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30話 天才少女は子供っぽい

 月の領域での一番大事な用事を済ませた私達は、正直この領域内でやることがなかった。強いて言えば教会前に居る聖獣とか、うさぎを捕まえてもふもふするくらいしかやることがない。



 というわけで、ひと眠りした後に綾さんと教会前広場でうさぎを追いかけていた。



「よし!捕まえた!…それにしても、逃げ足早いなぁ」


「ぜぇ…はぁ…。私、もう、無理…」


「妹ちゃんは体力ないからねぇ。おーもふもふだなー」



 私気付いているんだからね。綾さん途中から〈思考誘導〉でうさぎの行動を誘導していたでしょ。明らかに動きがおかしかったんだから。うさぎ相手にそんなせこいことするなんて大人げないよ!



 ちなみにこのうさぎ達、一匹でEランクの冒険者ぐらいなら普通に蹴散らすぐらい強いらしい。どこからどう見ても可愛いらしい普通のうさぎだけど、魔物だからね。



 息を乱して座り込む私に、小鳥やリスが寄って来た。それと、私が追いかけていたうさぎも寄って来た。追いかけていた意味とは。きっと遊ばれていただけなんだなぁ…。



 せっかく寄ってきてくれたのでぱしっと捕まえて抱えてみる。ふむ。触り心地はルナちゃんほどじゃないけど、すごく良いね。うさぎも可愛いけど、リスも小鳥も可愛いね。ふぅん。みんな瞳の色が金色なんだね。この領域に棲む魔物はみんなそうなのかな?



 うさぎは白色の毛並みが多いけど、他の動物…じゃなくて魔物はいたって普通の色だね。実は魔物じゃなくて野生動物だと言われても違和感がないくらい普通だ。いや、魔物が全員異様な見た目しているわけではないけどね?



 この子達も可愛いけど、個人的に気になるのは聖獣かな。実は教会の入り口近くに額に角がある白馬…俗にいうユニコーンと呼ばれる生き物が立っているのだ。聖獣は滅多な事では触らせてもらえないらしいから、遠目で見るだけにしている。厳密にはすでに触ろうとして拒絶されてしまったから諦めた。蹴られたり、角で刺されたら殺されるかもしれないし。しょうがない。残念だなぁ。



「ただいま。ちょっと話を…。輪音さん、どうしたのですか?」



 手元にいるうさぎを抱きしめながらユニコーンに恨みがましい視線を送っていると、兄様の様子を見に行っていた千鶴さんが帰って来て、私の視線の先を交互に見ながら首を傾げた。それを見た綾さんが苦笑しながら私の代わりに答える。



「妹ちゃん、ユニコーンに触ろうとして拒絶されたみたいでね。でも、気になるみたいだね」


「なるほど。しつこくして問題にならなかっただけ偉いとしておきましょう。さて、二人にお話しがあるのですが…」



 と、さりげなく私の近くに居たうさぎを捕まえて抱きかかえる千鶴さん。千鶴さんがうさぎを撫でると気持ちよさそうに目を細めた。さすが〈調教〉スキルがあるだけあるね。すぐに懐いているよ。



「せっかくここまで来たのだから、ダンジョンの浅い場所だけでも見に行ってみませんか?」


「全さんの意見?」


「私も同意していますよ。今ならば『白の夕霧』も居ますからね」


「ここのダンジョンの難易度ってどれくらいだっけ?」


「中級ダンジョンと言われています。ですが、浅い場所ならばEランクパーティーでもそこまで危険は無いそうですよ」


「でも、危ない場所なんだよね?」


「ダンジョンの中ではかなり良心的だと、『白の夕霧』からは伺っています」


「あれ?『白の夕霧』って2日くらい前からこっちに居るんだよね?話が聞けたの?」


「この数日は様子見で1日で帰れる範囲を行って帰ってきてを繰り返しているようです。明日か明後日には本格的に攻略を始めるそうですよ」



 私達の持って来た食料では長居出来ても3日が限界だろう。魔力さえあれば収納魔法が使えてもっとずっと楽になるんだけどなぁ。それか、収納魔法の効果がある収納袋っていう魔術具があれば良いんだけど、収納袋って異様に高いんだよね。まぁ、能力を考えたら誰だって欲しくなるよね。作るのにも本当に一部の職人が年に数点しか作れないぐらい大変らしいし。



「それに、ダンジョンの主な敵はゴーレムだそうです。見て見たくありませんか?」


「ゴーレム!?」



 収納について考えていた頭が千鶴さんの言葉でゴーレムに書き換えられた。



……ゴーレム…それって、ファンタジー世界あるあるの謎生命体だよね!?めっちゃ気になる!!



「妹ちゃんの目が輝いたね。妹ちゃんが行く気なら私も行こうかな」


「ゴーレム、解体してみたい!」


「石とか金属で出来ているんでしょ?解体なんて出来るのかなぁ?」


「そこは魔法でちょちょいと」


「魔法、便利だなぁ」


「ふふ。それでは行きましょうか」



 ゴーレム♪ゴーレム♪と歌いながら光る道の上を歩いていく、気付いたら千鶴さんと綾さんが私を挟むように歩いて、ふらふらとどこかに行かない様に手を繋がれていたんだけど、その時の私はゴーレムについてで頭がいっぱいだったせいで特に何も言わなかった。



 大人な女性の綾さんに、高校生くらいの見た目な千鶴さんに挟まれて、手を繋ぎながらるんるんと歩く身長140センチ弱の少女…。それを傍目から見たらどう思われるか、教会前広場に居た人達がどんな目で私達を見ていたか、この時の私は気付くことは無かった。



「輪音が幼児退行してるの。それとも本当は年齢詐称しているの?それが素なの?」


「はっ!?」



 ダンジョン前広場で兄様と『白の夕霧』のメンバーと合流した時に、真っ先にトリアさんからそう言われてようやく我に返った。あまりの恥ずかしさにその場でしゃがみ込んで両手で顔を覆い隠して項垂れる。



「いやー。本当に妹っぽくてかわいかったよ。妹ちゃん」


「ふふ。子供を持つ親とはこのような気持ちなのでしょうか?」


「うあーーー!!!!」


「輪音、他の人に迷惑だから静かにね?」



 そんな私達のやりとりを『白の夕霧』のメンバーも微笑ましそうに見ている。



……うぅ。みんな私のことすぐ子供扱いするんだから。でも、子供っぽい言動が多いことは否定出来ない。これからはもっと気を引き締めないと!



 しゃがみ込んだ体勢で両手をぐっと握って決意を固めていると、肩をとんとんと叩かれた。顔を上げるとトリアさんがうさ耳を揺らしながらこう言った。



「何をどう頑張っても子供にしか見えないの。諦めるの」



 ………



「それで、浅い場所までは一緒に行動することで良いのかな?」



 放心状態になった私を置いて、兄様が話を進める。放心状態とはいえ、〈並列思考〉できっちりと話を聞いているから大丈夫!スキルの無駄使いだね。



「ああ。今回は危なくないところまで同行するだけだ。悪いけど、私達もここのダンジョンの攻略を優先したいのでね」


「それは構いません。むしろ、また面倒をかけることになってしまって…」


「いや、それこそ気にしないでくれ。トリアやリリが輪音と話したいって言っていたから、こちらも都合が良いだけだよ」


「トリアさんは雷魔法のことだろうからわかるけど、リリアーナさんはどうして妹ちゃんと話したいの?絡みなんてあったっけ?」


「輪音に調薬を教えている時に、いろいろと興味深いことを聞かせてもらえるから、わたくしも勉強になっているのですわ」


「ちょっと妹ちゃん?」



 おっと、ついポロっと出てしまった人体の構造とか、細胞についてとか、地球の薬の成分についての話かな?詳しく話した記憶はないけど、追及されるのは怖いから放心してるふりしておこう。



 私が聞いていないふりをしていると、千鶴さんが諦めたように顔を振った。



「仕方ありませんね。こちらも教えて頂いているわけですし、彼女達ならば悪用もしないと思います。でも、後で輪音はお説教ですね。…今も聞いていないふりをしていますから、反省の態度が現れていませんし」


「ひぇ!?ごめんなさい!!」



……バレてた!?



「まあそんなわけだから、話せる範囲で構わないからいろいろ教えてくれると助かる」


「ボクもおにーさんといろいろ話したいな~」


「あはは。お手柔らかにね」



 と言っても、『白の夕霧』は既に今日はダンジョンに入って出てきたばっかりらしいから、一緒にダンジョンに行くのは明日ということになった。って、ここはずっと夜だし、鐘も鳴らないんだけど、どうやって時間合わせるんだろうね。私達はスマホがあるから大体分かるけどね。



 その辺りの細かいことは兄様と千鶴さんに任せれば良いか。私と綾さんは一旦みんなと別れて教会まで戻ることにした。ここに居てもしょうがないからね。



 さーて、広場でうさぎを捕まえてもうひと眠りしようかな~。なんて思っていたけど、綾さんから明日の準備をするのにいろいろこき使われてたせいでお昼寝出来なかったよ!綾さんの言葉にいい様に操られてしまった。うぅ~。今度、あの〈思考誘導〉に対抗出来る様なものを考えておこう。



 ちなみに、用意が終わってようやくのんびりできる!っていうタイミングで千鶴さんが帰ってきて、地球の知識をポロっと出していた件について長々とお説教を食らった。千鶴さんの凄みのある笑顔でネチネチと詰ってくるのは本当に精神に来る。次はお説教されないように、本当に気を付けよう。そう心に誓ったのだった。




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