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プロローグ3 天才少女と姉の墓参り

 兄様の提案で移動することになった私達は、会計を兄様に全て任せてお店の外に出た。



「良かったのかしら?また全員分おごってもらってしまいましたが」


「良いの良いの。兄様、お金持ちだし」



 血族である私がだいじょぶだいじょぶと真面目な千鶴さんに言うと、千鶴さんは「そう?それなら遠慮するのは失礼ね」と先ほどまでの申し訳ない顔からあっさりと普段の顔に戻った。こういうところは大人だなぁっと思っていると、兄様が会計を終えてお店から出てきた。



「それじゃあ、いつもの場所に向かうけれど…」


「兄様は後から来て」


「だね。月代さんは後から来てください」


「あはは。了解」



 兄様と私達が連れ立って歩くと非常に周りの視線が痛いのだ。私と綾さんの言葉に兄様も苦笑しながら了承すると、手をさっと振って「それじゃ、また後で」とさっさと歩いてどこかに行ってしまった。たぶん、ちょっと遠回りするだけだろうから、私達も早く行かないと。



「私達も行こっか」


「ほーい」「ええ」



 軽い感じで返事をした綾さんが私の右側、小さく返事をした千鶴さんが私の左側に立って歩き始める。特に意味はないと思いたいけど、毎回こういう風に私を挟むようにして歩くんだよね。



 しかし、兄様が居なくなっても周りからの視線はそれなりに来る。私もそうだし、綾さんと千鶴さんも整った容姿をしているから、美少女三姉妹的な感じに見えているのかもしれない。私はこういう視線はあまり好きじゃないから時間が経つごとにどんよりと気分が落ち込んでくる。



「全く。男共の視線は本当に野蛮ね」


「いやいや。綺麗な人は居たら思わず視線がいってしまうのは仕方ないじゃん?」


「鬱陶しい…」


「煩わしいですね」


「妹ちゃんも先生も辛辣…。というか、先生は別に男嫌いじゃないでしょ?」


「興味がありません」


「え?実は女の子スキーだったり?私危ない?」


「私はノーマルですよ?こう見えて結婚願望もありますから」


「へぇ、意外」


「まあ、別に一生独身でも構わないとも思っていますが」


「え、それは願望あるって言うの?」


「そんなことよりも、そろそろ今井さんも私のことを名前で呼んでも良いのですよ?もう貴女の先生ではないのですから」


「いやいや、さっきカフェで教師がなんちゃらって…」



 そんなどうでもいい会話をしながら(私は話すのがあまり得意ではないから主に聞き役だけど)周りの視線を極力無視しつつ、てくてくと歩いていく。私の身長が低いせいで歩幅がどうしても違くて歩く速度も若干遅いのだけど、二人はきちんと私に合わせて歩いてくれた。



 そして、しばらく歩き続け、段々と人の集まっていた場所から離れて緑の多い閑静な場所になり、着いた場所は小高い丘にある霊園。管理人さんに一言声を掛けてから中に入り、丘を登ってとある墓標の前で私達は歩みを止めた。



 霊園に入ってからは私達は一言も喋っていない。霊園独特の雰囲気と周囲の静けさも相まって寒々しい空気を感じて小さく身震いした。



 墓標に刻まれている名前はおねえちゃんとは全く関係ない名前。だけど、それはカモフラージュで、捨てられる前に確保したおねえちゃんの僅かな遺品をここに隠してお墓にしたのだ。もう父様と母様にはバレていそうだけれど、こうして残っているということは、害は無いからと見逃されているのだろう。



 私はそのお墓の前でしゃがみ込んで両手を合わせる。やわらかな風が私の頬を撫でで、昔は長かった私の髪を揺らす。綾さんと同じでおねえちゃんを目標にしてずっと伸ばしていたのだけど、おねえちゃんが死んでからは長い髪がおねえちゃんを思い出させて辛くなり、伸ばしていた髪を切り落としてしまった。それ以来伸ばしていないから、今の私の髪の長さは肩にかかるかというぐらいだ。



 長く、長く手を合わせていた私達は、近くから足音が聞こえて一斉に顔を上げた。兄様が来たようだ。



「掃除はまだかな?先に俺も手を合わさせてくれ」



 私が立ち上がって兄様に場所を譲ると、兄様がおねえちゃんのお墓の前で手を合わせて瞼を閉じた。



 小さな嗚咽が聞こえて振り向くと、綾さんが口元に手を当てて声を殺して泣いていた。私はもう枯れるぐらい泣いてしまったせいで涙も出てこない。ただただ、埋まらない空虚な穴に乾いた風が吹くだけだった。



「ここに来る度に、後悔で胸が苦しくなりますね。あの時にもっと何か出来たのではないか。最後に会った時に私が引き留めていれば、こんなことにはならなかったのではないか。今でもつい、考えてしまうのです」



 千鶴さんがポツリとそう呟く。千鶴さんも最初に私達が集まってこの墓標を建てて、一緒に手を合わせた時はとても取り乱して泣いていたけれど、今はただ寂しそうに、悲しそうに微笑んでいるだけだった。



「俺もそうですよ。俺がもっと永久を気にかけてやってやれば、せめて、もっと彼女と距離を縮めていれば…。俺に対してコンプレックスに近いものを抱いていたからと、刺激しない様に遠ざけてしまったばっかりに、彼女の異変に気が付けなかった」



 おねえちゃんは父様と母様がとても嫌いだった。でも、その次に嫌いだったのは恐らく兄様だった。そして、その次に私。私はおねえちゃんに嫌われていると知っていながらも必死におねえちゃんの近くに居ようとした。今では、それが正しかったのかわからない。



「私も、永久先輩のことずっと見ていたのに、なんで、なんで…」



 綾さんは今でも感情が堪えきれないほどに当時のことで後悔で苛まれているみたい。



 ここに居る誰もが、もっと何か出来たのではないか?っとずっと心のどこかに問いかけていた。



 3年という月日が流れてもなお、この心の空白を埋めることが出来ない私達は長い長い時間かけて、埋まらない空白を誤魔化すように仮初のもので少しずつ埋めていき、いつかはこの後悔をも記憶の彼方に薄れさせて生きていくのだろう。



 おねえちゃんとの記憶が少しずつ過去に置き換わっているのが分かってしまうから、こうして集まってあの日のことを問い直す。忘れないようにと心に刻み直す。時間と共に過去に変わっていくのだとしても、少しでもそれに抵抗する。それが、今の私達に出来る、おねえちゃんへの懺悔。否、ただの自己満足。過去にしがみつく気持ち悪い所業だ。



 それでも、それでも、私は。



 私は無意識に、手首に着けていたデバイスをもう片方の手で握りしめた。



 もし本当に、魔法のように願いを叶えてくれるのならば。



 もう一度やり直したい。あの日に戻れなくても良い。来世になってもいい。もう一度、おねえちゃんの妹として生まれて、今度はずっと仲の良い姉妹として生きたい。



 おねえちゃんとの絆を。姉妹としての時間を。取り戻したい。



 私がそう強く思った瞬間、突然デバイスが強く反応したのを感じて慌てて確認すると、例の物質が枯渇寸前までなくなっていることに気付いた。



 そして、私達の下に魔法陣のようなものが浮かんで周囲を白く染める。



「な、なんだ!?」


「なにこれ!?」


「これは…!?」



 兄様達がそれぞれ反応する中、私は何か嫌な予感がして声を荒げた。



「何か嫌な感じがする!早くここから逃げよう!」



 私の言葉に即座に反応した兄様が呆然としている綾さんの手首を掴んで走り出す。私も千鶴さんに手を捕まれて走り出そうとしたけれど、周囲の景色が大きく歪んだのを感じて二人で立ち止まってしまった。



「景色が!?」


「くっ、間に合わない!せめて全員で固まるぞ!!千鶴さん、今井さんをお願いします!」



 景色がどんどんと歪むなか、兄様が強引に外に出るのは危険と判断して、掴んでいた綾さんの手を千鶴さんに任せて私達の前に立った。



 私が兄様の背中を見上げていると、目が眩むほどの光が周囲から発せられて思わず目を閉じてしまう。



 そして、体が気持ち悪いくらい揺れたような気配がしてゆっくりと目を開けると、そこは全く知らない暗い部屋だった。




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