7話 天才少女とデバイス
部屋に戻った私は早速、千鶴さんと綾さんにデバイスについてお、この世界に来る直前まで私が研究していた内容について相談した。
「確かに、魔力の説明と輪音さんの研究していたという物質。類似点があるような気がしますね」
「しかし、そんなもの着けてたんだね。私は全然気にも留めなかったよ」
「綾さんはもう少し周りを観察しましょうね」
そして、最初から私のデバイスの存在には気付いていたという千鶴さんに、綾さんが頬を膨らませて抗議した。
「私だって着けているのは気付いていたけど、ただのアクセだと思っていただけですよ」
「輪音さんは普段はアクセサリーなんて着けないから、私は何か研究と関係あるものなのかと最初から思っていましたよ。デザインもシンプルでしたし」
「妹ちゃん、せっかく可愛いんだからもっとファッションに興味持とうよ…」
……着飾ることに興味が無くてごめんね。
でも、研究者として一日中部屋に閉じこもっていることも多いし、最低限の外面がしっかりしていれば化粧とかアクセサリーとか要らないと思うんだよね。時間とお金の無駄だし。
というわけで、綾さんの言葉に、私は無言で顔を横に振った。
「ま、輪音さんのファッションへの意識改革は後回しにして」
……後回し?え?今後何か考えているの!?
「問題はそのデバイスという装置ね。今でも問題無く使えるのかしら?」
「そういえば、この世界に来てから試してないかな。さっき存在を思い出したくらいだし…。ちょっと離れてて」
私の言葉で部屋の端まで避難する2人。そこまで離れなくても大丈夫なんだけど。
とりあえず、私はテーブルの上にあるコップに水を注ぐ感じをイメージしてみた。デバイスに設置されている魔力っぽい物質が閉じ込められた場所が仄かに光る。
そして、私のイメージ通りにコップになみなみと水が注がれた。
それを見ていた2人が、驚いた声を上げてから駆け寄ってくる。
「凄い!本当に魔法が使えているよ!」
「私達の世界にも魔力に似たものがあったということかしら?う~ん…魔女伝説とかは確かにあるけれど…」
凄い凄い!とはしゃいでいる綾さんとは対照的に、千鶴さんは難しそうな顔でぶつぶつと喋り始めてしまった。まあ、私が初めてこの物質の特性を見付けた時もこんな感じだったから、どっちの気持ちもよくわかる。
「それで、このデバイスのことは話した方が良いと思う?」
私がそれぞれの反応をしている2人に問いかけると、2人とも難しそうな顔をした。
「この物質について手っ取り早く正体を知りたいのならば聞いた方が早いかな。私はどっちでもいいと思うけれど、千鶴さんはどう考えます?」
「私は…相手から何か聞かれるまでは秘匿した方が良いと思うわ」
私と綾さんは千鶴さんに顔を向けた。千鶴さんは私達の視線を受けながら話を続ける。
「ぱっと見はただのアクセサリーにしか見えないのだから、いざという時の切り札として隠しておいた方が良いでしょう。それに、こういった道具を判別する物があるのかどうかを確かめることも出来ますし」
「確かに、私達の今後を考えると、切り札は出来るだけ持っておいた方が良いね」
「まだ、今後はどうなるかわからないもんね」
というわけで、私のデバイスは相手から何か聞かれるまでは秘密にしておくことになった。兄様にこのことは…別にいっか。後で決めたことだけ伝えておこう。
あ、兄様で思い出したけど…
私はさっき魔法で出した水を飲んでいる綾さんに視線を向けた。綾さんが私の視線に気付いて、コップに口を付けたまま、何?というふうに顔を傾げる。
「結局、綾さんと兄様って付き合っているの?」
「ぶはっ!」
「ちょっ、汚いですよ、綾さん」
「ちょっとかかった…」
私の言葉で盛大にむせた綾さんから顔をしかめながら遠ざかっていく千鶴さん。普段は優しい先生なんだけど、こういうところがあるよね。そこはハンカチを取り出すところじゃない?あぁ、私もハンカチ出して拭かないと。全く、綾さんってば漫画みたいな動揺をして…。
で、そんな漫画みたいな動揺をした綾さんは気管に水が入ったのか、涙目で咳き込みながら私を睨んできた。
「ゲホッゲホッ…い、いきなり何を言うの妹ちゃん!?」
「いや、だってね。兄様は綾さんのこと好きみたいだし…。綾さんもそこまで露骨に嫌がってなさそうだし…実は裏では付き合っていて、表向きは隠しているのかなって思って」
「ナイナイ。ありえない。私は永久先輩一筋だから」
「いやいや、それはそれでどうなのかしら?」
「おねえちゃんの近くに一番危ない人が居たよ…」
……ま、私もおねえちゃん一筋だけどね!
妹ちゃんだけには言われたくないと言いたげな視線が来るけど気にしない。これだけは譲れない。譲らない。私はおねえちゃんの妹だからね!
「で、結局どうなの?」
「話の戻し方が強引だなぁ…。本当に全さんとは何にもないよ。むしろ、私個人的には少し苦手だし」
「最初は名前呼びもかなり躊躇していたものね」
今でも嫌そうだけどね。綾さんが苦笑交じりに頷いた。
「良い人なんだろうけど、やっぱり先輩のことがあるからね。あの人の近くに居ると疲れちゃいそう」
私はあんまり関わりが無かったけど、おねえちゃんはずっと比べられてきたらしいからね。しまいには、兄様の下で操り人形のように働かせられる予定になっていたらしいし。兄様にその気はなかったようだけど、おねえちゃんには耐えられなかったんだろうな。
「私はおねえちゃんが兄様のこと嫌いだったからあまり好きじゃないな」
「妹ちゃんはとりあえず永久先輩が基準だよね」
「当たり前だよ?」
「当たり前では、ないわね」
困った顔で千鶴さんが私を見てくるけど、私はずっとずっとおねえちゃんの傍に居たいと思っていたし、そのためにはおねえちゃんの好き嫌いは把握するように努めてきたからね。…私も嫌いな人の中に入っているのは辛かったけど。
「とりあえず、綾さんと兄様は付き合っていないし、綾さんにその気はないんだね?」
「そうだね」
「それじゃ、兄様がもし強引に綾さんに迫ってきたら言ってね?毒殺するから」
綾さんはおねえちゃんの大事な後輩さんだからね。傷つけられたら仕返ししないと。
「いやいやいや」
「毒殺は冗談だけど、何かあったら相談してね?」
「そうね。私も相談に乗りますよ?こういうのは教師の私の方が専門でしょう。今は教師では無いけどね?」
「あはは。ありがと。もし何かあったら相談するね」
まぁ、兄様がそんな勢い任せに不埒なことをするわけ無いと思うけど、男の人は狼さんだからね。何があるか分からないから警戒しておくに越したことはないよね。
「毒殺って本当に冗談だったんだよね?目がマジだったけど」
「冗談だよ」
……半分くらい
もし、もしも。万が一にも、あの兄様が綾さんに強引に迫るなんてことしたら、もう半分くらい確率が上がるかもしれないけど。
「妹ちゃん、目がガチだ。…ところで、私と、一応妹ちゃんも話したんだから、千鶴さんも何か恋バナっぽいのしてよ」
「これって恋バナだったの?まぁ、いいけれど」
見た目は明らかに高校生ぐらいにしか見えない千鶴さんだけど、もう30歳になる立派な大人だ。何か青春をしているに違いない。期待の籠った目で私と綾さんが千鶴さんを見ていると、千鶴さんはにこりと笑みを浮かべてこう言った。
「私も永久さん一筋ですよ♪」
千鶴さんが年齢詐欺な笑顔で答えた。ま、千鶴さんだし、本気で答えてくれるなんて思ってないけどね。本気じゃ、無いよね?本気なのかな…。
ちなみに、兄様に綾さんのことを確認してみたら、適当にはぐらかされてしまった。ただ、無体な真似は絶対にしないとは言っていたよ。まぁ、兄様っていろいろあって女性不信なところがあるし、慎重なんだろうね。ヘタレともいうけど。
兄様と綾さんのことは特に仲人になるつもりは無いから、放っておこうか。相談には乗るけど。
勘違いしないで欲しいんだけど、私は兄様のことが嫌いでは無いよ?引きこもりで人見知りな私の矢面に立っていろいろやってくれるし、家族として信用してる。
何はともあれ、デバイスについては相手の反応次第ということになった。でも、魔法を使えるかもしれないのは今後にとても有用なことだから、自由になれたらみんなの分のデバイスも作りたいよね。




