18話 天才少女と雷魔法
私が床をのたうち回っているタイミングで綾さんが帰ってきて、とても生温かい視線をもらった次の日。
今日は街の外まで出て、南の森へと来た。正直まだこの前のことがトラウマのようになっていて、頭の中で襲われた時の映像がずっとループしていて気分が悪いんだよねぇ。
でも、私の考えた魔法は科学的なものを利用して作ったものだから、出来るだけ人に見られない方がいいとみんなで話し合って決めたことなので頑張って我慢する。
ただ、今回は私の護衛として兄様と千鶴さんがお世話になっている冒険者パーティー『白の夕霧』も一緒に居るよ。理由としては、千鶴さんと兄様だけでは護衛が心もとないから知っている人達でかつある程度信用出来そうということでお願いしたみたい。ところで、最初に会った時には気が付かなかったけど、兎の獣人が居るね。耳とか触らせてもらえないかな?
「そういえば、私達ってまだパーティー登録していないから、パーティー名も決めてないよね?」
私がふと思い出したように言うと、それを聞いた兄様が肩を竦めた。
「パーティー登録はしなくても良いんじゃないかな。別に必須という訳でもないみたいだし」
「そうなの?」
私が答えた兄様に質問すると、今度は千鶴さんが横から説明してくれる。
「パーティー登録の主な意味合いは、知名度を上げるためと、一人ではランク的に受けられない依頼をパーティーランクで受けられるようにするためなのですよ。もちろん、仲の良い人同士でなんとなくパーティーを組むことも多いですが、同ランクでパーティーを組んでもパーティーランクは上がらないので、あまり意味がありません」
千鶴さんの追加説明によると、冒険者パーティーは2~6人まで。パーティーランクの基準はパーティー内のランク上位二人とその他が基準になるらしい。例えば、パーティーランクがCの場合。最低でもパーティー内に冒険者ランクC以上が二人居て、他のメンバーがD以上必要になるらしい。誰か一人が突出して強くてもパーティーランクは上がらないし、同じランクが集まってもパーティーランクが上がるということはないのだ。
ただ、ランクの基準は単純に冒険者ランクだけではなくて、パーティーでの活動の依頼達成率や、周囲の人達ややギルドからの評判、魔物の討伐記録なども判断基準になるから、ランク基準が満たされていても必ずランクが上がるとは言えないみたい。
で、私達は同時期に冒険者になったからランクは一緒…実は兄様と千鶴さんはランクが上がってFランクになっているけど…だし、パーティーによる知名度は今のところ必要性を感じないからパーティー登録は保留ということになっている。それに、私と綾さんがまだ戦える状態ではないから一緒に討伐依頼とかも受けにくいし、パーティーでなくても協力して依頼を受けることは可能みたいだし、兄様と千鶴さん的にはパーティー登録は今後もしないかもって考えているみたい。ま、後々どうなるかはまだ未知数なところが多いからね。必要になったら登録すれば良いだけだし。今は別に要らないんじゃないって感じだね。
「着いたの。ここなら人目に付きにくいし、魔物も先日掃討したばかりの場所だから安全だと思うの」
「万が一魔物が現れてもわたくし達で対処致します。安心して魔法の訓練をしてください」
「助かります」
森の中のちょっと開けた場所まで来た私達はせっせと的の準備を始める。んーでも…
「この距離だとオーバーキルになりそう…」
「妹ちゃん、どんな魔法作ってたのさ?」
「ただの空気砲だよ」
――ほぼ音速に近いくらいの射出速度があるけどね。
一般的な自動拳銃が大体340~400超くらいの弾速だから、ほとんどそれに近い威力が出る…と思う。私の計算上はね。まぁ、ぶっちゃけてしまうと、砲身の長さや弾の種類で威力が変わるから、実際に撃ってみないと分からないんだよねー。
一番の懸念は命中率だ。普通の魔法攻撃と違って実物の弾を飛ばすから、たぶん空気抵抗やらなんやらで弾が逸れると思う。どれくらいの精度なのか確かめておかないと実戦では使えない。出来れば二度と実戦なんてやりたくないけど、そんな弱音を言う訳には行かない。だからせめて、相手を近付かせないで倒す手段を得るんだ!
木で作られた人形が私の正面10m間隔で合計で三体置かれた。私の正面に立たないように改めて注意喚起して、周囲の安全を見てくれている『白の夕霧』のメンバーから合図も貰ったので、私はポケットに入れていた鉛球を取り出してポイっと放り投げた。同時に圧の掛かった空気の中に鉛球を閉じ込めて、そこから砲身を伸ばして一番近い人形を狙う。狙いが定まったら空気圧の掛かった部屋と砲身を繋いでいる空気の膜を開ける。すると、溜め込んだ圧が一気に砲身を通して吹き出して鉛球が超スピードで目標に向けて飛んで行った。。
全ての工程が目には見えない空気で行っているから、みんなには私が放り投げた鉛球がいきなり高速で飛んで行ったようにしか見えないだろう。魔力を感知したり、視認したりする能力があれば魔法を使っているっていうのがわかると思うけどね。
それで、私の魔法で撃った鉛球は見事に一番近い場所に設置してる木の人形の胸に穴を空けて吹き飛ばした。命中確認ヨシ!なんてね。
続けてもう二発。10m間隔に先に立っている二体の人形に向けて鉛球を同時に投げて発射する。
一発目は人形の胸にまたも当たったけど、二発目の一番遠くの人形は僅かに逸れて左腕を吹き飛ばした。むぅ。やっぱりちょっと遠くなると命中精度が下がるね。それでも、まだ許容範囲か。
魔力の消費は圧の掛かった空気と砲身を作る時くらいで、確かに魔力消費は抑えられたけど…。
「思っていたよりも威力が無いかなぁ。これならば改良した下級魔法でも良いような気がする」
私は首を捻りながらそう今回の魔法を評価した。やっぱり計算だけでいまいち威力って分かりにくいね。一方で私の周りはというと…
「拳銃の銃撃みたいだね?」
「確かに似ているね。音はしないけど」
「輪音さんは拳銃を使ったことがあるのですか?」
「使ったことは無いと思うけど、仕組みとかは知っているんじゃないかな?」
「でも、妹ちゃんが言っていたほどの威力は無さそうだね」
「相手からしたら、音も無く音速の鉛球が飛んでくるわけなのですから、十分に脅威となる性能だとは思いますけどね」
兄様や綾さん、千鶴さんからしたら、今の光景は拳銃を撃ったような感じに見えたらしい。拳銃なんて持っていないし、千鶴さんの言う通り音も発しないんだけどね。
私達の中では今の魔法は可もなく不可もなくって感じだったんだけど、異世界の現役冒険者達からは辛辣な意見が交わされていた。
「中々面白い魔法だけど、私には使い道は少なそうなの」
「さすがトリア、私には突然鉛球が飛んで行くようにしか見えなかったぞ」
「細かい原理は私にも分からないの。私が分かったのは魔力消費は下級魔法以下だったことと、風魔法の応用で空気を操って弾を飛ばしていたということくらいなの」
「魔法の利点である魔法攻撃という属性を無いというのを考えると、少し威力不足ですわね」
「あれくらいならばわたしの刀で斬り落とせるよ?音が無いのが厄介だけど」
「速度は早いから、〈危険察知〉系スキルが働いた後でも避けるのが難しいのは良いと思うけどな」
「でも、致命傷は与えられないの。あれで倒せるのは精々がEランクぐらいの魔物が限界なの。あれならば普通に下級魔法を使った方が総合的に優れているの」
「まぁ、弓でも似たようなことが出来ますからね」
ぐぬぬぬ!ボロクソに言われてる!交わされている意見については私もほとんど同意するけどさ。せめて聞こえないように話して欲しい。さすがの私もちょっとイラっとしたよ!
異世界人からの酷評にイラっとした私は、今回やる予定の無かったレールガンも使うことにした。弾が焼失する可能性があるけど、ま、やってみよう。これでもう弓で良いじゃんみたいなことは言わせないんだから!
という訳で、二つの電気のレールを魔法で作り出して、そのレール上に鉛球を設置して通電させる。ちなみに電気のレールを作った時点で周囲がざわざわしていたけど、私の頭の中には見返してやる!っていう気持ちで一杯で気付かなかった。
バチッ!という大きな音と共に鉛球が超速で飛んで行き、狙いを定めていた30メートル先の木の人形を木っ端微塵にして地面に大穴を空ける。やっておいてなんだけど、まさか成功すると思わなかったので、額から冷や汗が流れる。即座に〈高速思考〉で必死に原因を考えけど、成功した理由が全く分からない。あの鉛球が電気のレールをから来る熱に耐えられるなんてありえない。絶対に消滅すると思ったのに…。
……魔法のイメージしたことを具現化よる能力が上手く働いたのかな?でも、それならばもう少し魔力が減っても良いんだけど、そんなに魔力消費が多く無いんだよね。ひょっとして、雷って消費の効率が良いのかな?
私が頭の中でいろいろと考えを巡らせている間に、周囲の主に兄様達からは冷ややかな視線が私に注がれていた。あの兄様でさえ真顔である。
「妹ちゃん…やりすぎ」
「今のは、レールガンってやつか。まさか魔法で再現するなんてね。ただ…」
「ちょっと目立ちますね。というか、もう手遅れです」
「きゅい…」
心なしか、千鶴さんの腕の中に居るルナちゃんも呆れたような声で鳴いた気がする。良いな。私も精神の安定のためにもふもふしたい。
で、異世界人側の反応はこちら。
「なるほどな。確かにこれは人から隠れて練習する必要があるな」
「雷の魔法、ですか?」
「スキルじゃないのー?」
「スキルの可能性もあるの。でも魔法訓練と言っているのだからたぶん魔法なの。とっても興味深いの」
「わたしの目でも弾がブレて見えたよ。すごいね。威力もあったからあれを斬るのは大変そう」
……え!?今の弾が見えたの!?あの黒髪の女の子ヤバくない!?
弾の発射からコンマ一秒も無い時間で着弾するのに弾が見えるって…。異世界人凄すぎじゃない?しかも斬るのは大変そうって…。普通は無理でしょ。異世界人凄すぎ。
でも、この反応からしても、やっぱり雷魔法はダメだよね?私達の事情的に目立つわけにはいかないし…。
……というかもう考え無しに異世界人に見せちゃったし…。
「あーどうしよう。やっぱり雷系の魔法は封印しておいた方が良いかな?」
「雷の魔法自体は存在するの。だから大丈夫なの」
私の質問に答えてくれたのは兎の獣人のトリアさん。見た目は小さいけど、兄様の話では20歳超えているらしい。小さいと言っても私より10センチは違うけど。ぐぬぬ。身長を伸ばす魔法が欲しい!って、そんなことはどうでも良くて。いや、どうでも良くないけどね!身長は切実だけどね!
「雷の魔法ってスキル的に存在しないんだよね?なのに魔法は存在するの?」
そう。私の記憶では雷魔法というスキルは存在しなかったはずだ。私以外のみんなも頷いていることから、記憶違いではない。みんなの視線がトリアさんに集まる中、トリアさんは表情一つ変えずに淡々と話し始めた。
「師匠の話では魔法はイメージだから強固なイメージ力さえあればスキルにない種類の魔法も使えるの。とても制御が難しくて、実用的な魔法として機能しない場合が多いだけなの。実際に、師匠の知り合いは雷魔法が使えるらしいの。師匠もさっきみたいな攻撃魔法としては使えないけど、人を驚かせる程度ならば雷魔法が使えるの。だから、雷魔法は理論的には使えるし、実際に使える人は存在はするの。ただ、スキルが無いから適応する魔法陣も存在しないの。故に魔法の強化や制御を外部から補助出来ないの。だから、雷魔法を使うのは問題ないけれど、威力が高ければ高いほど制御が難しくて危険なの。でも、個人的にはとても興味深いの。後でもう一度見せて欲しいの」
最後は完全にトリアさんの願望だったよね!?まぁ、雷魔法が実在するというのは理解出来たけど。
「でも、一般的には存在しない魔法に違いないんだよね。目立つのは本意じゃないんだけどな…」
「冒険者は基本的に自分の能力については秘匿するものだし、詮索するのはマナー違反なんだ。だから、珍しい能力としてある程度注目はされるくらいで、そこまで詮索はされないと思うぞ」
「そうですわね。珍しいということはユニークスキルの可能性も疑われるでしょうし。別に封印する必要はないと思いますわ。寧ろ、封印することで危険な目にあうのが最悪のパターンです。今後本格的に冒険者として外で活動する気があるのならば、使った方が良いと思いますわ」
異世界組の助言を聞いたうえで、兄様達と雷魔法の使用についてどうしようかと話をした結果、雷魔法の使用もオッケーということになった。ただ、やっぱり目立つのは避けたいから他の普通っぽい魔法を優先して使って、雷魔法は切り札として使うことを厳命されたけど。
雷魔法を使うことがオッケーということならば、レールガンについてはこのまま採用で、他にもいくつか作れないか考えてみることにしよう。
今回の護衛をしてくれた『白の夕霧』にお礼を言いつつ、私達は一度宿に帰った。帰った後に千鶴さんの長いお説教があったことを報告しておきます。うぅ。考えなしに雷魔法を使ってごめんなさい…。『白の夕霧』の人達が良心的だったから良かったものを、迂闊でした。反省してます…。




