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夢か現か

「………………ゆめ?」


 目を開けるとそこは自室で天井を見上げていた。


 もしや夢を見ていたのでは?と甘い考えが過ぎるけれど、どう考えても痛む後頭部は現実のものである。


 それでもあの現実を受け入れ難い。


「残念ながら夢ではないのよ、カタリーナ。貴女頭を二回も強くぶつけたようだけれど、何処か違和感とかないかしら?」


 傍らにいるお母様が心配そうにしながらも、私が目を逸らしたはずの現実を容赦なく突きつけてくる。


 纏っているその赤いドレスが目に痛いの。


「お母様、私は大丈夫よ。……強いて言うなら頭が痛いくらいだわ」

「頭が痛いのはぶつけたから当たり前よ。ねえ、カタリーナ。昨夜なにがあったのか詳しく教えてちょうだい」

「でも、私二度目の衝撃までしか覚えていないの」

「そこが一番知りたいことだからいいのよ。……でも、ひとまずは朝食を食べないとね。その後に聞かせてちょうだいな」


 と、そのまま部屋を去っていった。入れ違いに入ってきた侍女は図ったかのように、その手に朝食を持ってきていた。


 いつもは家族一緒に朝食を取っているが、頭を打っている私は自室で一人寂しく頂いた。いつもより簡単な朝食に痛み止めを添えて。


 とても美味しかった。


 その後現れたお母様は何故か、熱で療養しているはずのお兄様らしき毛布の塊を引連れて現れ、ベッドの傍らにある椅子に座る。


「さあ、話してちょうだい。どうせユリウスも関係しているのでしょう? 関わりがあるのだから連れてきたのよ」


 だってまとめて聞いた方が楽でしょ?と、お母様は豪快に笑う。


 でも明らかに顔色の悪い病人を連れてくるのはどうかと思う。そこにある塊がもはや毛布なんだかお兄様なんだかわからないほど全く動いていないのだ。


「……ねえ。これお兄様が説明した方がいいと思うのだけれど」

「声、出ないから……頼む」


 毛布から顔をかすかに出したお兄様は虫が鳴いたようなか細い声だ。声も出ないほどに辛いらしい。


 絶対に寝ていた方がいいはずなのに。

 お母様に逆らえないのか、興味があるのか。


「えーと、まずお兄様は当然知っていると思うけれどまずこうなった前提を話すわね。お兄様のご友人であるユフォリア様が婚約者のミリアンナ様と喧嘩したことから始まったの。……え? 喧嘩の内容? 噂でしか知らないけれど、ユフォリア様が別の女性と浮気したとかでミリアンナ様が怒ってしまわれて。まあ、あれだけベタベタ恋人のようにくっついているのをみたら勘違いするわよね。……さあ? 御相手の方に意図があったかどうかは知らないわ。でも彼女学院に転入してきてから見目のいい殿方達に囲まれていたわね。ああ、そうだ。一応お兄様の名誉の為に言うけれど、お兄様も最初は彼女……リリナリエさんにくっつかれていたけれど、ちゃんと『私には最愛の婚約者がいるので触れないでください』と冷たくあしらっていたから安心して、お母様」


 ほっと息をつき安心したお母様。

 それとは対称的に何故そこまで知っているんだと言わんばかりな鋭いお兄様の視線が刺さる。


 女性の情報網と伝達の早さを舐めてはいけないのよ、お兄様。

【全ての壁に目や耳がある】のは有名である。

 有名な偉人がそう残すくらいにはいつどこでも見られているのだ。


「それで、ユフォリア様がいくら弁明しても、既に色んな方々にリリナリエさんとの姿を見られているからミリアンナ様が聞き入れてくださらなかったの。……そうね、当然の結果だわ。けれど、最愛の婚約者に冷たくされ、更には婚約破棄寸前。そんな状況で死人同然のように落ち込むユフォリア様を、心優しいお兄様は放っておけなかったようで『ミリアンナ様の誕生日に夜会を開いてもう一度気持ちを伝えればいいじゃないか』と提案したのよ。それで昨日表は社交の夜会として、裏は婚約者に捨てられないように縋る誕生日会として開催されたの」

「そういう事だったのね。でも、なぜユリウスは婚約者のナタリーさんを連れていかなかったの?」


その疑問はご最もだと思う。

あれだけ溺愛している婚約者を夜会に連れていかないわけが無い。


「……それはナタリーお姉様に好意を寄せてるとある男性がそこに出席するからよね? お兄様はユフォリア様の相手をしなくてはならなかったから、目を離した隙に変な虫が寄ってくるのが耐えられないのよね」


 声を出せないお兄様は、羞恥からか潤んだ瞳で睨みながらも、渋々と頷く。


 まあ結果的に私に代役を頼むことになってしまい、涙鼻水を垂れ流しながら凄く申し訳なさそうに、ベッドの上で土下座されたのも良い思い出だ。

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