表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/74

39話 天才少女と熾天使と従属のペンダント

「つ、つい、た…」


「お疲れ様~、妹ちゃん」


「輪音さんがこの状態ですし、まずは適当なお店で一休みしましょうか」


「そうですね」



 地獄の馬車旅を終えて聖都に帰還したよ!今回は『白の夕霧』が居なかったから、道中の魔物退治は私達が担当することになった。それにしても、毎回通る度に魔物に襲われるなんて物騒だよね。だからこそ、冒険者を護衛も兼ねて乗客に入れることが多いらしいけど。冒険者側も依頼は受けないけど、運賃を安く(場合によっては無料)にしてくれたりするからお互い利があるんだよね。もちろん、正式な護衛依頼で同乗するパターンもあるよ。魔物が出なかったら依頼者側が大損だから乗り合い馬車で依頼する人は少ないけどね。



 それでやっと聖都まで戻ってきたのは良いんだけど、私は馬車の揺れのせいで相変わらず絶不調な状態。そんな状態の私の為に、千鶴さんの提案で宿を確保する前にまずは近くのカフェで休憩することになった。



 適当に注文を終えてテーブルの上でぐたーっと伸びていると、テーブルの上にちょこんと座っているルナちゃんと目が合った。でもルナちゃんはすぐにふいっと顔を背けて千鶴さんのところに行ってしまう。



「…なんだかここ最近は千鶴さんに懐いているね」


「ルナちゃんの話?」


「うん」


「俺には初めて会ってから触ったことも無いけどね」


「兄様は嫌われているよね」


「特に何もしていないのだけどね」



 本当に不思議なんだけど、初めて会った時から何故か兄様には見向きもしないんだよね。兄様も無理に触りに行くような人じゃないから、傍から見るとお互いにけん制し合っているような感じに見える。



 ルナちゃんの懐き度(私の見立てで)は千鶴さん>綾さん=私>>越えられない壁>>兄様って感じ。たぶん、私が一番一緒に居る時間が長いんだけど、千鶴さんが来るとすぐそっちに行っちゃうんだよね。うーん。ま、まさか…。



「千鶴さんがルナちゃんを調教した?」


「そんな訳無いでしょう?」


「調教ってそもそも何するのさ…」


「えーっとえーっと…餌付け?」


「きゅい…」


「アホな事を言っているからルナちゃんも呆れていますよ?…ほら、料理も来ましたのでこの話は終わりです」



 注文していた料理を店員さんが持ってきてくれて、もぐもぐと遅めの昼食…時間的には夕食になる食事

を始める。私はまだ調子が良くないからかなり控えめにした。



 食事を始めて少しすると、カランカランという音と共に他のお客さんが入ってきた。店員さんが接客に向かったのを目の端で捉える。すると、お店の入り口の方から店員さんの驚いたような声が聞こえてきた。



「し、熾天使様!?」


「あはは♪今は休憩中なんだよねー。入っても良いかな?」


「ど、どうぞ!」



 知っている声に釣られて思わずそちらに視線を移すと、特徴的な茶髪のサイドテールと見覚えのある美少女が視界に入った。店員さんの言う通り間違いなくここ聖国で一番偉い人である熾天使のセラさんだ。突然の聖国トップの登場に店内がざわざわとする。私達も思わずお互いの顔を見合わせた。



「偶然だと思う?」


「たぶん、狙ってきたんだと思うよ」


「まぁ、このタイミングからするとそうでしょうね」


「どうやってこの場所をこんなにすぐ特定出来たのかは気になるところだな」


「前に綾さんと湖に行った時にも会ったから、聖都に何かあるのかもね。単純に熾天使さんの能力かもしれないけど」



 そして、私達の推測はすぐに当たっていたのだと判明する。席を案内されていた熾天使さんは店員さんを呼び止めて私達の居る席を指差した。



「あー…。あそこに私の知り合いが居るからあそこに座るね。料理はこのお店のオススメをちょうだい」


「か、かしこまりました…!」



 適当な注文をして店員さんを追っ払った熾天使さんは、真っ直ぐ私達の座っているテーブルまで歩いてきた。目の前まで来ると隣の席から椅子を一つ奪って兄様の隣に座る。さりげなく綾さんと千鶴さんが私の両脇を固めたからそこにしか座る場所が無かっただけなんだけどね。それにしても、兄様と並ぶとホント美男美女だなぁ。



「さてさて…。月の領域はどうだった?」



 熾天使さんはにこにこしながら私を見てそう聞いてきた。私がどう答えようか悩んでいると、隣の綾さんが胡散臭い笑顔をしながら代わりに答えてくれた。めっちゃ詐欺師な笑顔してる。綾さん曰く、熾天使さんは腹黒い性格をしているらしいから自然と警戒心が出ちゃうらしい。国の運営なんてしているんだから腹黒くても仕方ないと思うけどね。



「噂通りの綺麗な場所でしたよ」


「だよねー。この世界の中でも一、二を争うぐらい綺麗な場所だと思うよ」


「それで、どのようなご用件でしょうか?」



 綾さんと熾天使さんの微妙な間を取り持つように、千鶴さんが穏やかな笑みを浮かべて直球で用件を聞く。熾天使さんは視線を千鶴さんに、それから千鶴さんの側で熾天使さんを見詰めているルナちゃんに移した。



「いやいや、用件という程でも無いんだけどね。結局その子を預かることになったんでしょ?だから必要になるかと思ってあるものを持ってきたんだ」



 なんで私達がルナちゃんを預かることになったことを知っているんだろう?私達はルナちゃんを送り届ける為に月の領域に向かったことは知っているはずだけど、月の領域の主から正式に預かることになったことはまだ知らないはずなんだけど…。さすがに準備が良すぎじゃない?



 表情には出さずにそんなことを思っていると、熾天使さんはにこにこしたまま言葉を付けくわえるように口を開いた。



「実は、聖国の私を含めた上位天使達は月の領域の主と連絡を取り合えるんだ。だから、君達がその子を一時的に預かることになったのは月の領域の主から直接聞いたんだよ」



 私の心の中の疑問にずばり答える熾天使さん。まるで心を読まれたみたいでドキッとしたよ。え?表情に出てなかったよね?



 そして、熾天使さんがどこからともなく(恐らく収納魔法かな?)ペンダントの付いたペンダントを取り出した。ペンダントにしてはとても小さいけど。アンクレットとかブレスレットみたい。



「これは魔物を従属させている証として一般に知られているものだよ。魔物使いが自分の魔物を街中に入れるようにする時に魔物にこれを付けておくことで面倒事なく街に入れるようになるんだ」



 そういえば、ルナちゃんは普通に聖都や他の聖国の街とか村に入り込んでるけど、これは月兎という種族に敵対心を抱いていない聖国だから許されることだもんね。これが他国ならば街に入れないどころか、攻撃される可能性もあるのか。



「そうそう。このペンダントには聖国がこの月兎の安全を保障しますっていう意味を込めて印が刻まれているから失くさないようにね。もし失くしたらすぐに冒険者ギルドか近くの聖国の教会に連絡して。これだけはお願いね。後は、これには付けた魔物に従属の効果が付与されて、主人として登録した人の命令違反をした時には警告として魔力を吸い上げたり、最悪はボンって爆発とかするから気を付けてね。…月兎は基本的に暴れるような種族じゃないからその辺りは大丈夫だと思うけどね」



 一通りの説明を終えたタイミングで熾天使さんが注文していた料理を店員さんが緊張しながら届けに来た。熾天使さんが笑顔でお礼を言うと顔を真っ赤にして深々と礼をして下がっていく。こういうのを見ると、国のお偉いさんというよりはアイドルみたいだね。



「というわけで、このペンダントをその子につけて欲しんだけど…」



 熾天使さんがそう言ってルナちゃんに手を伸ばすけど、ルナちゃんはするりとその手を避けて目にも止まらぬ速さでペンダントを奪い取った。やっぱりルナちゃんって他の一般的な月兎とは違うよね?他の子達はこんな動きしなかったし。



 ペンダントを奪い取ったルナちゃんは「きゅい~…」と不満そうな声を出してから渋々自分で首にペンダントを付ける。いやいや、器用すぎでしょ。



 ペンダントを付けたルナちゃんを千鶴さんが捕まえて僅かにずれていたのを整えてから、熾天使さんの方に顔を向けて小さく頭を下げる。



「わざわざこの子の為に、ありがとうございます」


「ううん。執務を抜け出す口実にもなったからね。どうってことないよ」



……執務はちゃんとやった方が良いと思うけどなぁ…。



 心の中でそう突っ込む。もちろん口に出してなんて言わない。綾さんも呆れたような顔はしているけど直接言葉にすることは無かった。



 そんな私達の心情がこもった視線など、熾天使さんは気にもせずに食事前の長い言葉とお祈りをしてから呑気に食事を始めるのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ