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20話 天才少女は再び南の森へ

 初めての外出で魔物に襲われてからそろそろ3週間が経過する。綾さんも千鶴さんと兄様と一緒に外に出るようになったし、後は私が覚悟を決めればやっと四人で一緒の活動をする段階まで戻ることが出来る。



……綾さんはまだちょっと心配だけど、私も他人のこと言えないんだよね。



 綾さんの提案で先延ばしにしているだけで、私も最終的には外に出て活動出来るようにならないといけない。冒険者としての仕事もそうだけど、この街や国から出ていくためには必要なことだから。おねえちゃん(に似ている人)を探すという目的もあるけれど、この世界で生きていく上で今後本格的に生活する場所も見付けないといけないし…いや、ずっとふらふらと旅する生活もあり得るかもしれないけど、私は基本的に引きこもり体質だからなぁ…。どんな理由にせよ、現段階で私はこの場所に留まるつもりは毛頭無いけどね。



 ただ、恐怖心というものは一度根付くと中々忘れられないものだ。今でもふとした時に、あの時の狼に食べられそうになった瞬間がフラッシュバックする時がある。



「気持ちに感情が追い付かないってこういうことなのかな」



 そろそろ外に出て活動しても大丈夫そうとは思っているけれど、恐怖心がどうしても邪魔してくる。



 ま、別に焦るような旅をするわけでもなし。綾さんもまだ外に出始めて日が浅いし、もうちょっとぐらい現実逃避しても良いよね!



 なんて思っていた時期が私にもありました。



「えっ!?明日!?」


「はい。明日です」


「き、きゅ、急すぎじゃないかなあ!?」


「妹ちゃん、声裏返っているよ」


「びっくりしたからね!」



 今日の外の調査兼薬草狩りなどの簡単な依頼を終えて帰って来た千鶴さん達が、帰ってくるなり突然明日一緒に森に行こうと言い出したのだからそれはもう驚くでしょ?お昼頃にはまだ現実逃避していようと考えていた私の考えを見透かされていた気持ちだよ。いや、千鶴さんなら気付いてそうだけど。



「私の見立てでは、輪音さんはもう外に出ても大丈夫なはずです。どちらかというと、綾さんの方が心配でしたし」


「あははは…。面目ない」


「綾さんもある程度落ち着いてきましたので、輪音さんならばもう大丈夫ではないかと。全さんも同じ意見です」


「兄様め…。えーでも、私まだちょっと怖いなー」


「全然大丈夫そうですね。明日はあの日以来の四人で行きましょうか」



 あっれ~?おかしいな~?私だってまだ本当に怖いんだよ?千鶴さん絶対私のこと何か勘違いしてるって。



「えっと…それにしても明日は急じゃないかな?なんて…」


「往生際が悪いよ、妹ちゃん」


「明日なのも理由があるのですよ」



 千鶴さんの話では、なんでも南の森の異変の原因である魔物の変異種の居場所を突き止めたそうで、明日はその討伐でいくつかの腕の立つベテランパーティーが南の森に入るらしい。道中で魔物も討伐される(そもそも今日までにほぼ駆逐されている)し、問題が起きてもそのパーティーが近くに居る為、安全を確保しやすいのだとか。



「明日原因が討伐されるなら明後日からでも良いんじゃ…」


「今回の討伐が終わったら『白の夕霧』の皆さんがこの街から出ていってしまうそうなので、それまでになんとかして全員が外に出れる状態にしたいのです」


「え、なんで?」


「ここ数週間、彼女達の人となりをある程度観察させて頂きましたが、彼女達は相当な善人であると判断しました。今後の旅の安全と、旅のノウハウを得るために、しばらくは彼女達と一緒に行動を共にしたいと考えています。幸いなことに、彼女達の次の目的地は『月の領域』だそうですから。私達の次の目的地と被っているのでちょうど良いと思って許可を得てきました。私達もそれに備えて準備をしなければなりません。…その準備も教わりながらになりますが…」



 『月の領域』は聖国西端にある聖樹の森にある場所だったよね。ルナちゃんが棲んでいる場所で、騎士さん…え~っと、ユーフォリアさんだっけ?…にも頼まれていたんだよね。



「そっか、ルナちゃんを送り届けないなのかぁ…」


「きゅい」



 私が膝に乗っているルナちゃんの背中を撫でながら呟くと、可愛らしい声でひと鳴きした。この子は迷子(?)らしいから、ずっと一緒には居られない。寂しいけど、ちゃんと住処に帰してあげないとだよね。



「ん~。ルナちゃんの為ならば、頑張ってみようかな」


「よろしい」


「私が外に出れるんだから、妹ちゃんも大丈夫だよ。滅多に危険な事なんて起きないからね」


「……綾さん、それってフラグって言うんじゃないの?」


「あ…」


「あらあら、何事も起きないと良いですねぇ」



 なんだかすっごく不安になってきたんだけど!?



 というわけで翌日、私達は聖都の南門に集まった。正確には宿のロビーで集まって、そこから南門まで一緒に行動したんだけどね。



「相変わらず兄様はモテモテだねぇ…」


「はは…。こういうスキルなのだと思っていることにしているよ。本当にスキルだったら能力を切りたいぐらいだけどね」


「ずっと視線を感じるのは窮屈だもんねぇ…」



 雨の日はそんなに人通りも多くなかったし、人の集まる店には行かなかったからそんなに気にしなかったけど、こうして久しぶりに兄様と一緒に歩くと女性陣の視線が鬱陶しい事この上ない。



「ところで妹ちゃん。ずっと言いたかったんだけどさ」


「なーに?綾さん」


「なんで普段着なの?」



 きちんと防具も付けた綾さんが私のことを上か下まで確認するように見ながらそう聞いてきた。綾さんの指摘する通り、私の服装はいつもの白のワンピースに裾の長い白衣だ。強いて言うならば、靴だけはブーツを履いている。さすがに森の中を歩くのに普通の街歩き用の靴は歩きにくいからね。



 しかし、何を今更そんなことを聞いて来ているんだろう?私は前回の魔物に襲われた時もこの服装だったよね。



「なんでも何も、私魔法使いだし」


「いやいや、ローブとかあるじゃん?」


「ローブ?」


「それは白衣」


「似たようなものだよね?」


「冒険者用のローブは魔法陣が組み込まれているって聞いたけど?」


「大丈夫。これには私の愛着という心が込められているから」


「意地でも白衣を脱がないのはよくわかったよ」



 魔法陣の勉強もしているけど、まだ上手く出来ないんだよね。魔術具を作れるようになったら出来ることの幅が広がるし、この白衣も強化出来るから是非とも習得したいよね。その為には〈魔力操作〉というエクストラスキルが必須になるらしいから、魔力を動かす練習を日課にしているよ。魔法を使うのにも役立つからね。まぁ、魔法を動かしているだけでスキルが獲得できるかは分からないけど…。



 ちなみに、私がローブを着たくない理由は白衣を脱ぎたくないというのもあるけど、ローブを買う時に子供用のやつしか合うのが無かったからなんとなく着たくなかっただけだ。どうせ子供用のローブに付いている魔法陣なんて大したことないやつなのであってもなくても問題無いの。私、大人だもんね。子供用なんていらない!



 私達が南門から外に出るともう顔馴染み(私は二回しか会ったこと無いけど)の『白の夕霧』が門の前でわざわざ待ってくれていた。私達をやって来たのを見付けるとパーティー全員が歩いて近寄って来た。



「安全だとは思いますが、討ち漏らした魔物が現れるかもしれません。警戒は怠らないで下さい」


「わざわざ忠告をありがとうございます。皆さんのご武運をお祈りしています」


「もし何かあったらこれを上空に撃ちあげてね~」



 特徴的な和ゴスファッションの智里という女の子が、千鶴さんに拳銃のようなものを渡した。



「それに魔力を込めて上空に向けて引き金を引くと、大きな音を発した後に眩しい光が浮かぶから、主に救難信号に使われる魔術具だよ~。まぁ、普通に炎や光の魔法で知らせた方が早いけどね~」


「ありがとうございます。輪音さん、魔術具は貴女が持っていて下さい」


「うん。わかった」



 ま、この中では私しか魔術具が使えないからね。それにしても、拳銃なんてあるんだね。何のためにこんな形にしたんだろう?別にクラッカーみたいなものでも良くない?



「輪音の魔法ならばこの辺の魔物に遅れはとらないの。帰ったら雷魔法の話を聞かせて欲しいの」


「それ、フラグ…」


「フラグなの…?なんのことなの?」


「な、なんでもないよ」



 私が兎の獣人であるトリアさんと嫌なフラグを立てている間(なんか、この間の魔法の件で気に入られたみたい?)、『白の夕霧』のリーダーのフォセリアさんと小さい体のランちゃんが兄様と話をしているのが聞こえてきた。



「もう剣技は私と同等レベルだから心配はしていないが、油断はしないようにな」


「おにーさんも気を付けてね!」


「ありがとう。君たちも気を付けて」



 えっ?兄様ってもうBランク冒険者並みの強さなの?ちょっとチート過ぎない?というか、フォセリアさん、千鶴さんには敬語で兄様にはため口なんだね。なんとなく、気持ちはわかるけどね!



 私が思わぬ情報に驚愕していると、千鶴さんがパンパンと手を叩いて注目を集めた。そういうところだよ。先生が出ちゃってるよ?



「はいはい。そろそろ出発しましょう。お互いにやるべきことがあるでしょう?」


「そうね。では、私達は先行するわ。フォセリア」


「ああ。変異種を討伐したら様子を見に行くよ。くれぐれも油断だけはしないようにな」


「話している間にどっかのパーティーが倒してたりしてね~」


「それならそれで、私は輪音といろいろと話をするの」


「一応、輪音ちゃんが外で活動する訓練だったような?」



 ぐだぐだとした会話をしながら『白の夕霧』が先に森の方へと歩いて行った。討伐隊が組まれるほどの相手なのに余裕そう…。これがBランク冒険者パーティーなんだね…。あんなのになれるのかな?いや別に冒険者稼業で大成したいわけじゃないけど。



「良い人達に会えて良かったわ」


「妹ちゃんが兎の子に付きまとわれているけどね」


「付き纏われるのは構わないんだけど…。耳とか触らせてくれないかなぁ?」


「そろそろ俺達も行こうか」


「「は~い」」



 兄様の先導についていくように綾さん、私、千鶴さんの順番で歩いていく。何故千鶴さんが最後尾なのかというと、後方から奇襲が来た際に対処するためだ。



 いつの間について来ていたのか、ルナちゃんが私の足元をちょろちょろと跳ぶように歩いていた。おかしいな。宿の中に置いてきたような記憶があるんだけどな…。まあ、一応魔物だし、逃げ足も速いから襲われても大丈夫だと思うけど。むしろ私達より強いかもね。一匹で西の果てからここまで来たんだし。



 事前に『白の夕霧』と話をしたからか、思っていた以上にリラックスした状態で、私達四人+うさぎは聖都の南の森に入っていった。




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