8話 天才少女と勉強の終わり
私達がこの世界に来てから1ヶ月が経った。
ほとんどは座学による勉強ばかりだったけれど、1ヶ月の後半は、庭で体を動かしたりとか、プリシラさん主催でお茶会のようなことをしたりだとか、まぁ、飽きない程度にいろんなことをしたよ。
「必要最低限の知識はもう既にお教えしました。私の授業もそろそろ終わりですね」
そして今日、朝食が終わってプリシラさんが戻ってきた時に私達を見てそう言った。
……私、この1ヶ月の間、規格外の人達に囲まれながらよくやった!誰か褒めて!
誰かと言いつつ、頭の中でおねえちゃんの声を再生していると、プリシラさんが「それでは」と講堂の出口の前まで移動した。
「皆さんのスキルの確認をしましょう。今回は特別に冒険者ギルドを呼んでいるそうなので、この場でギルドカードも発行してもらえます」
ギルドはいろいろな種類があるらしく、その中でも一番ギルドカードを手に入れることが楽なのが冒険者ギルドなのだそうだ。そして、このギルドカードというのは身分証にもなるので、カード一つで世界中のどこにでも入国出来るんだって。
ただし、何かの犯罪を犯した場合とかはすぐにカードがはく奪されてしまい、再発行はとても大変らしい。他のギルドでは発行が難しい分、万が一犯罪とかを犯してもその内容と状況によっては、更生まで面倒見た上ですぐに再発行してくれることもあるのだとか。
冒険者ギルドのギルドカードは手に入れるのは容易だけども、その分すぐに取り上げられやすく、もう一度手に入れるのが難しい。まぁ、品行方正にしていればそうそう取り上げられることは無いそうだから、各国独自の法律にだけ注意しつつ、人に迷惑をかけないようにすればいいってことだね。
プリシラさんに先導される形で、私達が暮らしている建物から外に出て広い庭の中を歩く。出入口に騎士さんが居たけど、プリシラさんが許可を取っているらしくて特に止められるようなことは無かった。
私達が勉強を始めた日は、この世界に来たばかりだったことが配慮されて自由時間を多めにくれたみたいだったけれど、今は三の鐘(鐘が三回鳴る時間。多分朝の8時くらい)に朝食。朝食が終わってすぐに勉強を始めて、五の鐘(高い音色の鐘が二回鳴る時間。大体12時ぐらい)に昼食。その後は次の鐘が鳴るまで休憩で、七の鐘からまた勉強。八の鐘(低い音色の鐘が二回鳴る時間。夕方の6時くらいかな)に夕食を食べて、九の鐘が鳴る前くらいに解散という流れで生活していたんだ。この生活リズムが一般的な人に一番近いらしい。もちろん、働く職業によって差が出るけどね。
で、今は朝食が終わって四の鐘が鳴る前だから、恐らくは9時くらいじゃないかな。雲の浮かぶ青い空から太陽の光がさんさんと地上に降り注いでとても眩しい。引きこもりな私は太陽で浄化されそう。最近は引きこもれないから耐性ついたけどね!
そんな眩しい庭を通り過ぎて、白くて大きい神殿のような建物の中に入っていく。たしか、ここ聖国のシンボルにして中枢の建物で、大神殿だったかな。そのまんまじゃん。
「聖国の大神殿か…なんだかヨーロッパ旅行に来た感じ」
「よーろっぱ?」
「あ、ごめんなさい。私達の居た世界の話です」
私が迂闊にポツリと呟いてしまったせいで、前を歩いていたプリシラさんが反応してしまった。でも、そこまで興味を示さなかったのか、私が違うの世界の話だと言うと「そうですか」とあっさりと会話を切り上げた。
深く追及されなくて、思わずふぅっと小さく安堵の溜息を吐くと、綾さんがこつんと肘をぶつけてきた。
「地球の話は原則禁止、だよ」
「分かってるよ。ついポロっと出ちゃっただけだもん」
「気持ちはわからなくはないけどね。でも、ホントに気を付けなよ?」
「うん」
綾さんと小声でそんなやり取りをする。私達が異世界から来たことは、この国の偉い人には知られているけれど、不用意に周囲に知られて良い事じゃない。異世界の知識や技術を手に入れようと画策する連中など沢山居るだろうから。今後どういう暮らしをするかわからないけれど、今からでも警戒しておくに越したことはないのだ。
……プリシラさんは私達が異世界人だと知っているし、この国の偉い人は、今のところ私達を利用する気は無いみたいだけどね。
でも、今後どのように干渉してくるかわからない。この世界のことについて教えてもらった恩はあるけれど、私達の持つ知識は世界を大きく変えかねないほどのものばかりだ。えっと、こういうのは知識チートというんだっけ?とにかく、私達にとって常識の大したことのない知識でも、この世界ではどうなのかまだ完全に把握しきれていないうちは、不必要なことは言わない様にしようと何度も話し合っている。特に私は念を押されてる。
それからは特に会話も無く、黙々と歩くプリシラさんの後をついていく。
そして、大神殿のかなり奥の方まで歩かされた私達は、一際豪華で大きい扉の前に辿り着いた。
「この奥は聖堂と呼ばれる場所で、聖女様を見出す『選定の儀』というものが行われる場所でもあります。今回はギルドでも内密にしてもらうように、聖女様の立ち合いのもと、この場所でギルドカードの発行を行います。本来は、ギルドカードの発行に国が絡むようなことはありえないことなのですが…」
プリシラさんはそこで言葉を切って私達を見た。
「1ヶ月ほど皆さんと接して来た私には、皆さんが悪人ではないと言えますが、他の方はそうではありませんから。スキルまでは見られることは無いと聞いていますので、そこは御安心下さい」
「俺達もその辺りは理解していますから、お構いなく。むしろ、多大な援助に感謝しています」
そんな簡単に人の信頼を勝ち取ることは出来ない。特に国を守るために働いている人達なんだから、私達のような異世界から召喚されたよくわからん人達を警戒するのは当然のことだ。私達も兄様の言葉に頷いた。
それを見たプリシラさんがほっと息を吐いて微笑み、「それでは、行きましょう」と豪華で大きな扉を開けた。
……え?それ一人で開けられるの!?
内心驚いたのを表に出さない様に気を付ける。でも、綾さんもびっくりしたように目を見開いていた。兄様と千鶴さんはさすがというか表情一つ変わっていない。
聖堂に足を踏み入れると、左右に三体ずつ神像が置いてあり、正面に一体の一際大きな神像があった。たぶん、この一番大きいのが主神なのかな。
聖堂に居るのは、召喚された時に私達を助けてくれた天使の人と、同じような服を着ているとっても綺麗な金髪の少女が主神の像の前に並んで佇み。台を隔てて、ギルドの人だと思う女性が一人と若い女性が一人、緊張した面持ちで立っていた。私達の入室に気付いて全員の視線が集まる。
私達はそのままギルドの人達から少し距離を置いた場所まで歩き、プリシラさんにここで待つように手で指示されて、それぞれ横に並んで跪いた。こういうのももちろんこの1ヶ月で習ったことだよ。プリシラさんは天使さん達の前で一礼してから壁際まで移動した。
緊張感の漂う空気の中、天使さんが口を開こうとした時、聖堂の奥の部屋が勢いよく開いて、黒髪の長い髪を三つ編みにした女性が出てきた。
「アリス様ー。こちらの準備はでき…あー、タイミング悪かったですかねー」
「カルタ、今の私はアイリスですよ?…全くもう。こっちに来てください」
「いやー、大して変わらないじゃないですかー」
金髪のすっごい綺麗な少女が黒髪の女性を呼んで手招きした。カルタと呼ばれた女性は、ぴりぴりした空気などお構いなしに、力の抜けるような喋り方で話しながらアリス(本人曰くアイリス?)と呼んだ金髪の少女に駆け寄っていく。
天使さんがそれを見てクスクスと笑い、改めて私達を見て口を開く。
「皆、立って良いよ。それじゃあ、スキルの鑑定とギルドカードの発行を行おうか」




