29話 天才少女と月の女神の教会
ルナちゃんと別れた私達はシスターさんと騎士さんに案内されるがまま教会の中に入った。聖国で見た女神像の一体と同じ像があるね。えっと、たしか、女神フレイネルだったかな?朝と夜とか、太陽と月とか輪廻転生とかをしている神様だったはず。たぶん。
神様は実在するかどうかわからない。けれども、この世界は神々と、神々の眷族である精霊が創ったというのが一般的な常識らしい。魔法があるファンタジー世界だから完全に否定出来ないところが、一応科学者に分類される私には複雑な気持ちだ。
「ようこそいらっしゃいました。わたくしは月の領域にある『月の女神の教会』の管理運営を任されているフェイと申します」
白い豪華なシスター服を着た女性が私達の目の前で挨拶をした。見た感じは20歳前後かな?薄桃色のシ短いボブカットの髪に藍色の瞳をした綺麗な人だ。まだ若そうだけど、この世界の人は見た目と年齢が一致しないことがままあるから、見た目で判断しないようにしよう。
それに、たしか白いシスター服は天使スキルを持つ『聖女』に与えられる服だ。つまり、聖国では貴族のような身分の人である。発言には十分に注意しないとだね。
フェイさんはシスターさんと騎士さんからそれぞれ報告を聞いた後、労いの言葉を口にしてから二人を下がらせた。これで案内役の二人は一旦お役目終了である。たぶん、教会内の宿泊施設にしばらく泊まって、誰かが領域から出る時に一緒に出ていくのだろう。
フェイさんはずっとニコニコと微笑を浮かべたまま二人を見送って、私達に視線を移した。ちょっと童顔なのかな?笑顔を見ると最初の印象よりも幼く見えるね。
「ここでの生活についての注意点をお話ししますので、よく聞いて、きちんとお守りください。もし、守れなかった場合の命の保証はしかねますのでご了承ください。くれぐれも、ここが神獣の管理する領域であるということをゆめゆめ忘れないようにしてくださいね」
これだけ念入りに脅すということは、過去にいろいろやった人が居たんだろうなぁ。私達はとても素直な良い子揃いなので、元気よく「はい!」っと答えた(元気よく答えたのは私だけで他のみんなは普通に返事したということをここに明記しておく)。その返事にフェイさんは満足したように頷く。そして、ここでの暮らしのルールについて説明を始めた。
光の道がある場所と教会がある広場とダンジョンがある広場以外は原則立ち入り禁止。月の領域の住民達(小動物な見た目の魔物達や聖獣)に危害を加えることは禁止。ダンジョンを除く月の領域内の素材採取は禁止。月の領域内の建造物及び聖樹を含む木々の破壊は禁止。等々…。
当然だけど、ほとんどは普通に常識的に過ごしていれば大丈夫なものばかりだ。
「基本的なルールは以上です。次に宿泊場所ですが、ダンジョンの近くに冒険者達がキャンプを出来るスペースがありますので、冒険者の方はそちらをお使いください。もちろん、ダンジョン内での宿泊をしてもかまいません。この教会内の宿泊は空き部屋がある場合のみ有料で宿泊可能です。また、教会内にある売店でこの領域特産である『月光草』『月光花』『月の石』の他、聖樹関係の素材やお守りも売っています。ああ、教会内中央の奥へは立ち入らないようにお願いします。わたくし達のプライベートスペースとなっていますので…」
……宿泊場所か。どうしようか?
私が綾さんを見上げるように視線を向けると、意味を察した綾さんがそのまま千鶴さんに視線を向けた。千鶴さんは少し呆れたような顔をした後、すぐに取り繕うように微笑を浮かべてから手を上げた。
「質問、よろしいですか?」
「どうぞ」
「現在は教会の宿泊部屋の空きはありますか?」
「そうですね…」
フェイさんが私達一人一人を確認するように顔を向けた後、申し訳なさそうな顔になった。
「申し訳ございません。四人部屋一つならばありますが…」
っと、兄様の方をちらっと見る。あぁ、四人部屋ってことは兄様と同室になるね。別に私は家族だから気にしないけど、綾さんが嫌がりそう…って、もう嫌そうな顔してる。ちょっと露骨過ぎじゃない?別にそこまで嫌いじゃないでしょ?
そして、意外にも千鶴さんも難色を示していた。「同室ですか…」っと綾さんと兄様をちらりと交互に見る。あー。千鶴さん的には綾さんに好意がある兄様を同室にしたくないんだなぁ。別に信頼していないわけではないけど、兄様も気を遣うだろうし。
そんな私達の反応に気付いた兄様が苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「ああ、俺はダンジョン前の広場でテントを張るよ。三人は気にしないでこっちに泊まると良い。それに、知り合い同士とはいえ、女性に囲まれて一室に泊まるのは俺も落ち着かないからね」
「毎回気を遣わせてすいませんね。全くん」
「いえいえ。俺も一人のほうがのびのび出来ますから。気にしていませんよ」
「そうだね。でも、ここは街とは違うんだから、何かあったら一人で抱えないで私達にも言うんだよ?兄様はすぐにいろいろ抱え込むんだからさ」
「い、妹ちゃんが全さん相手に珍しくデレてる…」
……別にデレてないし。って、これじゃあツンデレみたいじゃない!!
自分自身にツッコミを入れてふがーっとしていると、千鶴さんとフェイさんから子供を見るような微笑ましい視線を送られていた。それを見ていた綾さんがボソッと
「妹ちゃんって18歳には見えないよねぇ。身長と同じで精神年齢も12歳ぐらいで止まっているんじゃないの?」
「んな!?なんて失礼な!」
そんなに子供っぽくないもんね!ないよね?
「最近の12歳の方がまだ大人っぽいかもしれませんね」
え?それって、私が12歳以下の精神年齢って言いたいってこと?千鶴さん?
私が千鶴さんをむ~っと睨みつけていると、教会の礼拝堂奥の部屋…先ほどフェイさんがプライベートスペースと言っていた場所から人が出てきた。あれ?見覚えがある人だ。
「あらあら。騒がしいですね。どうかしましたか?」
「あ、プリシラ先生。大丈夫です。特に問題ありません」
「あっ!プリシラさんだ」
「あら?うふふ。また会いましたね。皆さん」
奥から出てきた人は、聖都で私達にいろいろと教えてくれたプリシラさんだった。遠くから派遣されてきたって言っていたけど、こんなところに住んでたんだね。めっちゃ遠くじゃん!
でも、ここに配属されていたって考えると、プリシラさんはどうやって異世界に来て2日目の私達に授業を教えに聖都に来たんだろう?熾天使さんの転移で運ばれたのかな?
「お久しぶりです、プリシラさん。その節はお世話になりました」
「こんなところに居るとは思いませんでしたよ」
同じ疑問を千鶴さんと兄様も思ったのか、プリシラさんとの再会に少し警戒心が出ていた。もっとも、警戒心を分かり易く表に出すような人達じゃないから、相手側には気付かれていないと思うけど。
「それと、フェイ。また『先生』が出ていますよ?」
「あっ!ごめんなさい」
なんだろう。すごく見覚えのある光景。というか、すぐ隣の人が何度も言われているよね。
「何?妹ちゃん、何か言いたそうだけど」
「ううん。なんでもないよ」
「ところで、ここへは観光で来たのですか?もう聖都を離れているとは思いませんでした」
私が綾さんからそっぽを向いたタイミングでプリシラさんから声を掛けられた。こういう会話は他の三人にお任せなので、私はだんまりである。
千鶴さんからこれまでのあらすじをざっと説明し、ここへはたまたま聖都に迷い込んでいた(?)月兎を帰す為にやってきたと正直に話した。別に隠すことでもないからね。
その説明を聞いたプリシラさんは「なるほど」と呟き、深々とお辞儀をした。
「わざわざ聖都からありがとうございました。お礼と言ってはなんですが、教会内の宿泊代は無料とさせて頂きます。今の部屋の空き状況はどうですか?」
「一部屋だけです。なので、そちらの男性の方は…」
「俺はダンジョンある広場でテントを張りますよ。どうなお気になさらず」
「そうですか…。それで納得しているのならば強制はしません。では、彼女達は空いている部屋へ案内をして下さい。私は全さんをダンジョン前まで案内しましょう」
「それは助かります」
「どうせ一本道なので、案内するまでもありませんがね」
ふふっと笑うプリシラさんは愛想笑いの兄様を連れて教会の外に出ていった。
「では、部屋へ案内します」
兄様達を見送った私達は、部屋の案内の為に前を歩くフェイさんの後についていき、教会の東側…構造的に後から増築したのかな?…の一番端の部屋まで案内された。フェイさんが部屋の扉を開けると、聖都で借りていた宿屋とそれほど変わらない構造の四人部屋が目に入った。ひょっとしたら、宿屋の構造はこういう基準があるのかもしれないね。
「荷物はそちらの収納ボックスに仕舞ってください。魔力を登録することで本人以外は開けられなくなります。こちらはこの部屋の鍵です。落とさないように気を付けて下さいね。食事は基本的に用意していませんので、御自分達で準備するようにしてください」
説明を終えたフェイさんは最後に一礼して部屋から出ていった。シスターさんってみんな礼儀正しいよね。そして綺麗!異世界人って美人多すぎだよ!
その後は収納ボックスに物を突っ込んだり、あらかじめ用意していた携帯食を食べたり、月の領域の感想やプリシラさんとの再会について、そして、ルナちゃんについて軽く話をしたあと、眠気に襲われたので一眠りすることにした。今何時くらいなのかな?ここはずっと夜だから時間感覚がおかしくなるね。




