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11話 天才少女と今後の話

「ぷっ、くく…。『天才少女』…。あはははは!」



 私のスキルを見た綾さんが堪えきれなくなったように笑い声をあげた。非常に失礼な人である。綾さんの反応を見て、私はぷく~っと頬を膨らませた。



「むぅ~!」


「ごめん。ごめんって。そんな可愛い顔でむくれないでよ。ぷっ、くく…」



 謝っているけど、最後の笑いで全て台無しだよ。



「私のも酷いけど、みんなのだって大概だと思うよ?」



 私はテーブルの上に並んでいる綾さんと千鶴さんのギルドカードに視線を移した。



【名前】今井 綾

【種族】人間

【冒険者ランク】G

【コモンスキル】

〈索敵レベル1〉〈体術レベル2〉〈料理レベル2〉

〈声量強化レベル1〉

【エクストラスキル】

〈鼓舞〉

【ユニークスキル】

〈異世界の扇動者〉



【名前】宮川 千鶴

【種族】人間

【冒険者ランク】G

【コモンスキル】

〈体術レベル4〉〈体捌きレベル2〉〈弓術レベル2〉

〈聞き耳レベル3〉〈料理レベル3〉〈調教レベル2〉

〈解体レベル1〉

【エクストラスキル】

〈夜目〉〈教育者〉

【ユニークスキル】

〈異世界の観察者〉



「扇動者って危ない人でしょ?」


「それ、偏見だよ。他人を煽って何かをさせるような人のことを言うんだよ」


「文字にして起こすと悪人にしか聞こえませんね」



 千鶴さんの言葉に私はうんうんと頷いた。私達に悪人呼ばわりされた綾さんはキッと千鶴さんを睨んで、千鶴さんのギルドカードのある部分を指差した。



「私よりもよっぽど千鶴先生の〈調教〉の方が危ない感じがするんだけど!?」



……そうだよね。〈調教〉も字だけのイメージなら危険な感じがするよね。しかも千鶴さんって教師だし。



 私も同じこと思ったし。私が千鶴さんを見ると、とても私達よりずっと年上とは思えない若々しい顔でひんやりとした微笑を浮かべていた。ひえ。



「あらあら。私は犬の調教をしていましたから、別に不思議ではないでしょう?」


「千鶴先生、犬なんて飼っていたっけ?」



 綾さんが不思議そうにそう聞くと、千鶴さんが頬に手を当てながら首を傾げて笑顔をより一層深めた。



「飼ってはいませんが、自由気ままに問題ばかり起こす『犬』達の指導をするのが、私の仕事でしたから」



 そこまで言われて、綾さんも犬というのが何を示しているのか気付いたようだ。千鶴さんの笑顔を見て顔を真っ青にしている。私もガクガクブルブルしている。千鶴さん怖い。今一番恐怖を感じたよ。



「まあ、冗談はさておいて」



 本当に冗談なんだよね?信じて良いんだよね?



「今後の事ですが、皆さんはどうしたいと考えていますか?」



 私と綾さんは千鶴さんの言葉に顔を見合わせた。私の答えは決まっているし、たぶん、綾さんも一緒だと思う。



「決まっているよ。ここから外に出て、あの先輩に似ている人を探す。先輩とは違うかもしれないけど、なんの関係もないとは思えないんだよね」


「私も、おねえちゃんを探したい。別人かもしれないけど、それでもいい。あの人が誰なのか知りたいの」



 綾さんに続くようにして私も千鶴さんの質問に答えた。千鶴さんは先生をしている時と同じ目になって、「そうですか」と呟く。



「千鶴さんはどう思っているの?」


「私の考えを述べるのならば、今後の身の安全を考えると聖国に属して暮らすのも構わないと思っています」



 千鶴さんもてっきり私達と同じ考えだと思っていた私は思わず目を瞬いた。綾さんは「やっぱり反論したか~」と呟いて顔をしかめた。そんな反応を示している私達を見た千鶴さんは、真剣な顔で私達に言い聞かせるように話を続ける。



「良いですか?多少の勉強をしただけで、常識の全く違う異世界という未知の世界で暮らすというのはとても難しい事です。それも、人を探すということは他国へと旅をしながら情報を集めに行く可能性もあるでしょう。その分だけ、危険は更に跳ね上がります。魔物という危険な存在が蔓延り、異世界から来たという私達の存在はそれぞれの国の人間達からも狙われると思われます。それらを考えると、私達の事情を既に知っている聖国に留まり、国の中で働くというのも選択肢の一つとして考えるべきです。それに、思い出してみてください。私達が出会ったあの月代さんに似た彼女は、聖国のトップである熾天使様と顔見知りです。当てもなく情報を集めるよりはここに留まった方が情報が手に入りそうだと思いませんか?」



 千鶴さんの言葉に私の心はぐらりと揺れた。確かに、当ての全くない状態でおねえちゃんに似ている人を異世界というまだまだ未知の場所で探すのは困難を極めるだろう。熾天使様の言葉をそのまま受け取るならば、私達が自由を選択した場合は、熾天使様との繋がりは一旦消えてしまうのだから、その線から情報を得るのは難しくなる。



「それに、私は年長者であり教師です。貴方達の身の安全を第一に考えたいのですよ」



……そんなことを言われたら反論できないよ…。



 私がどうしようと眉を寄せて考えていると、綾さんは考え込むように顎に手を当てて、それから本意を探るように千鶴さんに問い掛けた。



「先生は先輩のことが気にならないの?」


「あれが本当に月代さんならば、私だって会いたいと思っていますよ」


「…」


「ですが、あの少女が本物である確率なんてとても低いでしょう。世の中には同じ顔の人は何人か居ると聞きますし、もし仮に本人だったとしても、彼女があの時に私達を知らない人のように対応したのには理由があるからでしょう?だとするならば、探すこと自体が彼女に疎まれる可能性もありますよ?その辺りを理解しているのですか?」


「それは…。そうかもしれないけど…」



 これは千鶴さんの言う通りだね。普通に考えて、たまたまやってきた異世界におねえちゃんが居るなんてありえない話だ。非科学的すぎる。それに、あの時のおねえちゃんの反応を見るに、私達のことを覚えていないか、覚えていないふりをしている可能性が高い。どちらにしても、もし会えてもまともに話も出来ない可能性がある。それはきちんと理解しているつもりだ。



 それでも。それでも私は…。



「それでも私は、おねえちゃんにもう一度会いたい。会って話がしたい。たくさん話したいことがあるの」



 私の言葉に、千鶴さんも綾さんも押し黙ってしまった。恐らく、この気持ちだけは私達全員共通のはずだから。



「だから、私は会いに行くよ。たとえみんなから反対されても。それがどんなに厳しい道のりでも。たとえ、あの人がおねえちゃんでは無くても。それを確かめるまでは、諦めたくないよ」


「妹ちゃん…」


「それがたとえ、よく似た別人であってもですか?」


「うん。これは私のただの自己満足。…それに、なんとなくだけど、あの人はおねえちゃんだと思うんだよね。ただの勘だけど」



 私の言葉に二人が口を閉じて私をじっと見詰める。なんだか、空気が重くなったような気がする。こういう空気はあまり好きじゃないから、場の空気を明るくするために、笑顔を作って出来るだけ明るい声を出して言葉を続けた。



「それに、なんだかんだ言っても、みんなあのおねえちゃんに似ている人の事が気になるんだから、自由になれるチャンスがあるなら自由にやろうよ!それに、熾天使様との関係だって完全に切れるわけじゃないし。話を聞けるチャンスだってあると思うよ?」


「そうだね。私達が異世界人だということを知っているし、その辺の情報と引き換えにうまく交渉出来ればいけるかも。でも、異世界の知識を教えるのは最終手段にしたいけどね。この世界にどんな影響を与えるか解らないし」


「それにそれに!異世界転移物語といったらやっぱり冒険者は王道だよね!?王道は大事だよ!!」


「いや、それはどうでも良いと思うよ…」


「え~?王道は大事だと思うけどなぁ」



 私と綾さんが盛り上がっていると、こめかみを指でとんとんと叩きながら思考に耽っていた千鶴さんが諦めたように息を吐いた。



「仕方ありませんね。聖国で生殺しにされるよりかは、多少危険でも冒険者として外の世界に出た方が健康的かもしれません。それに、他国に私達の存在が発覚した時は、たとえ聖国に所属していたとしても危険になることは変わりありませんし。それにやっぱり私もなんのしがらみもなく、直接月代さんに会いたいですからね」



 千鶴さんも賛成してくれたので、やるべきこと…目的を明確にするために、私は腕を組んで〈高速思考〉しながら今後のことについての考えを纏めてみる。



 まずは目的を設定する。これについてはとりあえず『おねえちゃんを見付ける』だ。正確には『おねえちゃんに似ている人の正体を明らかにする』だね。最終的には会って話が出来ると良いけど、現時点でそこまで高望みはしないでおこう。ハードルは低めにね。



 その目的を達成するにはどうするか?まずは何よりも情報が必要だ。おねえちゃんに関する情報ももちろんだけど、まずは私達がこの世界について完全に理解して、普通に過ごしていても浮かない生活をしなくてはいけない。まぁ、私には無理だろうけどね。地球でも私は浮いてたし。努力はするけど。



 情報を得る為の手段だけど…問題が起きた場合にすぐに移動が出来る自由度。他国に渡りやすい環境。幅広い人と関われて情報が得やすい職業。つまりは、冒険者として活動するのがこれに一番適していると言えると思う。最悪の場合、高い自由度を生かしてそれぞれ違う職業に就くことも出来るからね。まともな教養も受けられない孤児でもなれる職業らしいからね。むしろ最初に就ける職業がこれしかないとも言える。ギルドカードも貰ったし、使わないとね。



 もしも聖国の騎士として活動することを選んだ場合だけど、熾天使さんとの関係は切れないだろうけど、今までの賓客から変わった扱いになるだろうから、当たり前だけど明確な上下関係が生まれてしまう。そうなると、簡単には会えなくなるし、話を聞くのも困難だろう。それにもし話を聞けたとしてもちゃんと答えてくれるか解らないし、答えてくれても、その情報の真偽を確かめるのも難しい。それに、千鶴さんも言っていたけど、いつまでも安全に暮らせるという訳でもない。例えば、戦争が始まったら私達も駆り出される可能性があるし、私達の異世界人という情報が流れて、誘拐や暗殺をされる危険性だってある。まぁ、そこまで来たら守ってくれると思うけど。国として不利益になったら切り捨てられるかもしれないし、絶対じゃないよね?



 となるとやっぱり聖国に所属するのは論外だ。自由になって冒険者になる。これで決まりだね。



「うん。冒険者一択、かな」


「だね」


「そうですね」



 私の考えを聞いた綾さんと千鶴さんは二人共納得したように頷いた。これで、私達の今後の方針が決まったね。異世界物語王道の冒険者生活だよ!



 そして、寝るまでの間に話が纏まった私達は、残りの時間はお互いの(兄様は除く)スキルを細かく確認していった。今後活動する上で重要だからね。



 あ、そうそう。翌朝に兄様のギルドカードも見せてもらったんだけど、兄様のユニークスキルは『異世界の勇者』だった。私以上に痛いスキルを持っている人が居て良かった。さすが兄様、勇者とか主人公系がとても似合う。本人はなんとも言えない顔していたけどね。




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