…。それでも、公国側に問い合わせくらいはするかもしれませんね」
「公国の領土からここまで相当な距離だよ?熱帯雨林地帯に来るまでにもっと強い魔物が居る国境付近の深い森まであるのに、こんな場所まで公国の魔物が出てくるのはどう考えてもおかしいじゃない?」
「それを考えるのは私達ではありませんね。その辺りの面倒事ギルドに投げて、私達が関わるのは避けた方が良いでしょう」
「きゅい~」
「もふもふだね~」
上の空でぼんやりと綾さん達の話を聞きながらルナちゃんをもふもふする。今日は機嫌が良いのか、もふもふしても逃げて行かない。えへへ~やり過ぎないように気を付けながら堪能しよう~。
「もう…。妹ちゃん見てると真剣に考えているのがあほらしくなるね~」
「ああ見えてしっかりしているところはありますからね。気を抜いている時くらいは良いでしょう」
ん?いつの間にか私の話になってない?私が綾さん達の方に顔を向けると、まるでペットと戯れる子供を見るような目でこちらを見詰めているのに気付いた。…そんなに私って子供っぽい?そんなことないよね?見た目的なものだよね?
結局、鬼の角の欠片については、翌日兄様に相談した上でギルドに報告することになった。でも、これが調査対象のものなのかは分からないから、同じ鬼の痕跡が他にもないか、はたまた、また別の地域の魔物の痕跡が見付からないか再度調査することになった。




