41話 天才少女と旅の始まり
翌日。私達は宿の一階にある食事処で今後の予定を決める話し合いをすることになったのだけど…その前に気になったことを聞いてみることにした。
「そういえば、昨日は熾天使さんに会ったけど、おねえちゃんについて何も聞かなかったね?」
ルナちゃんを月の領域に届けた(結局一緒に帰ってきちゃったけど)ことを理由に、なにか聞き出せるかもと話をしていた筈だけど、誰も話題に出さなかった。まぁ、私もその一人なんだけどね。
私の疑問に綾さんと千鶴さんが目を合わせた後、お互いに肩を竦めた。
「恐らくは何を聞いてもはぐらかされるか、知らないふりをされるのではないかと思ったので、私からは聞きませんでした」
「私も千鶴さんと同じ理由かな。こっそり〈思考誘導〉も使ってみたけど、なんの影響も与えられなかったし」
「こっそりなんてことしてるの!?」
「えへっ」
えへっじゃないよ!バレたら私達は捕まっちゃうかもしれないじゃん!
「やっぱり聖人と言われるだけあって、精神作用系は効きにくいみたいだね。私の〈思考誘導〉も万能じゃないってことが解ったよ。それと、直接口でいろいろ聞いても良かったけど、彼女みたいな腹黒なタイプはやりにくいんだよねぇ」
あー。表向きは優しくて気さくで明るい人だけど、内面はもっと冷めてる性格だって綾さん言っていたもんね。そういう人は綾さんでも情報を聞き出しにくいんだね。あれかな?同じ腹黒タイプだからかな?
「…妹ちゃん、何か失礼なこと考えてない?」
「ふぇ!?考えてないよ!綾さんが腹黒とか思ってないよ!」
「ほぅほぅ。妹ちゃんはそんなこと考えていたのか~」
「あっ!」
くっ!流石綾さん!私が考えていたことがすぐバレてしまったよ!
「口の軽い輪音さんにチャックの仕方を教えるのは後にするとして…」
え?後で何かされるの?千鶴さん直々の指導は嫌だよ?
「昨日は私の考えをとりあえず述べておきましたが、実際にこの後どうするのか決めなければなりませんね」
「そうですね」
私と綾さんがじゃれているうちに兄様と千鶴さんが本題を話し始める。私達もすぐに話に参加をするためにじゃれるのを止める。あんまり遊んでいると千鶴さんから笑顔の指導が来るかもしれないからね。真面目なところでは真面目にやらないと。
「熾天使様が仰っていたこの世界に順応すること…まずはこれを最優先にすることが肝心だと私は思います。月代さんを本格的に探すのはその後でも良いでしょう」
「ある程度は平行して情報を集めても良いと思うけど、今のところは情報の集めようも無いし、仕方ないか」
……綾さんって私以上におねえちゃんに固執しているような気がするよね?詳しい話は聞いたことないけど、何かあったのかな?
私は昔からおねえちゃんっ子だったから仕方無いとして、綾さんがおねえちゃんと関わりあったのって高校時代の三年間だけだよね?んー、おねえちゃんが無意識に何かやったのかな?いつか聞いてみたいよね。
私がおねえちゃんと綾さんの関係について考えいる間にも話が進んでいき、満場一致で全員分のデバイスを作ることを最優先にするということになり、次の目的地は紹介状も貰ったので獣王国にあるという『知識の塔』に向かうことに決まった。
国境を越える乗合馬車はとても本数が少なく、一ヶ月に一、二回ぐらいしか訪れないみたいで、他に馬車に乗って行く方法は行商人と交渉して同乗させて貰うか、冒険者として行商人の護衛依頼を受けるしかない。徒歩という方法もあるけど、私が体力的に厳しいから却下となった。
結局、乗合馬車が来るタイミングになりまでちまちまと依頼をしたり、私はデバイスを作るための構想を練ったり、調合の練習をしたり、新しい魔法の開発をしたりして時間を潰す日々が続いた。もちろん、旅支度もしたよ。収納袋が手に入ったおかげでかなり余裕を持って準備が出来るようになった。月の領域の主様々だね!
そして、ようやく国境を越える乗合馬車がやって来て予約をとり、出発の日がやって来た。
「んー!次は獣王国だっけ?獣人さんの国なんだよね?楽しみだなぁ」
宿から乗合馬車に向かう途中、私は大きく伸びをしながらそう呟く。荷物の殆どは収納袋の中にあるから、他のみんなも軽装だ。
それにしても獣人!トリアさんも獣人だったし、冒険者の中にもちらほらと見掛けたし、聖国内でもたまに見掛けたけど、獣人の国となるとまた違うよね!
猫耳に犬耳にそれ以外にも沢山…トリアさんも尻尾があるらしいから、猫獣人とかの尻尾もあるんだよね!?う~早くみたい!
「はぁ…目をキラキラさせてる妹ちゃん、かわいいなぁ」
「貴女も大概、節操のない人ですね」
「その言い方は失礼だなぁ」
「きゅい!」
「あいてっ!?」
突然頭に強い衝撃があり何事かと上を見ると、ルナちゃんが私の頭の上に飛び乗った衝撃だったようだ。…本当にただ飛び乗っただけ?すごく痛かったんだけど?
「あはは。ぼーっとしながら歩くと危ないだろって言っているんだよ、きっと」
「きゅい」
兄様の言葉にそっぽを向きながらも肯定するように鳴くルナちゃん。
そして、ルナちゃんは役目は終わったと言わんばかりに私の頭からすぐに飛び降りて、足元をちょろちょろとし始めた。
そんなことをしながら歩いているうちに、私達が乗る乗合馬車が見えてきた。国境を越えるのはかなりの距離で危険も伴うからか、他の馬車よりやや大きくて丈夫に出来ているからすぐに判別出来る。
「ついに、異世界で本格的に旅を始めるんだね」
「うん。気を引き締めないとね」
「私達の選んだ道です。最後まできちんとやり遂げますよ」
「ああ。それじゃあ、行こう!」
最後に兄様がきっちりと締めて、私達は各々馬車に乗り込む。まだ馬車の中の乗客はまばらだ。出発までもう少し掛かるだろう。
私は目を閉じてこの世界に初めて来た時のことを思い出す。あの時のおねえちゃんによく似ていた人。まだ手掛かりは何も無いけれど、いつか絶対。見付けてみせる。たとえそれがおねえちゃんとはなんの関係が無い人だったとしても。
決意を新たにしていると、気付けば馬車の中の乗客が多くなり、御者から出発の合図が掛かった。馬車がガタコトと音を立て、慣れない振動をしながら進んでいく。
私達を乗せた馬車は私達のそれぞれの想いも載せて、聖国と獣王国の境界門へと走るのだった。




