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閑話 兎少女と偽造工作

 魔物の変異種…情報によるとはぐれゴブリンが進化してゴブリンジェネラルとなった際に突然変異したと思われる…を討伐するために森の大分奥の方まで捜索しているの。だけど、変異種どころか普通の魔物にも会わないの。これはおかしいの。



「もっと奥の方に逃げたか?」


「そうかもしれないけど、魔物の少なさを考えるならば、そう遠くない場所に居るはずよ」



 セリアとリリの話を聞きながら、兎の耳で周囲の音を拾って変異種の気配を探っているけれど、全く気配が無いの。リリの視線を感じて顔を向けると、気配を感じるかどうか目で聞いてきているの。それに目を合わせて、私は小さく顔を横に振るの。



 リリはそれを確認すると小さく溜息を吐いてからフードを取り払ったの。エルフ特有の輝く金髪が森の木漏れ日から来る光に当たって眩しいの。



「わたくしの精霊にも反応がありませんし、索敵範囲を広げた方が良いですね」


「見付かれば良いけど、あんまり遠くに行って見失っちゃうと厄介だね」


「他の冒険者パーティーもまだ見付けてなさそうだな。仕方ない。もうちょっと奥に行こうか」


「ふぁ~い…」



 智里が眠そうにあくびをしながら返事をしたの。昨日もほとんど寝ていたくせにまだ眠いの?きっと寝すぎで体がおかしくなっているに違いないの。



 街から更に離れた場所まで移動すると、突然ずっと後ろの方から照明弾の発射する音が聞こえたの。私が振り向いて空を見上げると、ずっと遠くに確かに見慣れた明かりが見えるの。私が振り向いたことで他のメンバーも同じ様に振り向いて空を見上げて照明弾の明かりを確認したの。すると、場所を見たセリアの顔が真っ青になったの。



「あの辺り…確か千鶴さんや全さん達が居る辺りだぞ」


「え?それってまさか。あの照明上げたのって彼女達?」



 千鶴と全とは何回か一緒に森に入ったことがあるけど、もしも狼の魔物の群れがやってきてもあの二人ならなんとかなるくらいの実力があるの。もう北側の魔物と戦えるほどの人が二人も居るのに、あんな森の浅い場所で照明を上げるなんてよっぽどのことが起きたの。本当にランの言う通りあの人達が照明を上げたのだとすれば、恐らくは…



「変異種は森の浅い場所に居たの?」


「どこかのパーティーとの索敵範囲の間を抜けてしまったのかもしれないわね。なんにしても、急いで向かいましょう」



 リリの言葉に頷いて、私はパーティー全員を対象に風魔法の『レギオンウィンド』をかけて、風の力で移動速度を早くしたの。ランが「補助の役目とらないでよ~」とか言っているけど無視なの。早い者勝ちなの。



「アホなこと言っていないで、行くぞ!」


「了解!」「ええ」「わかってるの」「うーん」



 若干一人だけ眠そうだけど、いつものことだから大丈夫だと思うの。もし戦闘になってもうとうとしていたら氷を背中に流してやるの。



 急いで照明が上がった場所まで来たの。だけど、もう戦いは終わっていたの。どうやら、千鶴と全が足止めして綾が注意を逸らしている間に、輪音が雷魔法を撃ちこんで倒したらしいの。初めての四人での戦闘、しかも魔物の変異種という強者を相手に中々の連携なの。これは将来有望なの。



 魔物の変異種討伐の詳しい報告書作りは他のメンバーに任せて、私は雷魔法で死んだと思われるゴブリンジェネラルの死体を詳しく見ているの。…ざっと見た感じでも、このままギルドに提出するのはマズイかもしれないの。



「千鶴、全、確か、あまり目立つようなのは避けたいと言っていたの」


「はい?ああ、そうですね。変異種討伐はもう仕方ないと諦めていますが…」



 セリアと話をしていた二人に話しかけると、一瞬戸惑ったようにしながらも、千鶴はきちんと答えたの。諦めているとは言っても、騒ぎにはなりたくないはずなの。少しだけ助言をしてあげることにするの。



「この死体をこのまま出すのは良くないかもしれないの。雷魔法の存在をギルドが知ったらいろいろと聞かれそうなの」


「雷魔法の存在はギルドには秘密にした方がいいのかい?」


「冒険者の魔法使いにいろいろと聞かれる分には問題無いの。問題は、国の宮廷魔術師とかに目を付けられて雷魔法の伝授の仕方を国として依頼されたり、最悪は取り込もうとしてくる可能性もあるの。一番穏便にすみそうな方法はユニークスキルとすることだけど、特殊で強力なユニークスキル持ちで、かつ冒険者として日が浅いとなると、ギルドから目を付けられていろいろと利用されるかもしれないの。危険な討伐依頼とかをあれこれ理由つけて回してくる可能性があるの」


「その可能性は高いな。私達も旅をしているフリーの冒険者パーティーなのにあちこちのギルドで危険度の高い仕事を頼まれることがあるからな」


「一応断れるけど、印象が悪くなるぞって脅されるんだよねー。むしろマナー違反なのはギルド側なのにね」


「なるほど。輪音の雷魔法で倒した魔法は細工しておこうか。今の段階でそこまで目立つのは避けたいからね」


「この鳥もあとで私がナイフを入れて傷付けておきましょうか」



 どうやら、戦闘になるからと地面に落としていたらしい鳥の死体は雷魔法で狩ったみたいなの。確かにぱっち見では外傷が見当たらないの。血の臭いはしないけど、僅かに焦げている臭いがするの。きっと表面はわかりにくいけど、体の内側が焼けているんだと思うの。



「トリア、具体的に雷魔法の死体にはどのような特徴があるのかしら?」


「見ての通り、この大穴の開いた心臓部が魔法の直撃した場所だと思うの。そこを中心に全身が焼けているの」


「丸焦げだねー。うっひゃー凄い威力」



 ランの言葉に頷くの。私は更に説明を続けるの。



「ここまでは既存の魔法でも再現出来るから問題無いの。問題は体の中なの」


「体の中?」


「どうやら、雷魔法は外傷よりも体の内側に与えるダメージの方が高いみたいなの。今はイメージで既存魔法のアレンジが沢山存在するけれど、体の内側を焼いて破壊する様な魔法なんて聞いたことが無いの。解体する時にバレる可能性があるの」


「雷という攻撃自体がかなり珍しいからな…。ギルドに死体を持ち込む前に死体に何か細工をした方が良いかもな」


「この魔物を倒したのは千鶴達なの。だから、素材は全て千鶴達のものだから、素材さえいらないならば私が魔法で燃やしてしまえば良いの」


「よろしいのですか?そこまでしてもらっても、私達はなにも返せませんが…」


「…私の魔法で倒したことにして誤魔化すのならば討伐料も分割になるの。素材はほぼ使えなくなるけど、爪とか牙や、持っていた武器とかはもらえるの。でもそれも分割になるの。それでも良いの?」



 この提案は冒険者としてはとても理不尽な提案なの。冒険者として名声を上げたいならば絶対に受けないの。だけど、全も千鶴もお互いに顔を見合わせてからすぐに頷いたの。名声による面倒事よりも、安全をとったの。それもまた冒険者としては必要なことなの。危険は可能な限り避けるべし、なの。



 私は一応リーダーであるセリアを見て許可を求めると、セリアも相手が納得しているならと頷いたの。セリアがギルドに話す内容を千鶴達と相談し始めたのを見て、私はこっそり智里を手招きしたの。



「…?なに?」


「この部分をちょっと切り取って欲しいの」


「そんなことして良いの?」


「私が個人的な研究のために使うの。バレないから大丈夫なの」


「ふぅん?まぁ、良いけど」



 智里に体の一部分、雷魔法が直撃した胸の辺りを少し切り取ってもらい、それを収納魔法で仕舞っておくの。それから、炎魔法で適当にゴブリンジェネラルの体を燃やしておくの。これで皮は完全に使えなくなったの。だけど、内臓や肉が焼き切れていることの誤魔化しにはなるはずなの。



 後は討伐証明用の魔石を回収…あれ?



「魔石はどうしたの?」


「ああ、ごめん、俺が持っているよ」


「じゃあ、それはセリアに渡しておくの」



 全が懐に仕舞っていたゴブリンジェネラルの変異種の魔石をセリアに手渡すを見届け、私はもう一度死体に妙な痕跡が無いか確認するの。…うん、問題ないの。



「こっちは終わったの」


「こちらも話が纏まった」


「それじゃあ、他のパーティーが来るまで少し待機なの?」


「そうだな。もうすぐ来るだろうから待っていようか。千鶴さん達も悪いけど…」


「問題ありません。全さんも良いですよね?」


「もちろん」



 他のパーティーもすぐにやってきて、死体を確認して、千鶴さん達が足止めして私達がトドメを刺したことで納得してくれたの。この人達も捜索協力として少しだけお金が入るから損にはならないの。これで後はギルドに報告して帰るだけなの。帰ったら切り取った肉片を解析してどのような攻撃であのようなダメージを与えたのか調べるの。



……いつか絶対に雷魔法を覚えてやるの。私が使えるようになれば、輪音も遠慮なく魔法が使えるようになるの。そしたらもっと輪音と魔法の研究をするの。とっても楽しそうなの。



 そんな野望を胸に秘めながら、私は丸焦げになったゴブリンジェネラルの死体を収納魔法に仕舞った。




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