表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/33

「彼」の新たな一面


 三日後・・・。


 私の脚の怪我はすっかり治った。

 今では歩くどころか走ることもできる。




 あの出来事の後、街は大騒ぎだった。

 行方不明であった女性三人が街の外で見つかったからだ。


 当然「あの人」のおかげだ。

 ・・・だが、それを知るのは私と彼自身のみである。


 私が言ったところで、誰も信じてはくれないだろう。

 それに、おそらく彼自身がそれを望まないと思う。

 だからわざわざ街の近くに彼女たちを置いたのだろう。



 彼女たちの証言により、あの屋敷の主は誘拐犯であったことが判明した。

 自分が仕掛けた罠にかかった女性を助けるようにして屋敷へ連れて行き、監禁していたらしい。

 そして自分の欲求による暴行を働いていたらしい。


 私がかかったトラバサミも、おそらく屋敷の主の仕業であろう。



 屋敷に向かった兵隊は、当然ながら驚くべき光景を目にした。

 そこには屋敷の主と執事が惨殺された死体があったからだ。

 勘の良い国の方々は、これも連続殺人事件の容疑者と同じであることを推測した。


 幸い、救出された女性たちは気を失っていたため、「彼」の姿を見た者は彼女たちの中では誰もいなかった。

 殺人犯に助けられた可能性があるということで、彼女たちの心境はかなり複雑であろう。



 また、屋敷の使用人たちは今回の事件になるまで誘拐された女性たちがいたことを知らなかったようだ。

 あの部屋には絶対に入らないように、主にきつく言われたらしい。

 もし知ってしまっていたら、あの執事のようになっていたのだろうか・・・。



 ちなみに、話の内容的に「彼」の死体は無かったようだ。

 おそらく蘇生した彼自身が片付けたのだろう。






 私はさっそく一件の依頼を終わらせてきたところだった。

 普段通り、ギルドへ向かうために街を歩いている。


 街の人々は、それぞれの生活のために動いている。

 買い物をする人、知人の家に向かう人、散歩をする人、友達と遊ぶ人。

 色々な人が歩いている。



 ふと、私は屋敷の主のことを思い出した。

 最初は親切な方だと思ったが、実際は悪人だった。


 もしかしたら、ここで普通に歩いている人たちの中にも「悪人」がいるかもしれない。

 そんな考えが脳裏に浮かんだ。


 もしそうなら、やはり「あの人」がやってくるのだろうか・・・。

 「悪人を殺す」・・・、それが使命だと言っていた。


 どこからどこまでが、あの人にとっての「悪人」なのだろうか・・・。

 たとえば、貧しい子供が食物を盗んだ場合でも「あの人」は殺すのだろうか?


 私は最悪な想像をしてしまった。

 もう考えるのはやめよう・・・。






「どけぇー!!」


 遠くの広場で一人の男性が走っていた。

 男性は袋を(かつ)ぎ、刃物を持っていた。

 ・・・そう、「泥棒」だ。


 刃物に恐れて街の人は次々に道を空ける。

 民間人が刃物を持った泥棒を止めれるわけがない。


 なら、冒険者が止めればいい。

 私は泥棒の元へ駆けようとした。



 だが、私より先に泥棒へ立ち向かっていった者がいた。



「成敗!!」


 泥棒の腹部に、鉄の拳が衝突した。

 街を巡回(じゅんかい)していた「兵士」の拳だ。


 泥棒はあまりの激痛に地面に崩れ落ちた。

 その隙を逃さなかった兵士は、刃物を取り上げ、持っていた縄で泥棒を縛った。

 かくして、泥棒騒ぎは兵士のおかげで解決した。


 兵士は泥棒を連行し、街の奥へ消えて行った。


 この城下町を巡回している兵士たちは、中々の強さを持った人たちだ。

 下手な冒険者より強い人もいる。


 ・・・とりあえず、血は流れなくてよかった。






 ギルドへの報告を終わり、私はギルドの席の一つに座っていた。

 私の他にも、食事をしている冒険者、話で盛り上がっている冒険者、寝ている冒険者など、色々な冒険者がギルドにいる。


 ある冒険者たちの話し声が聞こえてきた。


「また殺人事件だとよ。」

「あの三人の女たちを(さら)った奴だって聞いたぞ?」

「また胴体が切断されてたらしいぞ。」

「えっ、じゃあ今までの奴と同じか?」

「その可能性はあるな。」


 もう三日も経っている。

 噂が広まるのは当然だ。



 私たちがこうしている間も、「彼」は悪人を殺しに行っていることであろう。


 死んでも蘇る。

 ふと、「彼」の不思議な能力を思い出した。


 なぜそのような能力を持っているのか。

 また、「彼」は一体何者なのか・・・。


 「彼」に関してのことは謎ばかりだ・・・。






 私はギルドを出て、街の外に出た。

 そして広大な草原を眺めていた。

 時刻は夕方。

 空が橙色に染まっている。



 今も「彼」は、この夕焼け空の下で歩き回っているのだろう。

 そして夕日のように真っ赤な血をぶちまけているのだろうか・・・。


 だが、彼は彼で頑張っているのだろう。

 自分のやるべきこと、もしくはやりたいことをしているのだろう。



 ・・・私はなにをやっているのだろうか。

 魔物に恐れ、今では雑魚狩りをしている・・・。


 私がやりたいことは、こんなことじゃない!


 勇者とまでにはいかないが、強い冒険者となって、人々の役に立ちたい。

 そう思って、私は冒険者になったハズ。


 今、こうしている間にも、冒険者を必要としている人たちがいる。

 その人たちを助けなくてはいけない・・・。

 私は・・・強くならなければいけない・・・!!



 私は早急にギルドへ戻った。






 時刻は夜。

 私は宿に泊まって、ある本を読んでいた。

 その本とは「魔物図鑑(モンスターマニュアル)」である。


 こうなったら魔物について知識を付けようと思った。

 すぐに力をつけることはできないが、知識なら少しでもつけられるハズ。

 そう思った。


 「魔物図鑑(モンスターマニュアル)」はギルドに沢山置いてあり、その場で読むことができるが、買うこともできる。

 値段は本にしては少々高いが。




 図鑑には、弱い魔物から強い魔物まで書いてある。

 さすがに一気に覚えるわけにはいかないので、今日は5〜10ページぐらい暗記しようと思った。


 魔物の生態、習性などが詳しく書いてある。

 ・・・だが、人が書いたものなので「不明」と記されているところもある。

 例えば、スライムには目があるのかないのか未だに判明されていないらしい。


 読めば読むほど、新たな発見があった。

 もう少し早くに読むべきだったな・・・。






「ふわぁ〜・・・。」


 次の日、私はギルドに向かうために歩いていた。

 昨日の夜は「魔物図鑑(モンスターマニュアル)」の暗記をしながら寝てしまった。

 結局3匹くらいしか覚えることが出来なかった。

 だが、初めはこのくらいだろう・・・と、自分に言い聞かせる私だった。


 まだ少し眠いなぁ・・・。

 別に徹夜はしなかったが、やっぱり寝起きは眠いものだ。

 身嗜(みだしな)みを整えている最中も、うっかり眠りそうになっていたし。


 まだ少しボーッとしちゃってる。

 だって「彼」の幻覚まで見えちゃってるのだから。




 ・・・ん?

 ちょっと待って。

 あれって、本当に「彼」じゃない!?



 家と家の間にある路地裏の道の先に、赤いフード付きのマントを身に付けている人物が見えた。

 身に付けている装備も「彼」の物と同じだった。


 私は目を擦りながら、路地裏へ入っていった。

 そして「彼」に近づいた。


「あ、あの・・・。」


 私が声をかけると、彼は勢いよく私の方を向いた。

 それと同時に、腰に差しているナイフに手を伸ばしていた。

 なんとも警戒心が強い方だ。


「!」


 彼は私に気付いたようだ。

 すると、明らかに表情を変えていた。


「・・・またお前か。 ・・・ストーカーかなにかか?」


 ため息を吐きながら、そう言葉を発した。

 ナイフに伸ばしていた手も離した。


「いえ、偶然見掛けたのでお声をかけただけです。」

「・・・まあ、・・・なんでもいい。」


 彼は面倒臭そうに言った。



 ふと、目線を彼の見ている方向に向けてみた。

 すると、壁にもたれかかって気絶している男性がいた。


「この方は?」

「・・・コソ泥だ。」


 私が聞くと、彼は目線を一切こちらに向けず瞬時に答えた。

 そして、路地裏の奥へ移動し始めた。


「こ、殺さないのですか!?」


 私は直球な疑問を彼に投げ掛けた。

 すると彼は歩みを止めた。


「・・・小悪党は豚箱で反省させればいい。 ・・・兵士に任せる。」


 視線を一切こちらへ向けず、彼は答えた。

 そして言い終わると、さっさと姿を消した。






 数分後、兵士がコソ泥を連行していった。

 「彼」の望む通りの結果になった。


 それにしても、「彼」の新たな一面を見ることができた。

 「小悪党は殺さず、兵士に任せる」ということだ。

 ・・・ただ、コソ泥の顔面に打撲の(あと)が確認された。

 おそらくそれも「彼」の仕業だろう。


 殺しはせずとも、痛い目には遭わせるらしい・・・。


 優しい面を発見したと思ったら、そうでもなかった。

 彼は悪人に容赦ないようだ。



 なんだろう・・・。

 まるで新生物の生態を観察しているような気分だった。

 「魔物図鑑(モンスターマニュアル)」を読んだ影響だろう。


 だが、「彼」のことをもっと知りたい。

 その気持ちでいっぱいだった。


 次に会ったときは、もう少しお話をしてみたいな。



 少し経って、私は「彼」を動物かなにかと一緒の扱いをしてしまったことを深く反省した。

 それと同時に、次に会うときが楽しみで仕方なかった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ