鬼人グレンバスター
"グレンバスター"。
元王国騎士団員。
戦いでは、その圧倒的強さにより「鬼人」と呼ばれた。
現在は騎士を辞め、冒険家になり旅に出たと言われていたが、なぜその彼がこの城へ戻ってきたのかしら?
「はいはい、道を空けろ!」
騎士の一人がやってきた。
民衆は騎士の言うことを聞き、速やかに退いた。
すると、噴水の前に一人の男がいた。
その男はコートを羽織り、頭には銀色に輝くフルフェイスヘルムを被った男だった。
私も一度見たことある人物。
そう、彼こそが"グレンバスター"だ。
「きゃー!! グレンバスター様ぁー!!!」
メリーは燥いでいる。
彼女は彼の大ファンだからだ。
「久しぶりだな、グレンバスター。 あの戦い以来じゃないか?」
「さあな。 色々ありすぎて忘れたわ。」
グレンバスターはとても友好的な人だった。
そして声から彼が明るい人間だという事も感じた。
「んでよ、一体何の用なんだ?」
「詳しくは国王様が説明してくださる。 一緒に来てくれ。」
そう言うと、彼らは城の方へ歩き出した。
周りの兵士達が民衆を抑え、二人の歩みの邪魔しないようにする。
そして二人の姿は私の視界から消えた。
「やっぱりグレンバスター様はカッコイイわぁ~。」
メリーはもうメロメロだった。
そのメリーを見て、私とフローリアは顔を合わせて静かに笑った。
「グレンバスター様はきっと今頃、任務の支度をしているところね。」
ギルドで食事をとっていた。
ギルド内には酒場もあり、そこの料理は凄く美味しい。
そんな中、メリーはさっきからグレンバスターの話題ばかり喋っている。
私とフローリアは食べながら聞いてあげていた。
「メリーはさ、グレンバスターと結婚したいの?」
私の質問に、メリーは凄く驚いていた。
その証拠にフォークの柄尻をステーキに突き刺していた。
「わ、私レベルじゃ無理よ! もっと高貴な人が相応しいに決まっているわ!!」
やや慌てながら言った。
そして「うんうん」と自分に言い聞かせるように、腕を組んで頷いている。
「で、本音は?」
「げっごんじだい!!」(訳:結婚したい!!)
食べ物を飲み込み、目を瞑ったままフローリアは口を開いた。
それに対し、半泣きでメリーは答えた。
「叶わない夢だけど、やっぱり夢には憧れちゃうよ・・・。」
「はははは・・・。」
私は笑う事しかリアクションができなかった。
メリーはテーブルの上の食器を隅に退け、うつ伏せになった。
「でもさ、グレンバスターの素顔って今まで誰も見たこと無いと言うじゃん。 ダサいオッサンだったらどうすんのよ?」
フローリアは食事しながらメリーに話しかけた。
するとうつ伏せになっていたメリーは勢いよく体を起こし、フローリアを睨んだ。
「私は別に顔で選んでいるわけじゃないわよ! 仮にそうだったとしても、その顔を好きになってみせるわよ!!」
メリーは置いてあった飲み物をガブガブ飲んだ。
とても不機嫌そうだ。
そして飲み物を再び置くと、再び喋り出した。
「だいたいグレンバスター様は王国のために戦い抜いてくださった御方よ。 顔で嫌いになる奴がいたら、ソイツは間違いなくクズだわ!!」
メリーはプリプリしていた。
顔が真っ赤だった。
・・・お酒のせい?
「メリー飲みすぎよ。 落ち着いて。」
「これはミルクよ!!」
酒ではなかったようだ。
だが、まるで酔っ払っているような雰囲気だ。
「・・・ちょっと外に出る。」
メリーは反省したのか、そう言うと席から立ち上がりギルドのドアへ向かって歩き出した。
私たちは、正直めんどくさかったので止めはしなかった。
「メリーはグレンバスターのことになると熱くなるわね。」
「そうね。 あなたはあんな感じにはならないでよ?」
「・・・どういう意味?」
「前に言ってた、「気になる人」に関して熱くならないでよ?」
・・・!!
もしかして、まだ疑っていたの!!?
「あのさ。 アレは本当にそういう意味じゃないんだって!」
「わかってるわかってる。」
あっ・・・。
これ、わかってないな。
・・・もう面倒だからいいや。
数時間後・・・。
私たちはとある場所へ向かっていた。
洋服屋だ。
「ごめんね、付き合わせちゃって。」
「いいって。 私も見たかったし。」
フローリアが洋服を買いに行く予定があったらしい。
それで、何日か前に約束をしてたんだよね。
そして今日がその日だった。
「女性はオシャレしないと、この先生き残れないわよ?」
「フローリアって、そういうところしっかりしてるよな。」
「彼氏欲しいし。」
即答だった。
フローリアも負けず劣らずの結婚願望の持ち主だ。
メリーと違い、憧れの人などはまだいない。
「ちょっと待て・・・。 もしかして最近装備の露出が多くなったのって・・・。」
「フフン♪」
フローリアは笑った。
積極的に男を捕まえに行っている。
「私は"誰かさん"みたいに「仕事バカ」じゃないのよ。」
そう言うと、私を見てきた。
メリーも私を見てきた。
・・・え?
「仕事バカ」って私のこと!?
「で、でも、露出が多いと戦いで傷を負っちゃうわよ?」
「それが「仕事バカ」だと言うのよ。」
二回も言われた。
とほほ・・・。
「女に生まれたからには、常に男にアピールしないとね。」
フローリアはニヤけ顔で発言した。
しかし、やっぱり私は納得できない。
「でも、それで怪我をしては意味がないじゃない。」
「大丈夫。 そこら辺は何とかなるわ。」
フローリアは適当に答えた。
だがやっぱり私は納得できない。
「慢心はダメだよ。 常に慎重に戦わないと酷い目に遭うわよ?」
「まあ、それはその時に考えるわ。」
その言葉が耳に入った瞬間、私の中で抑えられていたモノが爆発した。
「“その時”にはもう遅いのよ!!!」
私は激怒した。
無意識にだ。
私の怒鳴り声にフローリアとメリーは勿論、周りの人達もビクッとなっていた。
「あ、えっと・・・、シルヴィア?」
メリーが私を心配して、顔を覗き込んできた。
「ご、ごめんなさい。 じゃあ、露出多くするのは街中だけにするからさ。 それでいいわよね?」
フローリアも若干早口でそう言った。
反省してくれたようだ。
「シルヴィア、とりあえずコレで涙を拭いて。」
メリーが布を渡してくれた。
・・・というか、私泣いてたのね。
自分でも気付かなかった。
あの時もそうだった。
「4人なら余裕!」という慢心のせいで、3人の人間が死んだ。
生き残ったのはアキトさんに助けられた私一人だった。
メリー達には、彼らのような末路を迎えてほしくない。
もう二度と、あんな光景は見たくない・・・!!
「あっ、ほら! 洋服屋についたよ。」
前方を見れば、確かに洋服屋だ。
いつの間にか目的地に着いていた。
「さあ、入ろう!」
メリーが頑張って、精一杯明るく振る舞っている。
「うん!」
私も、精一杯明るく振る舞ってみた。
今は洋服選びを楽しもう。
メリーが洋服屋の扉を開け、中に入ろうとしたその時だった。
「なぁ、頼むよぉ〜!」
「ですから、そのサイズしか売ってませんから!」
男が店員さんと揉めていた。
その男性の声が、どこかで聞いたことがある声だった。
アキトさんではない。
えーと・・・。
「グレンバスター様!!」
メリーが速攻で当てた。
銀色の兜を被った男。
確かにグレンバスターであった。
・・・しかし、なぜに洋服屋に?
「おっと、見つかったか。 こっそり買い物に来たつもりだったんだがな。」
有名人だからでしょうな。
バレたらこの店満員になっちゃうだろうな・・・。
「一体なにをしているんですか?」
フローリアが話を進めた。
するとグレンバスターは下ろしていた左腕を私たちの方に突き出した。
突き出した左手にはパンツが握られていた。
パンツが出された瞬間、私とフローリアは両手で両目を隠した。
・・・メリーは特になにもしなかった。
「このパンツのもっと大きめのサイズが欲しいのに、売ってねえと言うんだよ!」
「ですから無い物はどうすることも・・・。」
グレンバスターの訴えに、店の人は困っていた。
なるほど。
それで揉めていたのか。
「お城でのことは、もう終わったのですか?」
メリーが質問した。
普段とは違って、言葉が丁寧だった。
「いや、依頼を頼まれてな。 その準備だ。」
依頼ね。
まるで冒険者みたいだわね。
国王様からの依頼となると、本当に大切な依頼なのだろう。
いつか私も受けてみたいわね・・・。
「どのような依頼なのですか?」
フローリアが何気なく聞いた。
まあ、国王様直々の依頼なのだから、おそらく極秘任務だろう。
教えてくれるわけないわね。
「最近起こっている連続殺人事件の犯人捜しさ。」
・・・え?
依頼を簡単に教えてくれたのも驚いたが、それよりも気になったことが耳に入った。
「連続殺人事件」。
・・・そう、「彼」が行っていることだ。
「彼」・・・アキトさんが・・・。
「・・・戦うのですか?」
私が恐る恐る聞いた。
するとグレンバスターは私の方を向いて喋ってくれた。
「いや、まだ分からない。 だが、場合によってはもしかしたら・・・。」
グレンバスターはそこで言葉を終わらせた。
だが、なにを言うハズだったかは誰でも容易に想像できるだろう。
「メリー、洋服を見ようよ。」
「・・・。」
フローリアはメリーを呼んだ。
しかし予想通り、メリーは目の前にいる「憧れの人」に釘付けだ。
「・・・先に私たちだけで見よっか。」
「・・・そうだね。」
私とフローリアは、メリーを置いて洋服売り場へ向かった。