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31話 天才少女と月の領域のダンジョン

 『白の夕霧』の誘いもあり、私達は初めてのダンジョンに挑戦することになった。挑戦といっても、浅い場所をちょっと見てくるだけだけどね。



 ダンジョンの入り口は大きな門になっていて、基本的には常に開いている状態なんだけど、稀に閉じる時があるらしいの。ダンジョンの入り口が閉鎖する時は、中に居る人もはじき出されちゃうんだって。入り口が閉じる時期はまちまちで、理由もよくわかっていないんだけど、ダンジョン内の人全員を強制転移させるようなダンジョンはここくらいしかないらしい。



 ダンジョンの扉が開いていると言っても、扉の奥は光で真っ白で何も見えない。もちろん、ダンジョン側からもこちら側が見えていないよ。実際に中に入るまでダンジョンがどういうのなのか分からない仕様になっているようだ。



 ダンジョンの扉の前には冒険者パーティーが1組と、冒険者向けに商売をしている商人が1人居た。でも、商人さんはもう1週間ぐらいここに滞在していて、売れる物資も無くなって来たからそろそろ引き上げるそうだ。そんな商人さんの話を聞きながら、まだ売れ残っていた携帯食料をいくつか買っておいた。念のためね。これすっごいマズイらしいから出来れば食べるような事態にならないと良いなぁ。フラグじゃないよ?



「ダンジョンの中には他の冒険者も居るんだよね?」


「何組かは見かけましたわね。知っている顔は居ませんでしたが」


「ここのダンジョンはあまり稼げないから、このダンジョンをメインに活動しようという冒険者が居ないの」


「へぇー。珍しい素材があるからダンジョンって重宝されるんだよね?なのに稼げないんだ?」



 トリアさんの話では、ダンジョンで食料が無くなるまで素材をかき集めて街に帰ったとしても、それを売りさばいてまたダンジョンに挑もうとすると、再び領域内へ入るための手続きをしないといけないから、また中に入るために街に宿泊するとなると、それだけで稼ぎの多くを使ってしまうらしい。食料もそうだけど、武具の手入れもしないとだし、宿泊代だってかかる。何かと出費が多いし、時間もあるからと街の冒険者ギルドで依頼を受けることもあるのだけど、聖樹の森近くは魔物も少なく、採取出来る薬草の種類さ多いけど、それを根こそぎ採取するわけにはいかないからどうしても稼ぎは少ない。



 結果的に、大きな街に行ってそこで普通に冒険者活動した方が稼ぎも安定するし、ダンジョンに拘るのならば、他のダンジョン都市に行った方が儲かるのだとか。



「せめて、領域への立ち入り制限をもっと融和するか、いっそのことダンジョンの周りだけで良いから小さな街が作れれば、ここももっと繁盛すると思うの」


「なるほどねぇ」



 それでも、このダンジョンでしか採れない素材や、武具は特殊な能力を秘めていて実用的なものも多く、ダンジョンに籠る冒険者が少ない=市場に出回る素材の数が少ないというこのなので、単価としての価値はとても高いらしい。それでも、ここで安定して稼げる冒険者ならば、もっと上級のダンジョンがある場所に行った方が良い事に変わりはないみたいだけどね。



「ちなみに、このダンジョンで一番価値のあるものはなんなの?」


「それはもちろん、『グラビティシリーズ』なの」


「『グラビティシリーズ』?」



 グラビティ?重力だよね?そんなに興奮するようなものなのかな?



「その反応の薄さを見るに、グラビティシリーズの凄さを理解していないようなの」


「グラビティシリーズと言われるものは、『重力魔法』が付与された武具のことよ」


「ほうほう。重力魔法。へぇー」



 重力なんて理解している人ほとんど居なそうだけど、スキルとしては存在するんだね。



「重力魔法は、魔物専用のコモンスキルとして存在は確認されているの。人族では、一部のユニークスキルの能力で重力魔法が使えるようになることもあるの」


「コモンスキルならば、誰でも覚えられるんじゃないの?」


「重力魔法というのがよく解明されていないの。何故モノを軽くしたり重くしたり出来るのか。『重力』とはなんなのか。さっぱりなの」



 重力がわからないのかー。じゃあ、しょうがないね。星の話とか引力の話とかになるし、まだ宇宙に行ったことも無い(と思う)この世界の人達には理解しにくいものなのかも。魔法があるこの世界では科学の発展はとてもとても遅いようだから、まだしばらくは無理かなぁ。どこかに科学を極めていそうな変人が居るかもしれないけど。



 そんなことを考えながら「へぇ~」とは「ふぅん」とか相槌をうっていたら、トリアさんが私の顔を覗き込むようにじっと見詰めていることに気付いた。この目は…雷魔法についていろいろ聞いてきた時をおんなじ目をしてる。



 嫌な予感がした私は思わず身構えた。そして、その嫌な予感は的中する。



「輪音、重力のことを知っていそうなの。そんな気がするの」



……や、やっぱり聞いてきた!ここは誤魔化さないと。



「知っているというほど理解しているかはちょっとわからないなぁ。兄様とか、他の人達と同じくらいにしか知らないと思うよ」


「教えてくれたりとか…」


「しないよ。これ以上何かやらかしたら私が怒られちゃうもん」


「むぅ。残念なの」


「既に雷魔法を教えてもらっているのでしょう?それで我慢しなさい」


「教えたというか、ほとんど誘導尋問だったけどね」


「……重力魔法は一旦諦めるの。それで、話を戻すの。ここのダンジョンで出るグラビティシリーズと呼ばれる品は狙って手に入るものでもないし、さっきも言ったけど、長期間集中してダンジョンに籠れるような場所でもないから、とてもとても価値があるの。どんなに安くても小金貨数枚はするの」



 そういえば、ダンジョンの価値のあるものの話をしていたんだっけ?途中から重力魔法の話にすり替わっていたから気付かなかったよ。…というか



「今更だけど、何で2人が私についてきてるの?」


「子供1人に商人の相手をさせるのは良くないの」


「私子供じゃないんだけど?」


「もうそれはいいの。ほら、待っているから行くの」


「ぐぬぬ…」



 ちなみに、私は綾さんと千鶴さんに頼まれて食料があれば買ってきて欲しいと言われただけだ。売れ残りだったとはいえ、ちょっと割高だったかな。でも、お目付け役で来たトリアさん達が何も言っていないなら、適正価格なのかな。



 ダンジョン扉前では、いつでも出発できるように準備が終えられていた。準備というのはつまり、いつでも戦える準備だそうだ。稀にだけど、入り口の先が見えない仕様を利用して、入り口で待ち伏せする危ない冒険者が居るらしい。そんなわけで、咄嗟に攻撃が出来ないであろう私と、近接戦闘力の低い綾さんはみんなに囲まれる形となった。



「ちょっと恥ずかしいね」


「誰だって得意不得意があるんだから、必要に応じて守られることは恥ずかしいことじゃないよ」


「妹ちゃんがまともなこと言ってる…」


「一度綾さんとはじっくりとお話し合いが必要だね!」


「小一時間くらい?」


「それはお姉ちゃんの台詞でしょ!」



 そんな言い合いをしながら、私達はダンジョンの中に入っていった。



 眩しい光は一瞬で通りすぎて、常夜の森から月面へと周囲の景色が一変した。うん。月面だね。どの辺が『朧月夜』なんだろうね。ダンジョン『月面』で良いんじゃないの?



 そして、とても不思議なことに、重力も地球の月が再現されているようで、体がとても軽く感じる。ただ、さすがに地球は存在していなかった。見えたらびっくりするけどね。



 入り口の扉の周りは小さなうさぎ達がちょこちょこと走り回っている。これって、月の領域にも居る月兎だよね。襲ってくるのかな?



「このダンジョンの月兎も襲ってこないから攻撃しちゃダメなの。もし攻撃したら、強制転移されて死にかけるらしいの」


「誰か攻撃したんだ…」


「毛皮を狙ったみたいだよ。そしたら、強制転移されてドラゴンに殺されかけたとか。そういうトラップみたいだから、間違えても攻撃認定されるような行動はダメ!でも、もふもふするくらいならおっけー」



 トリアさんとランちゃんがそれぞれ月兎達について説明してくれた。ほうほう。もふもふは良いんだね?ではさっそくもふもふ…。



「こら、輪音さん?あまり探索できる時間もないのですから、もふもふは我慢してください」


「ぐぇ…。」



 うさぎ達のところに行こうとしたところを千鶴さんに首根っこを掴まれて阻止されてしまう。今回は大人しく諦めよう。どうせ今日は日帰りだし、もふるのは教会前に居る子達でも良いし。



「このうさぎ達が居るエリア…えっと、あそこにある石柱があるだろう?あの辺りまでは安全エリアだから、もし何かあったらここまで逃げてくるといい」


「ふわぁ~…。安全エリアはあちこちにあるから、浅い場所に居る分にはそこまで危険はない…と思う」



 フォセリアさんと眠そうに欠伸をする智里さんが兄様と綾さんに説明していた。あの2人がペアなんて珍しい。え?私を抑えるのに千鶴さんが来ただけ?失敬な!見張られなければならないようなことなんてしてないし、する気も無いのに!もうちょっとぐらい信用してよね!



 私が頬をぷくーっとして剥れているのを千鶴さんに笑われている間に、いろいろと話を聞き終えた兄様と綾さんが帰ってきた。



「妹ちゃんどしたの?そんなにかわいい顔して。幼児退行した?」


「ふしゃー!!」


「わっ!妹ちゃんが猫化して襲い掛かってきた!!」


「何をやっているのですか…。ここはダンジョン内なのですよ?もう少し緊張感を持ちなさい」


「「はーい」」



 いつの間にか戻ってきていた綾さんと返事をすると、千鶴さんが処置無しとでも言いたげにあからさまな溜息を吐いて顔を横に振る。ちゃんと返事したのになんでそんな顔するかな?



「相変わらず仲が良いな、お前らは」


「そこそこ付き合いも長いからね。輪音!準備が出来てるなら行こうか」


「あいあいさー」



 兄様の掛け声でそれぞれ決められた配置で陣形を組む。といっても、私と綾さんが真ん中で兄様が先頭の千鶴さんが最後尾という私達のお決まりの陣形にプラスして、『白の夕霧』が私達を守るように囲むような形になっている。理由は言わずもがな、私と綾さんは戦闘力が低く、突発的な戦闘になるとすぐにパニックを起こしてしまう可能性が高いからだ。特に私の場合は、思わず反射的に魔法を使って周囲に被害を及ぼす可能性もあるから余計に守られる場所に配置されている。



 というわけで、きゅいきゅい鳴いているうさぎ達に別れを告げて、私達は陣形を組んだ状態で安全地帯から外に出た。すると、突然眩しい光と共に地面に魔法陣が浮かんだ。



「えっ!?」


「ウソ!?こんな最初の場所でトラップ!?」


「全員魔法陣から飛び退いて!早く!!」



 あまりに突然のことに思わず固まってしまった私達と違って、歴戦の冒険者パーティーである『白の夕霧』は即座に指示をとばしながら魔法陣から逃げるように飛び退いた。



 私達もすぐにはっとなって逃げようとしたけど、魔法陣の光が大きくなったのを見て顔が青ざめる。



「ダメ!間に合わないよ!」


「全員で固まりましょう!」


「妹ちゃんこっち!」


「くっ!」


「あわわわ!!」



 逃げられないと悟った私達はせめてバラバラにならないようにと一カ所に固まる。これが地雷系のトラップじゃないことをただひたすら祈りながら目の前が魔法陣の光に包まれて、ついに周囲の景色が光に塗りつぶされて何も見えなくなった。思わず目を瞑ってびくびくとしていると、つんつんと肩をつつかれて顔を上げた。綾さんが困惑した顔でわたしを見下ろしている。周囲を見渡しても特に何も変化は起きていなかった。



「……あれ?」



……何も起きてない?



「全くんが居ません。彼だけ転移させられたようですね」


「えっ?」



 慌てて周りを見回すと、確かに兄様の姿はどこにもない。うそ。



「全さん…」



 綾さんが青ざめた顔でポツリと呟いた兄様の名前は、静寂の闇の中に溶けるようにして消えていった。




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