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23話 天才少女と調合(お薬編)

 ゴブリンジェネラルの変異種を討伐した件については、新人のGランク冒険者が目立ち過ぎるのは良くないという理由で千鶴さんと兄様が『白の夕霧』のメンバーと話し合った結果、私達が最初に遭遇して足止めをして、『白の夕霧』がそこに助けに入ってトドメを刺したという設定で通したそうだ。それでも、今回の魔物の変異種の強さは冒険者ギルドの規定ランクでBランク近くはあるだろうと推測されていたので、足止めだけだったとしても貢献として評価される結果となった。



 その結果として、私が冒険者ランクF、綾さんがE、兄様と千鶴さんはDランクに昇格したよ。兄様と千鶴さんはかなり早いペースでランクが上がっているから、ギルドの間でも名前が憶えられてきているみたい。Cランクまでいけば二つ名が付くかもだってさ。凄いよね!でも、二つ名を考えてあげるって言ったら二人してとても良い笑顔で断って来たの。失礼じゃない?絶対に文句を言わせないようなの考えてやるんだから!



 それは置いといて、実際には私達だけで討伐しているのに、素材や討伐料をほぼ何もやっていない『白の夕霧』と折半することになったみたい。フォセリアさんが事後処理料以外は渡そうかと言っていたらしいけど、千鶴さんはそれを断って、代わりに『月の領域』まで一緒に行動する約束をしたみたい。『白の夕霧』は本当には明後日にでも聖都を発つ予定だったのを私達の都合に合わせて数日見合わせて出発することになった。もちろん、一緒に行く私達も同じ日に合わせて準備をしなければならない。



 とまぁ、そんなわけで、今は旅に必要なものを『白の夕霧』のメンバーに教えてもらいながら準備をしている期間なんだけど…。私はすんごく非力でまともに荷物を持てないから留守番することが多かった。



 そんな中、暇な時間を過ごしていた私は今まで頭の片隅の分かりにくい場所に転がっていた〈調合〉スキルをふと思い出して、暇だったので試してみることにした。



 まずは初心者向けということで、旅中でも使える簡易セットを買ったよ。中身は、主に薬草をすり潰すのに使うすり棒と受け皿である鉢。それと、出来上がった薬を保管する用の試験管のようなものが3個入っていて1セットになっているの。この試験管のようなものがガラスなせいでかなり割高みたい。ガラス製品は貴族とか富豪相手に使われることが多い素材だから、高級なものというイメージがあるせいで、商業ギルドが富豪向けの料金で設定しているらしいから仕方ない。



 魔物の変異種を倒したことで得たお金の一部を使って調合セットを買ってもらった私は、さっそく外に出た時に採った薬草(変異種と戦った日に集めた薬草のこと。宿屋の部屋に置きっぱなしにして忘れてたの)で調合でも試そうと準備をして、本で読んだ知識でテキトーに作った薬がこちら。



【名前】ポーションもどき

【性質】痛みを一時的に和らげるような気がする。

【構造】液体



「…」


「きゅい…」



 これにはルナちゃんも呆れたような溜息。私の鑑定眼による結果は視えないはずだけど、少なくとも薬を作ろうとして失敗したことは分かったみたいだ。



「ルナちゃんは賢いねぇ。…ってそれ持ってどこに?…あ!ちょっと待って待って!捨てようとしないでぇ!!」



 散々な結果に終わったポーション作りだけど、〈錬金術〉スキルが無いから補正も少ないし仕方ないと思う。そう言い訳しながら私のユニークスキルの能力である〈鑑定眼・科学〉でルナちゃんから取り戻した失敗作の構造を鑑定して、どういった成分が配合されているのかを詳しく調べる。店先に並んでいたポーションを鑑定したことがあるから成功品の構造を視ているので、これで何の成分が足りていないか判るのだ。そこから調合方法を少しずつ変えて試していけばきっと近いところまで出来るはずだ。



 数多の薬草を犠牲にして、私の集中力と魔力も犠牲にして半日ほど頑張った結果出来たのがこちら。



【名前】ポーションもどき

【性質】健康になるような気がする

【構造】液体|(薬品)



……この鑑定眼、私のこと馬鹿にしているでしょ?【性質】健康になる気がするって何よ!?



「む~。なんで上手くいかないんだろう?」


「ただいま~。あ、妹ちゃん、調合やってるの?」


「お邪魔するの」



 私が唸りながらルナちゃんが転がして遊んでいるポーションもどきの入った試験管を見ている(ガラス製だから割れないかヒヤヒヤしていた)と、綾さんとトリアさんが部屋にやってきた。トリアさんはたぶん収納魔法を使った荷物持ち要員だと思う。



 私も収納魔法自体は使えると思うんだけど、収納魔法って持続魔法に分類されるから、魔力容量を圧迫する仕様上、魔力の少ない私ではあまり物が入らないんだよねぇ。そんなことを思いながらトリアさんが収納魔法からポイポイと買って来た荷物を部屋の中に置いていくを見ていると、綾さんがルナちゃんが遊んでいた試験管を手に持って首を傾げた。



「なにこれ?青汁?」


「ポーションもどき」


「ポーションなの?え、『もどき』?」


「失敗作だよ~」



 手持ち無沙汰になったルナちゃんを捕まえようと手を伸ばすと、さっと逃げられた。むぅ。仕方ないので綾さんの方を見上げると、なんとも言えないような顔をしてる。



「まさか、今日ずっとこれを作ってたの?」


「そうだよ~。全然上手くいかないの」



 まぁ、こういう何も結果の出ないことなんて、研究ではよくあることだけどね。そんなに毎回望む結果が出たら、人間は今頃不老不死の薬でも作ってるよ。こういうのは地道に原因を探って修正していくしかないんだよね~。修正したら別の問題が出てきて収拾がつかなくなることの方が多いけどね。



 すると、収納から荷物を出し終えたトリアさんが顔を出して、綾さんの手元にある試験管をじっと見詰める。



「初めての調合なの?」


「うん?いや、ここ数日はずっとこれ作ってるよ」


「…これはポーションなの。〈錬金術〉スキルが無いとポーション作成は難しいの」


「〈調合〉スキルならあるんだけど…」


「〈調合〉スキルだと、最低でもレベルが5以上ないとまともなポーションは作れないと思うの」


「うへぇ、スキル世界厳しい…」


「だから、ポーションじゃない薬を作れば良いの」


「ポーション以外の薬?風邪薬とか?」


「流行り病の特効薬を作ったら宮廷薬剤師の道が開けるの」


「そっか。止めよう。そもそも、作れるか分からないし」



 性質(成分)解析していれば、風邪に効きそうな素材を調合して作れそうではあるけれど、面倒事になりそうだし、モチベもないからやりません!



「となると、なんの薬?」


「普通に軟膏薬なの。それか、健康に良いものを集めて調合したものでも良いの」


「ああ。漢方ね」


「カ、ンポウ?なんなの?」


「あ、ごめん。なんでもない」


「妹ちゃん、迂闊すぎ…」



 軟膏薬と漢方薬ね。漢方薬なんて栄養剤みたいなものだし(偏見)、作るなら軟膏かな。あ、でも、栄養剤は良いかも。考えが煮詰まった時に飲むんだよね。後、寝ないで頑張りたい時とか。



「あ、でも、軟膏の調合方法はわからないや」


「軟膏は一般家庭での知識で作られるか、エルフぐらいしか使わないの。軟膏を作るぐらいならば、大体の医者はポーションを作っているか納品しているの」


「なるほどねー。一般家庭の知識は本にはなかなか載らないか…」



 探せばあるかもしれないけど、わざわざ本に載せるような知識ではないって省かれていそうだね。



「…私に考えがあるの」


「考え?」


「交換条件とも言うの」


「な、なに?」



 トリアさんが交換条件とかいうから、警戒する。どんな要求してくるんだろう?



「リリはエルフなの。リリなら色んな薬の調合を知っているの。リリを説得して基本的なエルフの調合技術を教えてあげるの」


「リリって誰?」


「リリアーナなの。親しい人にだけ愛称で呼ぶことを許可されているの」


「へぇー」


「いや、名前からしてリリアーナさんしか居ないじゃん…。『白の夕霧』のメンバーでエルフって条件でもう決まってるようなもんだし」



 リリアーナさん。あの街中ではいつもフードを被ってるエルフの人だよね。フードのせいでちゃんと顔が見えないけど、私は身長が低いからフードの下から覗き込めるんだよね。めっちゃくちゃ美人だった。あーでも、熾天使のセラさんとか、聖天使のアイリスさんとかに比べたらそうでもないかも。おねえちゃんとは比べるだけ可哀そうだ。どの世界でもおねえちゃんより綺麗で可憐で可愛い人は存在しないからね!



「輪音がだらしない顔してるの」


「気にしないで、度々こうなるから。いつものことなの」


「これがいつものことなの?変な人なの」



 なんだか散々に言われているような気がするけど、何の話をしていたっけ?あ、そうそう。エルフのリリアーナさんに調合を教えてもらうっていう話だったね。



「でも、タダでは教えてくれないんだよね?交換条件って言ってたし」


「当たり前なの。エルフの知識は貴重なの。代わりに雷魔法の一番簡単な魔法のイメージを教えて欲しいの」


「雷魔法か…」



 一番簡単なイメージというと充電なんだけど…。そんなの教えてもしょうがないよね?教えるならスタンガンかな?



「前に見せてもらった雷魔法の現象と、この間のゴブリンジェネラルの変異種の死体の状態から、それっぽいのは出来たの。だけど、コントロールも出来なければ魔力の消費も多すぎるの。これじゃあ魔法としては不出来なの」


「あ、コントロール出来ていないとはいえ、もう使えるんだ」



 たった一度しか見せていないのに。トリアさんって実は結構すごい?



 と言っても、私の雷魔法は地球の知識や科学知識に基づいて使っている部分が多い。それらの知識を教えるのは私の一存だと無理かな。一応、綾さんの方を見て確認をしてみると、しぶーい顔をしながら横に振った。無理だと思うけど、兄様と千鶴さんにも聞いてみようかな。



「あー。雷魔法に関しては一度兄様と千鶴さんにも確認させて」


「分かったの。無理にとは言わないの。私も出来れば自分の力だけで使えるようにはなりたいの。でも、とっかかりがないと難しいからダメもとでお願いしただけなの。本当に教えても良いならいつでも声を掛けて欲しいの。そうしたらリリを無理やりにでも説得するの」


「無理やりはやめてね…」


「ああ見えて、リリを説得するネタは多いの」


「ホント、無理矢理はダメだよ?」



 ポーションの制作は〈調合〉スキルのレベルが上がるまでとりあえず見送ることになった。兄様と千鶴さんにトリアさんと話した内容を相談すると、私以外で雷魔法が使える人が増えれば奇異の視線も和らぐだろうから賛成らしいけど、どの情報を与えるかはよく吟味しようということになった。地球の科学知識無しでどこまで教えられるかわからないけど、とっかかりだけで良いって言っていたから大丈夫だよね?ちゃんと考えてから教えないと。



 軟膏については、一般家庭の奥様から少しの代金を支払って教えてもらった。ポーションほどの効き目はないけど、怪我をした時の治療に役立つね。それと、飲み薬じゃないから試験管を使わないのも良い。いくつかストックしておこう。漢方薬は…私のやる気が起きないから今回は作成を見送った。そもそも、素材も希少な素材があったりしてお金もかかるし。



 そして、私がちまちまと軟膏を作ったりしているうちに兄様達が旅に必要なものを一通りそろえ、いつでも聖都から出れる状態になった。結局、私はあまり準備の手伝いをしなかったから罪悪感が少しあったのだけど、千鶴さんが凄くイイ笑顔で「旅の必需品の魔術具です。持っていてくださいね?」と、どっさりと渡してきた。千鶴さんって絶対Sっ気あるよね。絶対。お陰で罪悪感が薄れたよ。魔法が使えるの私しか居ないから仕方ないんだけどさ。



 予定としては、明日は休養日で、明後日に乗合馬車に乗るらしい。商人の護衛依頼を受ける話もあったけれど、ちょうどいい時期に出発するのが無かったんだってさ。



 さて、残りの準備は明日やるとして今日はもう寝るとしようかな。




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