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28話 天才少女と月の領域と月兎の帰郷

 聖樹の森手前にある小さな街でのんびりと過ごすこと3日間。ついに、私達に『月の領域』の中に入る許可が出た。これでも短くなったのだ。ルナちゃんの件があるからね。



 『白の夕霧』は私達に許可が出た前日に先に月の領域に入っていったよ。月の領域は危険な魔物の巣窟と言われる他の神獣の領域とは違って、立ち入り禁止区域から出なければ襲われることはないみたい。だけど、立ち入り禁止区域に踏み込んだり、襲ってこないからと月の領域で暮らす魔物達に攻撃したりしたら、命の保証は無いのだとか。実際に、アホな冒険者が年に何人も犠牲になっているみたい。



 それと、月の領域には聖獣というとても珍しい生き物にも会えるそうだ。聖獣とは、魔物とは違う魔力で構成された生き物らしくて、区分的には魔物なんだけど、特別な存在らしい。滅多に出逢うことの出来ない幻の存在が月の領域では普通に会えるから、そういうところも月の領域を観光で訪れる人が多い理由になっているみたい。



 『月の女神の住処』。『聖獣の住まう神秘の森』。『月の聖域』等々…。月の領域は色々な呼び名をされているの。正直、ただの観光地でしょ?とか思っていたんだけど…。いざ入ってみたら予想以上の幻想的な景色に言葉を失ったよ。



「ふわぁ~…!」


「これは…すごいですね」


「めっちゃ綺麗…」


「ほぉ…」



 あの兄様ですら言葉を失うほどの幻想風景!途中の聖樹の森は別に普通の森だったけど、なにか結界みたいに空間が揺らいでいる場所に入った瞬間に景色が一変したの!



 あー、ちょっと興奮しすぎちゃった。改めて、街を出たところから説明しようか。



 まずは街について。聖樹の森の周りは広大な平原地帯で、比較的起伏の少ない平らな場所だ。聖樹の森の西側が海側で、街は反対の東側にあるの。この街から聖樹の森は目と鼻の先で、聖国の騎士が勝手に入る人が出ないように目を光らせてる。



 聖樹の森から月の領域へは、シスターと騎士が道案内役でついてきてくれるよ。ちなみに、街からではなく、外の別の場所から聖樹の森に入ることも出来るし、そこから月の領域に入ることも出来るけど、道案内役のシスターと騎士が同伴していない場合は侵入者と判断されて、領域内の魔物達に襲われるんだって。領域内の魔物達は最低でも、単体で冒険者規定のCランク並みの戦闘力を誇り、一部はSランク級のも紛れ込んでいるとか。不法侵入するような奴らが勝てるわけ無いよね。



 私達はもちろん正規の方法で入ったから、騎士とシスターが居るよ。私達の反応は初めて来た人は大体同じような反応をするらしく、特に子供な見た目の私に微笑ましい視線が送られていた。



「月の領域での注意点ですが、この光っている道から逸れて森の中に入ってはいけません。故意でなくても、中に立ち入った場合は侵入者として攻撃される可能性があります」


「また、領域内での勝手な素材収集も禁止とされています。素材の収集はダンジョン内のもののみとなっています。ただ、この先案内をする教会には、この領域で採れた素材が売られていますので、欲しい場合はそちらで購入して下さい」



 領域内で売買があるの?街は作れないんだよね?でも、教会があるのか。うーん。外から来る人用に作った建物なのかな?でもお金って何に使うのかな?教会の維持費?でもなんで教会なのかな。普通に宿屋でも良いと思うけど。



「では、教会まで案内します」



 教会の存在について疑問に思いつつも、騎士さんとシスターさんの後をぞろぞろとついていく。領域に入る前の外は朝でまだ日が出ていたのに、この場所に来た途端に夜になっていることに今更ながら気付いた。シスターさんに質問してみると、この領域は一日中夜なのだという。



 一日中夜だから暗いかと言えばそういうわけではない。夜空にはプラネタリウム並みの星々が瞬き、大きな満月が月明かりを照らしている。更に、領域のあちこちにある大きな木から光の粒子が領域全体に飛び交っていて、その粒子が灯りの役目は果たさないけれど、視覚情報的にはキラキラしている。更に更に、地面の方には月明かりほどでは無いけど、似たような仄かな光を放つ花や草が生えていた。どうやら、明るい道が出来ている場所に沿って生えているようだ。これが光る道の正体だね。この道以外にも森の中にちらほらあるみたいだけど、中に入るのは危険なのでスルーする。この花や草はそれぞれ『月光花』、『月光草』という名前らしい。薬の材料にもなるので、欲しい場合は教会で売っているからそこで買うしかないみたい。



 ダンジョンがあるからやはり冒険者の来訪者が多いけど、こうした特産品目当てに商人が買い付けに来たり、道さえ逸れなければ安全なので、神秘的な景色を見に観光客が訪れるみたいだね。しかも、教会前には人に慣れている月兎やその他の小さな小動物系の魔物と触れあえたり、運が良ければ聖獣にも触れるそうだ。動物園のふれあい広場みたいな感じ?



 あちこち見回したり、シスターさんから話を聞いているうちに月の領域内の教会に着いた。へぇー。そこそこ大きいんだね。まぁ、宿泊所としても機能しているらしいから当たり前か。



「きゅいー!」


「きゅいきゅい!」


「わっ、わっ!なにごと!?」



 私達が教会前の広場に来た途端、あちこちからうさぎやリスや小鳥やネズミ等がわらわらとやってきた。そして、その中でも特に一際動きの速いうさぎが私の足元に突っ込んできて…



「きゅいー♪」


「きゅい!?」



 私の足元に居たルナちゃんを突き飛ばした。正確には抱きついた勢いのまま二匹が塊となって吹っ飛んだ。あまりにも速くて私にはどうすることも出来なかったよ。



 吹っ飛んだルナちゃんとうさぎに群がってきた小動物(正確には魔物)達が続くように飛びかかり、あっという間にルナちゃんの姿は見えなくなってしまった。



「どうなってるの…?」


「ルナちゃん人気者だったんだねぇ…」



 突然の出来事に呆然と呟く私と綾さん、ここまで案内をしてくれた騎士さんとシスターさんも驚いたような顔をしているから、とても珍しい光景だったのだろうね。



……ルナちゃんはこのまま帰してあげれば良いかな。



 うさぎ達がわいわいとしている姿を見ていると、とんとんと肩を叩かれた。後ろを振り返ると千鶴さんが優しい笑顔を浮かべていた。



「行きましょうか」


「……うん」



……ちょっと寂しいけど、あれだけ仲間が喜んでくれたのだ。これで良かったんだよね。



 私は最後の別れにと、群れの中に紛れているルナちゃんに向けて小さく手を振って、その場を後にした。




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