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22話 天才少女と魔物の変異種戦

 2メートルを超える体躯に赤黒い肌。見た目はゴブリンっぽいけど、明らかに尋常じゃない容貌をしている。どこで手に入れたのか、その大きなゴブリンは巨大な肉厚の大剣を片手に持っていた。



「輪音さん!!魔術具を使ってください!!」


「っ!!」



 驚きで固まってしまった私に千鶴さんが指示を出してきた。そういえば、緊急時に上空に撃つ魔術具を貰ったっけ。慌てて懐から拳銃のようなものを取り出すとそれに魔力を込めてから上空に向けて引き金を引いた。



 バン!!っという大きな音と共に赤い光が空に浮かぶ。こういうのなんて言うんだっけ?閃光弾?じゃなくて、フレアガンか!



 これで助けが来てくれるっと安心した次の瞬間、音を聞いて攻撃されたと思った大きなゴブリンが空気が震えるほどの雄たけびを上げて私に向かって来た。たぶん、一番先に目立つ動きをしたからヘイトが来てしまったみたい。って、そんな冷静に分析している場合じゃないよ!!?



「ひっ!」


「妹ちゃん!魔法を!足止めして!!」



 綾さんが私に指示をしながらクロスボウを大きなゴブリンに向けて発射する。だけど、硬い皮に弾かれたのか、矢が突き刺さることなく折れてしまった。私は頭が真っ白になってしまって魔法を放てる余裕がなく、ただ呆然と突っ立っていた。イメージで魔法を使うからこそ、頭が混乱しているとまともに魔法が使えない。魔法使いの思わぬ弱点だ。



「っ!威力が足りない」


「俺達が足止めする!綾さんは輪音の傍で指示出しをしてくれ!」


「分かりました!」



 兄様が綾さんに指示をしている間に、千鶴さんが私達と大きなゴブリンの間に入り込んで足を引っかけた。というか、たぶん足の皿の部分を砕こうとしたんだと思う。でも、結果的には片足のバランスを少し崩した程度で大したダメージは与えることは出来なかった。でも、その攻撃のお陰でゴブリンのヘイトが私から千鶴さんに移すことには成功する。



「遊んであげますよ?来なさいな、ゴブリンくん?」



 千鶴さんがかっこいい台詞と一緒に片手を前に突き出して指をくいっとして挑発する。千鶴さんの強キャラ感が凄すぎる。というか似合い過ぎ。見た目が清楚なお嬢様なのにかっこいいのが似合うってどゆこと?



 千鶴さんの挑発が効いたのか、大きなゴブリンが再び雄叫びをしてから千鶴さんに向かって突進した。千鶴さんがそれをひらりと躱すのと同時に、ゴブリンが持っていた大剣を千鶴さんが避けた方向に横なぎする。



 それを予測していたのか、千鶴さんは素早くジャンプして大剣を避けると、自分の真下を通過する大剣の腹に手を当てて大きく飛び退くという芸当までやってみせた。



 たまに忘れるけど、ああ見えて千鶴さんは柔道とか空手とか合気道とかの格闘術の名人なんだよね。それだけじゃなくて、千鶴さんの一番の強みである観察眼。あの目で相手の動きを逐一観察し、目の動き、筋肉の動き、体全体からその周囲に至るまでのあらゆる場所の情報を見て、それを判断し的確に行動するという超人スキルがある。これのせいで、どんな生徒も千鶴先生の前では逃げることが出来なかったのだ。



……それにしたって、あんな曲芸まで出来るなんて反則でしょ。



 千鶴さんの曲芸を見てそんなツッコミが頭によぎるくらいには冷静さを取り戻すことに成功した。ありがたいけど、あの魔物よりも千鶴さんの方が怖いと思ってしまったのには複雑だ。私とか一瞬で制圧されそう。



「妹ちゃん、大丈夫そう?」


「んっ、大丈夫。援護しよう。私が魔法の雷魔法は威力の高いのを使うと近くに居る人にも感電するかもしれないから、綾さんの指示で二人に伝えてくれるかな?私は魔法に集中したいし」


「分かった。任せて。自分で戦うのは苦手だけど、他人を動かすのには自信あるよ?」


「うん。知ってる」



 綾さんが恐らくは自分の緊張も和らげるために軽口を叩く。それに適当に答えつつ、私はいつでも魔法を撃てるようにデバイスから魔力を動かす。こうして魔法発動の準備をするのもきちんと練習した。大丈夫。練習通りにやればいいだけ。



 千鶴さんが大きなゴブリンの攻撃を紙一重で躱しているのをヒヤヒヤしながら見守っていると、千鶴さんに夢中なゴブリンを完全な死角から兄様が斬りかかった。首を落とそうとしたみたいだけど、直前で避けられて首元を浅く切り裂いた程度で終わる。その傷も瞬く間に塞がって元通りになった。たしか、魔物の特性で、傷を負っても魔力で勝手に治療しちゃうんだよね。このしぶとさが動物と魔物との大きな違いだ。



いくらしぶといと言っても、肉体がある以上は弱点というものが存在する。命令信号を出す脳だってあるし、血を供給する心臓もあるし、魔力を供給する核と呼ばれるものもあるのだ。それらの弱点をつけば決して倒せない相手ではない。首をはねるのが一番手っ取り早く倒せるらしいけど、相手の魔力量と回復能力によっては首がまた生えてくる可能性もあるらしいから、魔物との戦闘は本当に最後まで油断出来ない。も~!魔物って面倒だな!



 兄様と千鶴さんが連携して戦っている姿を見守りながら、私はユニークスキル〈異世界の天才少女〉の能力、〈鑑定眼・科学〉を発動させる。



 このスキルは名前と性質、構造を視ることが出来るスキルだ。更に私は〈並列思考〉と〈高速思考〉で手に入れた情報を素早く頭の中でまとめていく。



【名前】

【種族】ゴブリンジェネラル(変異)

【特徴的な身体構造】〈魔力体〉



 これは私が頭の中に入って来た情報を纏めて、結果を分かり易くしたもの。正確には心臓の位置とかも視えるのだけど、別にそんなの教えなくても人型の魔物だから人間と位置が変わらないからわざわざ伝えるようなことでもないでしょ。



 このゴブリンは昨今南の森を脅かしていた魔物の変異種みたいだね。さっそく綾さんを通じて他のみんなにも伝えてもらう。私から言えばいい?大声を出すの苦手なの。察して!



 さて、特徴的な身体構造の〈魔力体〉とは主に魔物が持っている特徴的なエクストラスキル。体の構造に魔力が深く繋がっていると言えば良いのかな?完全に魔力だけで体が構築されているモノも居るらしいけど、大体は魔力と肉体で構成されている体らしい。簡単に言うと、魔力という細胞が体を作るのに存在しているってことだね。え?わかりにくい?とりあえず、魔力がある限り傷ついても魔力で勝手に治療出来るようなものってことで覚えておけばオッケー。兄様の攻撃で傷付いたゴブリンの傷が勝手に治療されたのもこのスキルのせいってこと。まぁ、〈自然治療〉っていう自然と傷を癒す能力を持つコモンスキルも存在するけどね。あのゴブリンがそのスキルを持っているかは知らないけど。



……これだけ強固な肉体だと、スタンガン程度の威力じゃ効かないかな。雷の威力に設定しよう。



 分析を終えた私は魔法の照準をゴブリンの心臓に定めた。心臓と魔力の核は一緒の場所みたいだから、ここが一番の急所だ。剣みたいに頭をはねるのは雷魔法だと難しいけど、心臓部分を雷で貫くことぐらいは出来るはず。



 私がこうして分析を続けている間にも兄様と千鶴さんの戦闘は続いている。



 力負けをするからか、兄様がゴブリンの変異種の攻撃を流すように捌く。ゴブリンが兄様にヘイトを移して集中攻撃している隙に千鶴さんが頭に飛び蹴りをして首の骨を折ろうとしたけど、ゴブリンが即座に反応して斬り返してきた。蹴りがゴブリンの肩に届いたお陰で、その衝撃を利用して後方に飛び退いてゴブリンの反撃を回避する千鶴さん。ゴブリンの意識が千鶴さんに向いたところですかさず兄様が斬りかかろうとするも、ワンテンポ遅れながらもゴブリンは確実に反応して攻撃を受け止めた。う~ん…。



「さっきから死角からの攻撃に反応しているね」


「危険察知的なスキルでもあるのかな?」


「綾さん、試しにあいつの目を狙ってみて。体部分は矢が貫けないと思うけど、目なら大丈夫だと思う」


「うえ~。あんなに動いている相手の目を狙うの?難易度たっかー」


「どうせやること無いでしょ?私の使える魔力は少ないし、無駄にしたくないから本当に危険察知的なものがあるのか確かめないと」


「りょーかい。やってみるよ。目に当たれば儲けものだね」


「どうせ魔力で回復されるけどね」



 千鶴さんと兄様が引き付けている間に、綾さんがクロスボウに矢を込めてゴブリンに向けた。引き金を引いた瞬間、ゴブリンの顔がこちらを向いたのを確認する。目を狙った矢はゴブリンが顔を逸らして避けられてしまった。難易度たっかーとか言っておきながらしっかりと顔面に矢が飛んで行ったね。これだから何でも出来る人たちは。



 そんなことよりも、やっぱり…。



「惜しかったなー。ところで、やっぱり危険察知的なものがあるのは間違いないね」


「うん。魔法を急所に当てるなら動きが完全に硬直した瞬間が良いかも。綾さん、兄様達に伝えてくれる?」


「まさか、こんな形で〈声量強化〉が効果を発揮するなんてね…。使えないスキルだと思ってたけど、意外と役に立つんだなぁ」



 綾さんの持っている〈声量強化〉スキルは文字通り声を大きくすることが出来るコモンスキルで、小さく呟くような声でもスキル補正で大きく出来るといういわばマイクみたいなものだ。ぶっちゃけ戦闘では使い物にならないけど、こうして戦闘中の味方に声を張らずに言葉を伝えることが出来るのは良い…かもしれない。やっぱり微妙なスキルだね。もっと大勢の軍隊とかだったら使えるんだけどね。



「――というわけで、妹ちゃんの魔法で必殺を狙うから、なんとか動きを止めて下さい」


「あらあら」


「俺達ではまともにダメージを与えられないのは事実だが…」


「増援が来るまで足止めだけしていれば良いと思いますがね。輪音さんは倒す気満々のようで」


「せっかく輪音がやる気なんだ。付き合おうじゃないか」


「全く。私の教え子は変なところで血気盛んなのですから…」



 兄様と千鶴さん、戦いながらこそこそと話をしているけど、随分余裕だね。あんなに近くで戦っているのに。恐怖心とかどっか遠くに置いて来たんだな、きっと。



「んじゃ、二人が動きやすいようにもういっちょやりますか」


「なんで丁寧語?」


「うるさいよ、妹ちゃん」



 私の茶々入れにこつんと額を小突いてくる。うん。綾さんも大丈夫そう。これなら任せて安心だね。



 綾さんがすーはーと深呼吸をすると、未だに千鶴さんと兄様に釘付けなゴブリンを睨みつけながらクロスボウの矢を構えた。



「さぁ、こっち向け!!」



 綾さんの声に反応したのかどうか知らないけど、綾さんが叫んだのと同時にゴブリンが綾さんの方を向き、それを確認した綾さんがクロスボウの矢を放った。その矢はゴブリンの正面顔面に飛んで行き、簡単に避けられそうなのに何故か棒立ちのまま大剣を振りかぶって迎撃しようとする。これは、〈思考誘導〉かな?



 綾さんが持っている詐欺スキル…じゃなくてユニークスキルの〈異世界の扇動者〉には〈思考誘導・扇動者〉という能力が備わっている。読んで字のごとく、他者の思考を誘導しやすくなるスキルだ。まさに綾さんのためのスキルだよねぇ…。でも、それだけであんなに簡単に動きを誘導出来るものなのかな?



「オッケー。千鶴さん!全さん!あとお願いします!!頑張って!!」


「丁寧語なのかフランクなのか…どっちなの?」


「妹ちゃんはもう少し緊張感を持とうね」



 これでも緊張してるんだけどなぁ。…もういつでも魔法を放てる準備が出来てるから、みんなの動きを見て魔法を撃つタイミングを待つだけで暇だ。とか言えない。



 綾さんの最後の「頑張って」の部分は恐らくは〈鼓舞〉スキルを使ったのかな?対象者の士気を向上させる能力で、魔力があれば身体能力とかも上げられるやつだよ。魔力が無いから士気しか上がらないけどね。でも、このスキルが一番使えそうな場面って大勢で行動する軍隊とかだよね。綾さんのスキル構成はどこを目指しているの…?



「あらあら。士気が上がるだけと侮っていましたが、気持ちが上向きになるだけで全然違いますね」


「ああ。今ならこんな奴、俺でも倒せそうな気がする」


「でも、ここは可愛い教え子に譲りましょうか。…ほら、注意がおろそかですよ?ゴブリンくん?」



 完全に意識が逸れたゴブリンに千鶴さんが大きく踏み込んでそのままゴブリンの膝を思いっきり踏み抜いた。反応が遅れたゴブリンの膝がゴキッという嫌な音を立てて体勢を崩して片膝をつく。



「ふっ!!」



 バランスを崩したゴブリンにすかさず兄様が近付き、膝を付いた足と反対の足の膝を剣で斬り飛ばした。片足が潰されて、もう片足が斬り飛ばされたゴブリンは地面に両手を付いた体勢になる。



「このまま剣で頭を斬れば終わりそうだけど…」


「全くん。最後は輪音さんですよ?」


「分かっているよ」



 片足を斬り飛ばした後に即座に距離をとった千鶴さんと兄様を確認した綾さんは、私に顔を向けた。



「ラスト!派手にやっちゃって!妹ちゃん!」


「あいあいさー!!」



 綾さんの指示に従って、私はとっておきの雷魔法を発動させる。



「『放電・いかづち』!」



 バヂバヂっという、スタンガンの時とは比にならない危険な音を立てて、私の手から出た雷が体勢の崩したゴブリンに直撃した。ズドンという大きな音共に煙が周囲一帯に巻き上がり、焦げ臭いにおいが充満する。



 私はいつでも第二射が撃てるようにびりびりと待機していると、やがて巻き上がった煙が晴れて、胸に大きな穴の空いた黒焦げのゴブリンだったものが姿を現した。どうやら、一撃で仕留められたようだ。



「ふぅ…怖かった…」


「ホント。フラグ立てるから…」


「それ私のせいじゃない…」


「……ところで輪音さん」


「うん?なに、千鶴さん?」



 千鶴さんに声を掛けられて顔を上げると、何やら胡散臭いくらいにこにことしている。なんだろう。すっごく背筋が寒い。何ならば今のゴブリンより怖い。



「今の魔法の着弾速度はどれくらいですか?」


「え?う~ん…雷の主雷撃はたしか光速の三分の一ぐらいだったはずだから…秒速10万kmくらいかな?」


「じゅ!?」


「はぁ…そうですよね」


「な、なに?私何かやっちゃった?」



 何かミスでもしたのだろうか?でも、ちゃんと攻撃も当たったし、余波も行かなかったみたいだし、何の問題も無かったと思うけど?



 私が何で呆れたような視線を送られているのかわからずに首を傾げると、千鶴さんがとても良い笑顔で答えを教えてくれた。



「秒速10万kmもの速度の攻撃を、たとえ事前察知出来てもこの距離で避けられるような相手でしたか?」


「…」


「足止めとか必要ありませんでしたよね?」


「……ほ、ほら、魔法を使うのにも時間が」


「妹ちゃん、いつでも攻撃出来るように待機してたよね?」


「う、うぐぅ…」



 つまり、私の足止めの指示は完全にいらない指示だったということだ。無駄に兄様と千鶴さんを危険に晒してしまったことになる。綾さんがクロスボウの矢を放った辺りで二人に離れてもらって、そのタイミングで魔法を放てば良かったような気がする。



「まぁ、初めての実戦でしたし、また恐怖で固まってしまうよりは上出来でした。それに、一撃でこれほどの魔物を倒せたことに関しては大変良くできました。今後も頼りにしていますね」


「…!うん、任せて!!」


「ふふ、ちょろいですね」


「先生。素が出てるから」


「きゅい~」



 頼りにされているならもっと研究して威力の段階を調整出来るようにしないとね!今回は使わなかったけど、レールガンとかもあるし、戦闘面でもみんなを支えられるようにならないと!



 なんだか、千鶴さんと綾さんが何か言って、ルナちゃんが呆れた声で鳴いてた気がするけど気にしない!って、ルナちゃんどこ行ってたの?途中から完全に気配が消えてたけど?



 千鶴さんに褒められて頼りにされていると言われた私が今後の魔法の研究について考えている間に、兄様がゴブリンの変異種から魔石を取り出した。



「…心臓が焼かれても、魔石は手に入るのか。魔石と心臓は別なんだな」


「魔石は残った魔力が固まって出来るものっていうのが定説らしいけど、詳しいことはよく分からないんだってさ」


「魔物を捕まえて研究するなんてリスクも高いし、そういうのを調べるのも大変なんだろうね」


「しかし、これが魔物の変異種ですか…。ゴブリンジェネラル自体はDランクの魔物だったと記憶しているので、それが変異種になっただけでこれだけ厄介になるのですね」


「Dランク?」


「冒険者ギルド規定の魔物の脅威度だよ。ランクがそのまま冒険者のランクと同等ぐらいの脅威ってこと」


「正確には、一対一勝てるかどうか…。パーティーならば余裕で討伐出来るという基準ですね。興味があるならばもっと正確に教えましょうか?」


「ううん。別に、興味ないからいいよ」


「大丈夫か!!?」



 千鶴さんの授業を拒否したタイミングで、森の奥から慌ただしい音が聞こえてきたかと思うと『白の夕霧』のみんながやってきた。



 フォセリアさん達はまず、私達の安否を確認し、胸に大穴の開いた黒焦げのゴブリンの変異種を見てギョッとした顔をする。トリアさんが兎の耳をぴくぴくさせながら興奮気味にその死体に寄っていった。なんだか、トリアさんからは知り合いの研究者達と同じ匂いがする。研究オタク?この場合は魔法オタクか。



「見たこと無い死に方なの。雷魔法なの?炎魔法とも違う焼け方なの。とっても興味深いの!」


「トリア、それは後回しな」


「ひゃー凄いねー」


「おー足も斬ってますね?これは全さんがやったの?」


「うん。千鶴さんと協力してね」


「なかなかやるねー」


「皆好き勝手に、全くもう。すみませんが、話を聞かせてもらっても構わないかしら?」


「それなら、俺と千鶴さんが残るよ。綾さんと輪音は疲れただろうから先に帰った方が良い。特に輪音はまた四人での活動時にこんなのに襲われたんだから。今は大丈夫かもしれないけど精神的な疲れはあると思う」



 後始末はいつもの二人に任せて、兄様の言葉に甘えて私と綾さんは先に街に帰ることになった。ギルドへの報告とかも兄様に任せて良いかな。あ、薬草どうしよう。…調合の材料用にこのまま持ち帰ろうかな。



 薬草が入った籠を持ったまま宿に帰って来た私達は、部屋に入った途端にへなへなと床に座り込んだ。兄様の言う通り、精神的にも肉体的にも疲れが一気に襲い掛かって来た。張っていた気が一気に抜けたのだろう。



「うぅ…私は少し寝ようかな」


「うん。私ももう限界。ちょっとだけ横になろう」



 綾さんも疲れた笑みを浮かべながら賛同して、私が生活魔法の洗浄で私と綾さんを綺麗にしてから、お互いにそれぞれ自分のベッドに入って横になる。



「きゅい~」


「おやすみ~ルナちゃん~」


「きゅい」



 いつの間にか私の傍に居たルナちゃんに声を掛けてから、私は強烈な眠気に誘われるまま意識を手放した。



 ゴブリンジェネラルの変異種、推定ランクB相当の魔物を倒した私達は、それぞれ冒険者ランクが上がることになったのだけど、それを聞いたのは帰って来た千鶴さんが眠っている私と綾さんを起こしてからだった。




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