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26話 天才少女と異世界のお勉強(ダンジョン編)

 聖都から『月の領域』から一番近いの街までの馬車旅はおよそ三週間掛かった。



 馬車の速度がそれほど速くないのもそうだけど、24時間休憩無しでずっと馬が走ってくれる訳(走らせようものなら動物愛護団体からの抗議まったなしだね)もなく、街と街の距離の都合上野宿を強いられる区間があったりするため、道中の街や村で物資(主に食料)の補充をしたり、馬車の整備をしたりで一日以上一つの街に滞在することも多かった。



 そんなわけで、私達は終点である月の領域がある聖樹の森の手前の小さな街…村?…で乗り合い馬車を降りた。なんとか吐かないで耐え凌いだよ!



 道中に関しては特にこれといって特筆するべきことはないかな。時々魔物に襲われることはあっても、『白の夕霧』のメンバーがあっさり倒してしまうし。たまに、兄様や千鶴さんも交じって戦ってたけどね。綾さんはうまいことテキトーなことを言っても一回も戦いに行かなかった。綾さんは元々戦うこと自体を忌避しているし、仕方ないかな。



 そして私は、一緒に戦うわけでもない(戦える状態ではない)のに毎回魔物が出る度に同行させられたんだよね。いや、確かに外の空気を吸って多少は馬車の酔いも醒めるんだけどね。気持ち程度ね。そんな気持ち程度楽になったところで、グロ映像のせいで帳消しだよね。勘弁してよホントに…。



 そうそう。馬車旅の途中でリリアーナさんからちょこっとだけ調合を教わったよ。調合というより、調薬と言った方が良いかな?とにかく、薬の作り方だね。



 お返しにということで、トリアさんに電気について軽く指導したよ。私が使った時のを見てある程度の再現はしてるみたいだから、安全のためというのもある。練習中に感電死とかされたら目覚めが悪いし…。



 本当はリリアーナさんにお返ししたかったんだけど、「気が向いたから教えただけですわ」とか「そんなに何か返したいのならば、トリアに雷魔法を教えて差し上げて下さいませ。この間、ランがとばっちりでしびれていましたの」とか言われちゃったらしょうがないよね。兄様達も苦笑しながら許可をくれたよ。



 もちろん、出す情報には十分に注意した。地球産の知識を詳しい原理の説明とか省いて、かなりアバウトに説明したんだ。それだけで雷の出力がある程度安定していたのだから、トリアさんはすごく優秀なんだと思う。



 馬車を降りた私達は月の領域が目的地で一緒ということで、『白の夕霧』と同じ宿屋に泊まることになった。



 既に日も傾いていて、夕食が近い時間になっていたため、速やかにチェックインを済ませて荷物を置いた後に、宿屋の一階にある食堂で『白の夕霧』と食事をすることに。別に約束をしていた訳では無いけれど、タイミング的に重なっただけだ。一緒のタイミングでチェックインしたからね。



「そういえば、今更だけど、トリアさん達は『月の領域』に何しに行くの?」



 ということで、みんなと同じテーブルで食事をしているのだけど、食事中にふと疑問に思ったので目の前の対面席に座ってステーキのお肉を小さく切って食べているトリアさんに質問してみた。



 トリアさんはきょとんとした顔になってお肉をフォークで刺した状態で私を見詰める。でも、すぐにいつもの無感情な顔に戻ると、お肉をぱくりと口にしてから、もぐもぐと口の中の肉を噛んで飲み込んでから口を開いた。



「本当に今更なの。私達は月の領域の中にあるダンジョンに行く予定なの」


「月の領域にダンジョンがあるの?」



 私の質問にこくりと頷いてから食事を再開するトリアさん。三週間一緒に居て知ったことだけど、トリアさんは普段はとても無口なのだ。ボソッとつっこみを入れたりする以外は日常会話にはほとんど参加しない。トリアさんがよく話す時は何かを説明している時か、魔法の話題の時だけだね。



 そんなトリアさんの横で話を聞いていたランちゃん(私より年下らしいから、ちゃん付けで呼ぶことになったよ)が苦笑交じりに補足してくれる。



「月の領域は元々月兎の神獣が管理している場所だって言うの知ってる?」


「うん」


「その月の領域には私達のような人族が入っていい区画と進入禁止の区画があるの。それで、入って区画には『朧月夜』っていうダンジョンがあるんだよ」


「へぇ…。ところで、ダンジョンってどういう感じなの?そもそも何なの?」


「えっ!?えっと…。ト、トリアぁ…」



 私の質問にランちゃんは困ったようにトリアさんに顔を向ける。トリアさんは小さく切ったお肉をもぐもぐと咀嚼していた。



「もぐもぐ…。ん、そもそも輪音はどの程度ダンジョンについて知識があるの?」



 どうやら説明する気になったようだ。でも、ダンジョンについてはプリシラさんからは名前程度にしか聞いてないんだよね…。



「ダンジョンというのは、不思議な空間で出来ていて、特別な素材や道具が手に入ったりする場所の事ですね?私達にはそれぐらいの知識しかありません」



 私が答えに窮していたのに気付いてか、すかさず千鶴さんからフォローが入った。名前くらいしか知らないと答えても良かったけど、冒険者なのにダンジョンを知らないのは少し不自然かもしれないからね。



「なるほど。それなら一応聞いておくと良いの」



 トリアさんは千鶴さんが代わりに答えたことに特に疑問を覚えることもなく説明を始めた。



「ダンジョンとは、ダンジョンコアによって生み出された領域のことを言うの」


「『領域』って神獣と同じ?」


「まぁ、そういうことなの。そもそも領域というのは『世界魔法』という魔法に分類されるの。超高難度な上に魔力も途轍もないくらい使うから、人族にはほぼ使えない魔法なの」


「『魔法で領域が作られる』。なるほどね。っていうことは、ダンジョンコアって生き物なの?」



 いつの間にか綾さんも会話に参加してる。さっきまで興味無さそうに黙々と食事してたのに。



「当たりなの。ダンジョンコアは魔物に区分されるの。世界魔法が使えるほどに強力な魔力の塊なのだけど、その魔力はダンジョンに関するすることにしかほとんど使えないの。ダンジョンコア自体が変異種に進化すれば制限もある程度解除されるらしいけど、その辺りの生態はよくわかってないの」


「要は、普通の魔物とは違うちょっと特殊なタイプの魔物ってこと?」


「ま、そんな認識で良いの。それで、基本的にはダンジョンは国や冒険者ギルドで管理してるの。貴重な素材や武具を供給出来る場所なのだから当たり前の話なの。だから、それらの管理されているダンジョンを破壊することは国家反逆罪とかの罪に問われるから注意するの」


「ひえ。国家反逆罪…。」


「まぁ、貴重な資源の供給場所をダメにされるようなものだもんね。そりゃあ重罪にもなるよ」



 うぅ。綾さんの言う通り用途を考えれば当然のことである。しかも、ダンジョンは特別な空間で、一見入り口は狭そうでも中はとても広かったり、いろんな気候の場所があったりするらしいから、その価値は想像するに難くない。例えば、海のあるダンジョンがある場合は、塩や海産物をそこから調達出来るようになる。魔物が跋扈するから簡単に出来ることではないけど、内陸地で塩を供給できるようになるのはとても大きいことだ。



 国としても大事だけど、ダンジョンに潜って素材を手にいれてお金を稼ぐ冒険者や、ダンジョンの素材を買ったり冒険者用の商品を売る商人が集まったり、それらの宿泊所として宿が出来たり、食事処が出来たり娯楽施設が出来たり…。ダンジョン一つで、一つの街の産業が成り立つのだ。国の施政者だけでなく、多くの人に恩恵を与えている。それがダンジョンなのだ。



「ただし、一つだけダンジョンの運営には注意するべきことがあるの」


「スタンピード…ですね?」


「そうなの。それは知っているの?」


「まぁ、なんとなく想像はつくかな」



 ダンジョンのスタンピード。つまりは、ダンジョンの中に生息する魔物が溢れかえって逆侵攻してくる現象…だと思う。ファンタジー物語だと大体そんな感じの出来事として描かれていたはず。



「一応説明しておくの。ダンジョンは常に一定周期で調査が必要なの。理由はさっき千鶴が言った『スタンピード』なの。魔物溢れとも言われるの。ダンジョン内の魔物が増えすぎて、かつ暴走した時に起きるの。だから定期的に調査をして、事前の兆候とされている魔物が通常時より異常に多く出現しているかどうかを見ているの」


「補足しておくと、スタンピードはダンジョンだけの用語ではなくて、魔物の多い森などから大量に魔物が溢れてくる時にも使われる」


「なの」



 トリアさんの説明にフォセリアさんの補足があって、ダンジョン講座は終了した。へぇー勉強になるなぁ。っと私がうんうんと頷いていると、綾さんが肩をとんとんとつついてくる。何?と顔を上げると、綾さんがテーブルの上を指差した。あ、そういえば食事中だったね。…って、いつの間にかみんな食べ終わってる!?



「ちなみに、月の領域にあるダンジョンってどんな感じのところなんですか?」



 綾さんが、私が必死に食事をかきこんでいるのを笑いをこらえるような顔で見ながらトリアさんに質問していた。う~。千鶴さんもにこにこしながら水の入ったコップを持って待機しないで!そんなベタなことしないよ!



「『朧月夜』は私達もまだ行ったこと無いの。だから楽しみなの」


「月の領域の場所は大陸の西端に当たる場所で人の行き来が面倒なうえに、入場制限があるのに冒険者から一般人にも人気の場所なのよ。そのせいで、前回この辺りに来た時には都合が合わなくて行けなかったのですわ」


「『入場制限』ですか?」


「ええ。一応は神獣の管理する領域。あまり人で溢れかえると監視が行き届かないから、入れる人数は厳重に管理されているのですわ」


「はぐっはぐっ」


「妹ちゃん、そんなに焦って食べなくていいって」


「ぷはっ」



 食べ終わった~。綾さんがくすくす笑いながら私の口元をハンカチで拭った。それをパシッと止めてハンカチをひったくって自分で口元を拭う。もう!そういうことするから余計に子供に見られるんじゃん!やめてよね!



「輪音も食べ終わったようですし、ここで解散にしましょうか。貴重なお話、ありがとうございました」


「別に、冒険者なら常識の範囲なの。気にすること無いの」


「明日からは入場制限の状態を確認しつつ、ダンジョン攻略のための準備をするぞ」


「わかってるよー」


「ふわぁ、ねむ…」


「貴女は本当にいつでも眠そうですわね…。では、皆様もごきげんよう」


「タイミングが合えば一緒に月の領域も行くの。おやすみなの」


「それじゃ、私達はこれで」


「本当にここまでの間、いろいろとありがとうございました」



 千鶴さんに続くように私達は『白の夕霧』のメンバーにお礼を言った。まだ数日は一緒に行動するかもしれないけどね。言えるときに感謝は伝えないとね。



 そうして、『白の夕霧』のメンバーを見送ってから、兄様は一人部屋、私と綾さんと千鶴さんは三人部屋の借りている部屋に戻った。




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