閑話 月兎と月の領域の住民達
ええい!よってたかって飛び付いてきて!めんどうですね!
それだけ好かれているというわけなので、悪い気はしませんけどね。ですが、ちょっと鬱陶しいですよ。何事もほどほどが良いのです。
わたしが帰ってきたことに気付いた住民達がわらわらと群がってきます。この場所では目立つのでとりあえず場所を移しましょうか。
「きゅい~♪」
「きゅ~…い!!」
特にしつこかったうさぎ…卯月ですけど…をひっぺがして即座にその場から逃走します。どうせ放っておいてもついてくるでしょう。
人族には立ち入り禁止区域である、この領域で一番広い中央広場まで走ってくると、広場の真ん中で優雅に紅茶を飲んでいる黒髪の少女が目に入りました。
彼女に近付く前に、背後から物凄い勢いで突っ込んできた卯月を捕まえて、広場の端っこでのんびりしていた角うさぎの聖獣に向けて投げ付けます。
「きゅいーー!」
「きゅい!?!?」
後は角うさぎ…ミラーに任せましょう。
改めて、黒髪の少女がお茶をしている場所に近付き、テーブルの上にひょいっと乗ります。そこにすかさず、白銀の髪の女性…弥生がお月見用の団子を出しました。彼女にお礼を言うと、とても嬉しそうに微笑んでそっと下がります。なぜ卯月にこの10分の1でも良いから落ち着きが遺伝しなかったのでしょう?本当に親子ですか?
弥生が出してくれた団子をもぐもぐと食べながらそんなことを考えていると、隣の黒髪の少女が深い溜め息を吐きました。おやおや、幸せが逃げますよ?
「この後はどうする気なのですか?」
(…わざわざ言う必要は無いと思うのですが…?)
「そうなのですが、一応言葉で聞いておきたいと思いまして」
ふーん。そうですか。まぁ、彼女も色々と複雑なのでしょう。そんなに気になるなら、隠れてないで会って来ればいいと思うのですが。この人、めんどくさい奴ですからねぇ…。
「自分を貶して楽しいですか?」
(…わたしの心の声に反応しないでください)
「話がすぐ逸れる…。それで?いつまであの子達に付き纏う気なのです?」
……話を逸らしたのは貴女でしょうに。
「…」
……睨まないで下さいよ。まったく。仕方のない人ですね。
(…具体的な日数は決めていません。とりあえず、わたしが満足するまでですかね)
「そうですか…」
彼女の憂いを帯びた顔をちらりと見て、団子をぱくりと食べてから月の浮かぶ夜空を見上げます。ここの月を見るのも久し振りですね。…そんなに長期間離れていないですし、彼女のお月見風景は見ていたので久し振りな感覚はあんまりしませんが。
(…ま、貴女からしたら、妹と兄には複雑な心境でしょうが…)
「あの二人はどうでも良いですが、綾さんと千鶴先生には恩がありますからね。あまり困らせないようにしてくださいよ?」
……素直じゃないですねぇ。兄の方は本気で興味無さそうですが。妹の方はそうでもないでしょうに。
「なにか?」
(…いえいえ。…でも、折角帰ってきたのでしばらくはここでのんびりしますよ)
「それが良いでしょう。やはりわたしよりも、貴女の方が皆さんも喜びますから」
(…彼女達が出ていく頃に一緒にまた出掛けますので、またここをよろしくお願いしますね?永久?)
黒髪の少女…永久は無表情な顔のまま紅茶をこくりと飲むと、「仕方ないですね」と呟きました。




