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気になる「あの人」


 数日が経った。


 私は次々と安定して依頼を達成している。

 少しずつ依頼の難易度も上げ始めた。

 力はともかく、「魔物図鑑(モンスターマニュアル)」のおかげで魔物に対する知識は上がっている。

 順調だった。




 そして今日も依頼を終え、報告をするためにギルドにやってきた。


「よう、シルヴィア!」


 どこからか、私を呼ぶ声が聞こえてきた。

 だが、すぐのわかった。

 なぜなら、よく知っている人物だからだ。


「久しぶりね。 メリー、フローリア。」


 私の知人だ。

 魔術師のメリーと、魔法剣士のフローリアだ。

 よくギルドで会って、よく話す仲だ。

 一言で言えば、「友達」だ。


「最近シルヴィア、調子良いみたいじゃないか。」

「え、誰が言ったの?」

「受付さん。」


 メリーが受付嬢さんを指差す。

 すると受付嬢さんがこちらに気付き、手を振った。


「先に報告をしていい? すぐ戻ってくるから。」

「オッケー。」


 メリーが人差し指と親指で丸を作った。

 了承を得たので、私は受付へ向かった。






「で、最近なにかあったの?」


 メリーがテーブルの上の食べ物をパクパク食べながら聞いてきた。

 フローリアはさっきから一言も喋らない。

 まあ、物静かな子だから仕方ない。


「最近なにかって?」

「いや、なにかあったから調子がいいんだろ?」


 メリーが持っていたフォークの先を私に向けながら聞いてきた。

 そして食べ物にフォークを刺して、口に運ぶ。


「もしかして、男でもできた?」


 フローリアがついに口を開けた。

 するとその言葉に驚き、メリーがむせた。


「ゴホッ、ゴホッ! なにを言い出すんだ。」

「いや、シルヴィア美人だし、彼氏とかすぐにできそうじゃん。」


 フローリアが真顔で語った。

 相変わらずだ。


「いえ、違うわ。 魔物図鑑(モンスターマニュアル)を読んで少し勉強しただけよ。」


 私は正直に話した。

 変な誤解をされたら、(たま)ったものじゃない。


「ちぇっ、つまんねーの。」


 メリーが肘をつきながら言った。

 内心期待してたようだ。


「でも、どうして魔物図鑑(モンスターマニュアル)なんか読みだしたの?」

「少しでも強くなろうと思ってね。」


 二人が「ふーん」と言った。



 その後も雑談をして、時間を潰していた。


「ところでシルヴィア。 最近気になる男性とかできた?」

「またその話題・・・。」


 ()りないわね・・・。

 でも、「気になる人」か・・・。


「まあ、気になるって意味ならいるわね。」


 その言葉を言った途端、だらけていた二人が勢いよく起き上がってコチラを凝視(ぎょうし)した。

 私は「しまった!」と思った。

 余計なことを言わなければよかった・・・。


「えっ、誰!!?」

「いや、普通に気になっているだけで、そういう意味ではないから!」


 早急に誤解を解こうとした。


「でも、それが切っ掛けで「恋」に変わったり?」

「ないない。」


 フローリアの追撃も速攻で防いだ。

 彼は「恩人」で"憧れ"ではない。

 その気持ちは変わらないつもりだ。


「でもさ、冒険者は行き遅れになりやすいから早い内に考えた方が良いぞ。」

「そんなこと言ってるけど、あなた一週間前に男を振ったばかりじゃない。」

「キノコ頭はタイプじゃない。 それに私は“グレンバスター”様のような強い人が好みなんだから!」

「理想だけは高いのね。 背は低いのに。」

「なんだと!」


 二人で勝手に盛り上がっている。


 正直今の私は結婚など考えている場合じゃない。

 一刻も早く強くならないと、なにも守ることができなくなってしまう。

 それだけは嫌だ。






 私はメリー達と別れ、宿に向かっていた。


 空はすっかり暗くなっており、(あか)りが(とも)っている。

 ついつい話しすぎちゃった。


 それにしても、結婚か・・・。

 全然考えてなかったな。

 私、冒険者業のしすぎで普通のことを忘れかけているわね・・・。

 少し反省・・・。




 そういえば、「彼」は結婚したりはしないのかな?

 まあ、彼の雰囲気から色恋沙汰(いろこいざた)には興味なさそうだなぁ・・・。


 あの屋敷での出来事で女性の素肌に触ってたけど、やらしい目的で触ってたわけじゃなかったしな。

 もしかして、アレが機能してなかったり・・・?


 ・・・私は一体なにを考えてるのよ!!




 ・・・あれ?

 私、今どこにいるんだろう?


 ちょっと待って・・・。

 ここって「風俗街(ふうぞくがい)」じゃない!!?

 考え事をしながら歩いてたから全く気付かなかった・・・。


 ・・・って、そんなことを言ってる場合じゃない!!

 ここにいたら、私もそんな目で見られちゃうじゃない!

 早く来た道を戻らないと・・・。




 そう言って向きを変える途中に、私は驚くべき光景を目の当たりにした。

 それはとある風俗店の前にいた男女だった。


 妖艶(ようえん)な雰囲気の女性と一緒にいる男性。

 それは間違いなく「彼」であった・・・。


 なんで彼がここに・・・。

 彼って、こういうこともする人だったの!!?

 ・・・いや、彼のことだからどうせ情報集めのために会話してるだけに違いない!


 そんなことを思っている間に「彼」は女性から離れ、どこかへ消えて行った。



 ・・・。

 聞くしかない!!


「あの・・・!」


 私は風俗嬢らしき人に話しかけるために近付いた。

 私が声をかけると、女性は私の方向に振り向いた。


「はい?」


 振り向く彼女を前に、私は少し引いてしまった。

 なぜなら女性がとても色っぽかったからだ。


「(・・・・すごい女だ。)」


 私は思わずそう思ってしまった。



「あの、さっきの人はなにを・・・?」


 私の言葉に対して彼女は首を(かし)げていた。

 すると、何かに気付いた様子で口を開いた。


「あなた、アキトの知り合い?」


 ・・・アキト?

 もしかして・・・!


「“アキト”って、さっきの人のことですか?」

「ええ、そうよ?」


 初めて「彼」の名前を知った。

 そういえば、まだ名前を聞いてなかったっけ。

 意外な収穫だった。


「はい、知り合いです。」


 嘘は言ってない。

 ある程度付き合いがあるし。

 ・・・片手で数えられる程度だが。



「あの、彼はなにを?」


 本題に戻した。


「彼はこの店によく来るのよ。」


 ・・・!!

 思いたくは無かったが、やっぱりそういうことにも興味があったのね・・・。


「ああでもね、彼の目的は情報収集らしいのよね。」


 なんだ・・・、そうだったのか。

 少しホッとした。


「でも彼ね、ウチの子達に人気なのよね。 すごいモノを持っているから。」

「・・・。」


 ああ・・・。

 やることはやってるのね・・・。

 まあ、仕方ないことなのかな?


「ところであなた、ウチで働いてみない?」

「遠慮しておきます。 ありがとうございました。」


 厄介事に巻き込まれる前に私は退散した。






 まさか彼がそんなこともしているとは・・・。

 悪人を殺すためなら手段を選ばないのかしら?

 そこまでして悪人殺しに(こだわ)る理由はなんなのかしら・・・?


 それとは別に、今日も彼の一面を見ることができた。

 彼・・・“アキト”さんのね。


 彼は今後、どうなっていくのでしょうね。

 もしかしたらその内、国レベルの騒動を起こすかもしれないわね。

 ・・・まあ、この国の王様は悪行をするような人ではないから、心配はいらないけどね。



 さて、そんなことを考えている間に宿に着いた。


 色々と考えたいところだが、とりあえず今日はもう寝ちゃおう。

 もちろん、魔物図鑑(モンスターマニュアル)を読みながらね。




 ベッドに入り天井を(なが)めていた。

 あることを考えていた。


 この先、私はずっと一人(ソロ)でやっていくのかしら・・・。

 そろそろ誰かとチームを組んだほうがいいのかな?

 ふと、そう思った。


 一人でやるのにも限界がある。

 今はまだいいが、いずれ苦労するハメになるだろう。

 ならば、早い内に一人でも仲間を見つけないといけないかも。


 それができないのなら、一生中級冒険者のままだわ。


 メリーとフローリアに頼んでみようかしら?

 ・・・とりあえず、今日はもう寝ようかな。






 次の日・・・。


 私はとりあえず、一人(ソロ)で依頼を受けた。

 依頼は比較的簡単だった。

 無理に難しい依頼を受けるよりはマシだと思う。

 事実、これで助かる人もいるのだし。


 しばらくは一人(ソロ)でいいと思った。

 無理に仲間を作って面倒なことになっても仕方ないしね。



 それにしても、なにか騒がしいわね。

 広場の方かしら?


 私は広場に向かって歩き出した。



 広場には人だかりがあった。

 なにかなと近付いてみたが、ここからでは見えない。


 ふと、周りを見回してみるとメリーとフローリアがいた。

 彼女たちも人だかりの中に入れないようだ。


「おーい!」


 私は二人の元に向かいながら呼んだ。

 それに気付き、二人は私の方向に顔を向けた。


「シルヴィアも来たの!?」

「いや、なにかなと思って・・・。」


 二人はなにがあるのか知っているようだ。

 しかも、なぜか興奮している。


「なんと、"グレンバスター"様 が来てくださっているのよ!!」

「えっ!?」


 あの"グレンバスター"が!!?






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