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34話 天才少女と『朧月夜』のボスうさぎ

 兄様の居る神殿までもう目の前というところで、一匹のうさぎが私達の前に現れた。それを見た智里さんが全員にストップをかける。



「みんな止まってー!このうさぎは敵対意思があるよ!」



 あれ?月兎って基本的にノンアクティブなんだよね?



 私が不思議に思ってトリアさんに顔を向けると、トリアさんが難しそうな顔でうさぎを睨みつけていた。



「まさかと思うけど、稀に現れるという徘徊ボスなの?」


「徘徊ボス?」


「稀に現れる非常に好戦的かつ強すぎることで有名な徘徊ボスなの。恐ろしいほど強いうえにとても楽しそうに戦う愛らしいうさぎの姿から、悪魔な天使のうさぎとも言われているの」



 悪魔なんだか天使なんだかどっちなの?はっきりしてよ。なんて脳内でツッコミを入れていると、うさぎがいきなり凶悪そうなトゲトゲの付いた大きな鉄球と、その鉄球と鎖で繋がっている持ち手をどこからともなく取り出したかと思ったら、うさぎの小さな手で持った。…え?



 そして、持ち手を器用に動かして、鎖の繋がった鉄球を振り回して私達の居る方に飛ばしてくる。って、うそうそうそ!?あんなのあり!?自分の体よりずっと大きい鉄球飛ばしてくるの!?



 鉄球の飛んだ先は一番目の前にいる智里さんだった。智里さんはその鉄球を軽々と避けるも、うさぎが器用に鉄球を操って避けた方向に動かしていく。



「くっ!雪花一刀流…」


「待て!ここは私が受け流す!!」



 素早く智里さんと鉄球の間に滑り込んだフォセリアさんが、ショートソードで大きな鉄球を受け止め、そのまま受け流すように軌道を逸らして地面に落とした。地面に落ちた鉄球をうさぎが素早く自分のもとに引き寄せる。それを見た智里さんが悔しそうに下唇を噛む。



「今ので鎖を斬りたかった」


「あの体勢で無理をするな。私が鉄球の攻撃を受け流すから、智里は攻撃に集中をしてくれ。鎖を斬るか、あのうさぎを狙えるなら直接狙うんだ」


「わかった」



 さすがはリーダーというか、勇み足になりかけていた智里さんに冷静さを取り戻させて、自らも盾役として自然と戦闘に参加した。



 そんな中、私と綾さんはどうしようかと顔を見合わせる。



「私達はどうする?」


「ちなみに、妹ちゃんの魔法であのうさぎを倒せる?」


「うーん?やってみる?」



 私が攻撃しても良いかトリアさんに目配せする。すると、トリアさんが承諾するように頷いた。



「私が合図するの。いつでも発動出来るようにしておくの」


「分かった」


「ボクとリリは後方の敵の警戒と排除を担当しよっか」


「そうですわね」


「私も、微力ながら手伝います」



 こんなところで足止めを食らっている間にも、後方からリポップした魔物達が続々と押し寄せてくる。同時にやってくる数は少ないけど、無視するわけにもいかない。槍使いであり支援魔法が得意なランさんと弓と魔法で遠距離攻撃が出来るリリアーナさん、そして、近付かれた時の前衛として千鶴さんが後方からの魔物に対処することになった。



「動いたの」



 トリアさんの言葉で意識を正面のボスうさぎに戻す。鉄球を持ったボスうさぎは、再び鉄球を投げつけるのかと思いきや、鉄球を引きずるようにして跳び出してきた。



……はや!!



 あまりの跳躍力と速度に大きな鉄球を地面に引きずるどころか、移動に合わせて空中に浮かんでしまうほどだ。弾丸のような速度で跳び出しながらも持ち手を動かして、鉄球を振り回すという芸当までやってのける。うさぎって凄いんだね…。



 弾丸の如く跳び出してきたうさぎの方は智里さんが、襲い掛かる鉄球にはフォセリアさんがそれぞれ対処するようにそれぞれ行動を始めた。まずは振り回されて上から降ってくる鉄球を、フォセリアさんが質量の差など感じさせないほどスムーズに受け流す。その隙に智里さんが飛び出してきたうさぎに斬りかかった。



「雪花一刀流・二の型…凍刃」



 今回は最初から抜刀された大太刀をまだうさぎには届かない位置で振り抜いた。すると、青い氷のような刃が飛び出していく。あれって魔法じゃないの?え?魔力使ってないの?アーツってどうなってるの?



 青い刃は大太刀の刃部分そのままの長さで、結構な範囲と速度でボスうさぎに向かって飛んで行くも、うさぎの小さな体と恐ろしいスピードであっさりと躱してしまう。



「雪花一刀流・二の型・裏…凍刃寒波」



 智里さんは避けられたことなど気にせずに連携攻撃に入った。頭の後ろにまで大太刀を振り上げて、一気に振り下ろす。すると、先ほどは一つだけだった凍刃が十個以上も同時に発射された。もうつっこまない。アーツはこういうもの。うん。



 今度は避けるのが非常に難しい広範囲かつ高密度の凍刃の攻撃。しかも、最初の凍刃を躱して空中に跳んでいる状態での追撃だ。これはさすがに当たるでしょ。っと、思いきや、ボスうさぎは空中の何もない空間に足を付いてもう一度空高く跳びあがった。ふぁ~、異次元すぎる…。二段ジャンプとか普通にやっちゃうんだね。



「輪音!今なの!」


「へっ!?あ、うん!」


「妹ちゃん、集中だよー」



 わかっているわかってる。大丈夫だよ。ちょっと刺激的な光景過ぎて呆然と見入ってしまっただけだからね。よし、あれだけ見やすい場所に居れば狙いやすいし、ちゃっちゃとやっちゃおうか。



「『放電・雷』!」



 バチバチバチっと音を立てて発射された雷は、秒速200キロメートルもの速さで空中に浮かぶボスうさぎに向かって行く。向かって行くというかこの距離ならば一瞬で着弾する。これが雷魔法の一番強いところだよね。



 本当は主雷撃は秒速10万キロメートルくらいの速度があるんだけど、私の魔法はその事前の先駆放電の段階で相手に着弾させてダメージを与えているの。本来、先駆放電は目標までの電気の通り道を作るのが目的の雷撃なんだけど、これだけでも十分実用に足ると判断して主雷撃は撃ってないよ。魔力も節約できるからね。



 さすがのボスうさぎもこの速度の攻撃は反応出来ず、避けられなかったようで、私の放った雷が見事に直撃してズドンという音と共に吹き飛んだ。



「やったか!?」



……あー!それフラグだよフォセリアさん!言っちゃダメなやつ!



 綾さんもなんとも言えない顔してる。そして、フラグ通りちょっとふらつきながらも、ボスうさぎが立ちあがってしまった。



「かなりの魔力を減らすことに成功したけれど、まだ足りないの。ここからは私がやるの」



 さっきの雷が直撃しても生きてるなんて、うさぎってホント強いね。電気系の火傷は表面よりもむしろ筋肉とかの内側にダメージを与えるんだけど、あの感じだと内側の火傷も回復したみたい。でも、〈魔力感知〉で相手の魔力量がなんとなくわかるトリアさん曰く、かなりのダメージを与えられたのは間違い無いみたい。役に立てて良かった。



「しっかし妹ちゃん、うさぎを攻撃するなんて…なんて言っていた割には容赦なく魔法使ったね」


「いや、だって、あれは私の知っているうさぎじゃないし…」



……うさぎは普通あんな鉄球振り回さないよ?



 今更だけどあの鉄球を振り回す武器って、確かモーニングスターって呼ばれる武器だよね。モーニングスターって棒の先端にトゲトゲ鉄球が付いてるやつも同じ名前で呼ばれるよ。まぁ、どっちのモーニングスターもうさぎが持っているものではないけどね。ていうか、あれってスキル乗るの?モーニングスターって武器種は何になるの?



 そのモーニングスターは、私がボスうさぎを吹き飛ばした時に智里さんがちゃっかり鎖部分を断ち切っていた。なのでもう振り回すことは出来ないはずだ。鎖を直接持って殴りかかるくらいは出来るだろうけど。



 さて、ボスうさぎが立ち上がったところで、第二ラウンドの開始だ。智里さんとフォセリアさんが武器を構えて、トリアさんも魔法の待機をしている。モーニングスターを失ったボスうさぎが跳び掛かろうとしたその時。



「そこまでなのですー!!!!」


「わわっ!?」


「おっと、だいじょぶ、妹ちゃん?」



 という声と共に空から鉄球が物凄い勢いで振ってきて、ボスうさぎを押し潰した。その衝撃はすさまじく、離れた場所に居た私が衝撃でよろめいて、綾さんに支えてもらったほどだ。お、驚いた…。



 そして、後方の千鶴さん達も何かあったようだ。なんだかすごい轟音が聞こえたので振り返ってみると、リポップしていた魔物達が全滅して見晴らしがよくなっていた。空には無数の風の矢が浮かんでいるのが見える。あれって魔法?どんな魔力量してるの?しかも威力も凄まじいみたいだし。



 正面に視線を戻すと、ちょうど土煙が晴れてボスうさぎにトドメを刺した張本人の姿が見えた。



 それは、私と同じくらいの身長で、紅白の巫女装束を着た、白銀の髪に金色の瞳の可愛らしい少女だった。




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