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33話 天才少女と強行突破

 兄様を見付ける索敵魔法。その効果はとっても単純だ。



 周囲にある魔力を片っ端から探知しまくり、その大小をマップに色分けしていくだけ。言葉にするとそれだけなんだけど、これがまたとても多くの処理能力を求められるんだよね。



 スキルの〈魔力感知〉は恐らく勝手に探知結果をまとめてくれるから脳に負担は少ないんだろうけど、そのスキルでいろいろな情報を私で全部処理しなくちゃいけないのは大変面倒。ま、出来ない程でもないけどね。



 ちなみに、魔力の濃度で建物や生物もなんとなく把握出来るし、建物の中も調べることが出来る。建物の中を見る時は、絵を描く時に使うレイヤーみたいに図を切り替えていく感じかな。



 そしてこれを使えば、魔力に満ちた場所に限るけど、魔力を全く持たない私達は白で表示されるからとても分かり易い。普通の街とかだと、魔力がない無機物も白で表示されるだろうけど、ダンジョン内はほぼ全て魔力で出来ているから大丈夫。そもそも建造物の数もそんなに多く無さそう。まぁ、月だからね。



 トリアさんからもらった中級マナポーションはめっちゃ役に立ったよ。回復した魔力量は普段のデバイスに入っている量よりも多かったし、自動回復促進もしてくれるみたい。これが無かったら、このダンジョンほぼ全域を索敵するのは無理だったかな。トリアさん様様だよ。



……見付けた。ちょっと遠いけど、大きな建物の中に居るみたい。一緒に大きな魔力反応が二つあるね。動きを見ている感じ、あんまり良くない状況かも。



 索敵を終えてパチッと目を開ける。私が索敵に集中している間ずっと私のことを見ていたみんなを見回して、今手に入れた情報を話した。



「地図で言うと…この辺りか。直線上でいけそうだな」


「たしか、事前の情報では大きな神殿という話でしたね。あちこちにあるボスが待機している神殿に似ているものの、入ることが出来ないものだったはずです」


「それって、辿り着けたとして中に入れるの?」


「でも、行くっきゃないでしょーよ」


「最悪、魔法で吹き飛ばせば良いの。ダンジョンの壁ならばともかく、建物だったら壊れると思うの」



 私の情報をもとに『白の夕霧』は自作の地図に書き込みをしている。移動しながら戦闘が出来るようにと、綾さんがクロスボウに矢をセッティングしたり、千鶴さんが大きく伸びをして体をほぐして準備している中、私はデバイスの魔力を確認していた。



……まだ十分に魔力はありそうだね。



 これなら魔法で移動時間を大幅に短縮できるかも。えーっと、あれやってこれやってーっと…良し。



「みんなー。ちょっと集まってー」


「なになに?どしたの妹ちゃん」


「これからは強行軍になります。輪音さんも体をほぐしておいた方が良いですよ?」


「なんだ?何かあるのか?」


「まだ何かするつもりなの?」



 全員が私の傍まで集まったところで、私は今即興で作った魔法を発動させた。



「うわっ!?」


「うぉ!?」


「きゃ!?」


「…っ!?」



 集まってきたみんなと一緒に私は天高く大空に巻き上がる。それぞれ個性的な叫び声だね。



 月をイメージした場所だけあって重力が六分の一なおかげか、私の作った上昇気流は予想よりも高くまで私達を上空に飛ばした。これは予定外だけど、良い結果だね。重力による自然落下で地面に落ちるまでに可能な限り進むため、今度は下降気流を作って目的の方向に急速移動しる。



「ひゃ!?」


「あーーー!!!!」


「ぎゃーー!!!!」


「これは、ダメなの!!『ウィンドシールド』!」


「風の、精霊よ!」



 あ、風圧が来るの忘れてた。でも、すぐにトリアさんとリリアーナさんがフォローしてくれたからよしってことで。だから綾さん、睨まないでよ…



 地球のジェットコースターを彷彿とさせる落下速度で何体かの魔物とすれ違いつつ、兄様の居る神殿まであと少しというところまでやってくるのに成功する。



「あとちょっとだけど、残りの魔力と高度を考えても、この辺りが限界かな」



 着地場所にはきちんと風のクッションを用意。空の空中高速飛行(または高高度落下)から地上に降りてきたみんなの反応はというと。



「し、死ぬかと思った…」


「高い所は苦手ではないけれど、さっきのはもうごめんですわ」


「詰めが甘いの。風圧で死ぬところだったの」


「楽しかった~♪」


「うぅ、目が覚めちゃったよ…」


「千鶴さん、だいじょぶ?」


「…」



 と、まぁ、一部を除いて概ね不評だった…って、千鶴さん?



「千鶴さん、顔色悪いけどどしたの?そんな怖かった?」


「…わ、私、高所恐怖症なのよ…」



 うわお。それは知らなかったとはいえごめんなさい。思わず素の口調が出るほど余裕が無いようだ。でも、千鶴さんには悪いけどゆっくりもしてられないんだよね。



 顔面蒼白でへたりこんでいる千鶴さんを綾さんに任せて、私は後方に視線を向ける。来たね。



 空から見ていたから予測はしていたけど、私達の着陸地点の後方から魔物群れがやってくるのが見えた。それに、これから向かう正面にもかなりの数が居るみたい。



「みんな!後方からたくさんの敵だよ!あと、正面にもたーくさん居るよ!」


「『フレアドライブ』!!」



 私が指摘するまでもなく、トリアさんが魔法で先制攻撃をする。炎の塊が赤い軌跡を残しながら高速で魔物の群れに飛んでいき、敵の目の前まで迫ったところでトリアさんが手をつきだした。



「バーストなの!」



 トリアさんの声と同時に炎の塊が敵の目の前で弾け、広範囲に散弾となって降り注いだ。



「嵐よ、吹き荒れよ。『トルネド』!!」


「からの~…『マジックブースト』!」


「ラン、ふざけないの。『ロックシャワー』!」



 トリアさんの初撃からすかさずリリアーナさんが魔法で竜巻を召喚して敵陣に置き、そこからランさんが補助魔法で魔法の威力を高めて多くの魔物を巻き込ませていく。さらに、トリアさんが竜巻の中に石の礫を無数に入れるという鬼畜な追撃付き。あの竜巻の中の魔物は全滅だね。



「さすがBランク冒険者パーティー。すごい連携」


「正面も数が多いな。強行突破するか?」


「それでも数が多いねー。出来れば魔法で少し数を減らしたいかも」



 後方の魔物達はトリアさん達が頑張って足止めしてるし、魔力は少ないけど、私がやるしかないかな。



「ここは私がやる!」


「妹ちゃん、魔力大丈夫なの?」


「最低限の余力ぐらいならあるよ。でも、あとは兄様救出用に残したいから一回だけね」


「頼む、輪音」



 私達の都合に付き合わせちゃってる『白の夕霧』に被害は出したくない。もちろん、私達の中の誰にも被害なんて出す気はない。私はみんなの正面に立って、こちらに向かってくる魔物達を一瞥する。



 別に私は兄様のことが好きだというわけでもない。でも、私にとって兄様は、私の大切な家族で、大切な兄妹だから。もう喪うのは嫌だ!



「私の、私達の邪魔をするなぁぁああああ!!!」



――雷魔法『放電・雷の剣 薙ぎ払い』



 燃費が悪くて威力の高い『放電・照射』を改良した『放電・雷の剣』。雷の威力を保ったまま、その圧倒的な速度で射程限界まで一瞬で辿り着き、そこから横に薙ぎ払うように一閃する。触れたものは熱したナイフでバターを切るように両断されていった。



 本来の『放電・照射』は単一に長時間、雷を照射してダメージを与えるものなんだけど、その照射部分の時間を使って雷を可動させることで広範囲を攻撃出来るようにしたものが今使った『放電・雷の剣』ってわけ。



 私の正面扇状の範囲を切り裂いた雷の剣のおかげでかなりの魔物が減った。これなら正面突破出来そう!



「凄まじいな、雷魔法」


「威力だけなら上級魔法に匹敵するよねー」


「ぐっ!もっとちゃんと見たかったの!!」



 トリアさんの悔しそうな声が聞こえるけど、今回ばかりは諦めて欲しいな。そして、綾さんがようやく立ち直った千鶴さんと一緒にこちらにやってきた。なんだかニヤニヤしてる。嫌な予感する!



「いやー。妹ちゃんのあんな大きな声初めて聞いた。これは私も頑張らないとね」


「ぐぬっ!」


「茶化してはダメですよ。それだけ真剣だったということなのですから」


「千鶴さんはもう大丈夫なの?」


「ええ。それに、教え子がこんなに頑張っているのに、教師の私がいつまでもへばっている訳にも行きませんからね」



 これで全員動けそうだ。また敵が集まってくる前にさっさと突破しちゃおう!



「良し。んじゃ、私もこんなことしか出来ないけど、やりますか!すぅ~…はぁ~…。…総員!正面を全力で強行突破する!!突撃ー!!」


「なんだか、指揮官みたいで偉そう」


「妹ちゃんは私のやることに茶々を入れないと気が済まないの?」



 今のはもちろん、綾さんのスキル〈鼓舞〉を発動させるためのものだろう。今回は私も対象だったようで、沸々とやる気がみなぎってくる感じがする。身体能力は上がらないけど、やっぱり気持ちが上向きになるのは良いね。



「これは…〈鼓舞〉か。良いスキル持っているな。良し!行くぞ!!」


「先陣切るよ」


「それじゃ、最後に後方の魔物に置き土産なの。ラン、合わせるの」


「りょう~かい!」


「『フレアドライブ』!」


「『マジックブースト』!」


「バーストなの!」



 フォセリアさんの合図で全員が一斉に走るのと同時に、トリアさんが後方の魔物達に先ほどの炎の散弾魔法を放って足止めした。今回はランさんのブーストもかかったおかげで威力も高くなっているようで、魔法の耐性が高いゴーレム以外の魔物達に甚大な被害を出すことに成功する。



「それにしても、なんでこんなに魔物が居るのかな?」


「このダンジョンはもっと魔物が散開しているはずなの。空から見ていた限り、あの神殿を守るように意図的に配置されているのは間違い無いの」


「魔物のポップスピードも速いですわね。囲まれる前に神殿まで急ぎましょう」


「神殿周りは安全地帯に設定されているの。解除されていないことを祈るの」



 事前に聞いていたゴーレム系の魔物も多いけど、狼や鳥、猫や豹のような動物系の魔物もかなりの種類が集まっている。体重が減っていて動きにくい環境なのに、それをものともしないで走ってくる魔物達。恐らくは重力系の能力を持っていて、このダンジョンの重力軽減に対抗しているのかも。う~、こんなことなら私も重力魔法を考えておけば良かった。



 一歩一歩踏み出す度に日常では味わえない浮遊感で移動していくため、どうにも先に進むのが遅くなってしまう。既に何回かこのダンジョンに来ている『白の夕霧』でさえも走り難そうだ。



「くそ~。本当は補助魔法で全員に俊足魔法を付与したいんだけどな~」


「ただでさえ慣れない環境だ。補助魔法なんてされたら、体の動きがさらにぎこちなくなる。我慢しろ」


「来る。わたしがやるから、みんなは走ることに集中して」


「任せた。漏れた分は任せろ」


「心配ない。漏れなんて出さない」



 なんだか、いつものぱやぽやしてる智里さんと全然印象が違う。戦いになるとスイッチが入る人なのかな?それに、月の重力による浮遊感を全く感じさせない機敏さ。さっきまで私達に合わせていただけなんだね。実は、智里さんって凄い?



 私の頭の中の疑問に答えるように、フォセリアさんがニカっと笑みを浮かべて、誇らしげに智里さんのことを話してくれた。



「智里は冒険者ランクこそCランクだが、私達の中で一番個人としての戦闘力は高い。まぁ、見ていればわかるさ」



 ほう。あのぽやぽや寝坊助少女を普段見ていると信じられないけど、今の智里さんを見ればなんとなく信じられるよ。今の智里さん、鬼気迫る感じだからね。触れたら斬れそうって感じ。



 そんなことを考えているうちに、私達の正面から迫ってくるグレー色の豹の魔物と同じ色の狼の魔物数体が先行した智里さんと接敵した。智里さんは背中に背負った大太刀の柄を掴む。



「雪花一刀流・一の型…『雪断』」



 智里さんが目にも止まらぬ速さで駆け抜け、飛び掛かって来た魔物達と交差し、通り抜けた。その手にはいつ間に抜いたのか、智里さんの身長程もある大太刀を両手に持って振り下ろした体勢になっていた。



「雪花一刀流・一の型・裏…『降雪』」



 智里さんがそう呟いたところで、魔物達の体が最初は横に切断され、次に上から叩きつけられたように地面に落とされて四分割になった。それを確認することもなく、智里さんは大太刀を再び背中の柄に戻す。



……ふぉおおお!か、か、かっこいい。



「めっちゃかっこいい…」


「妹ちゃん、口に出てるよ。気持ちはわかるけど」


「凄まじいですね。あれがアーツですか」



 私達が口々に褒めると、やはり仲間が褒められて嬉しいのか、フォセリアさん達も得意げな顔をする。



「ふふん。そうでしょ?智里ちゃんは四季姫の専属護衛兵士に推薦されていたくらい凄いんだから!」


「わたくしも他人のことは言えませんけれど、冒険者をやらなくても大成する方ですからね」


「これは私の出番は無さそうだな」



 それからは、智里さんがまさに悪鬼羅刹の如く大立ち回りをして魔物を両断していく。ぶっちゃけ、私の魔法で数を減らす必要無かったんじゃないのってくらい強い。そんな智里さんが大活躍している間に、なんとか神殿の安全地帯手前まで近付くことが出来た。近くに降りたつもりだったけれど、すっごく遠く感じるよ!戦いながらな上に走りにくい場所だから余計に時間が掛かっちゃった。



「全く、魔物のこの数、まるでスタンピードなの」


「本来のスタンピードとは違って同時に大多数と戦うのではなく、ポップした分だけなので楽ですが…。それでも、これだけ続くと面倒ですわね」



 智里さんが殲滅した後の場所から魔物がリポップしてくるから、実は私達もちょくちょくと戦闘をしている。あ、私は魔力の温存で参加してないけどね。綾さんもクロスボウを撃つ前にトリアさんやリリアーナさんが魔法や弓で魔物を倒しちゃうから参加してない。いや、『白の夕霧』が強すぎるんだよね。



 接近された時は千鶴さんやフォセリアさん、それになんと魔法職だと思っていたトリアさんが迎撃している。トリアさん、なんと拳士でもあるらしい。クロスボウを綾さんに教えたのもトリアさんで、左腕に専用のクロスボウ型の魔術具があるから、本当になんでもこなせる万能な人みたい。でもやっぱり、魔法が一番得意みたいだけどね。他はおまけだってさ。



「ぜぇ…はぁ…。ようやく…終わり…?」


「もう目の前だね。妹ちゃん、ファイトだよ!」



 息がきれきれですでに体力的な限界に近い私に、綾さんが無情にも〈鼓舞〉を使ってくる。うぅ~。辛いけど、頑張れちゃう。後で絶対筋肉痛だよぉ~。



 ようやくたどり着く、そう思っていた矢先の出来事だった。安全地帯の目の前にしてうさぎがポップした。




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