蘇生仕置人
「やっと、また会えましたね。」
私は気分が悪かったが、無理に笑顔を作った。
「・・・三度も会うことになるとは。」
「彼」は少々困惑した物言いでボソッと言葉を発した。
彼は私から視線をそらすと、男の死体の胴体に刺さっているオノを引き抜いた。
そして再び胴体にオノを突き刺し、胴体を斬り始めた。
まるで、料理でもするかのように・・・。
「あの、なにをしているのですか・・・?」
私はあまりにも残虐な光景に耐えられず、彼に問いただした。
しかし彼は答えようとはせず、黙って死体を斬り続けた。
流石に黙って見ていられないので、私は足の痛みに耐えながら彼の元へ歩いた。
そして彼の肩を掴んだ。
「あの、なぜこのようなことを・・・。」
私が喋り終わる前に、彼は手を止め言葉を発した。
「・・・近寄るな。 ・・・血が飛ぶぞ。」
そう一言喋り、再び斬り始めた。
・・・この人は一体。
「あなたはなぜ、人殺しなんか・・・。」
気が付くと、胴体の切断が終わっていた。
上半身と下半身の断面から、大量に血が流れ出てきた・・・。
私は耐えきれず、後ろに下がって目をそらした。
「・・・お前は出て行け。 ・・・疑われるぞ。」
彼は私の方を向き、そう忠告してきた。
その喋りは冷淡な雰囲気の様で、どこか優しさがあった。
「ヴゥ・・・!!」
彼が急に唸り声をあげた。
・・・理由はすぐに分かった。
彼の胸辺りから、刃が生えてきていた。
いや、後ろから誰かに剣で刺されたのだった・・・。
「だ・・・、旦那様の仇・・・!」
言葉から察するにこの屋敷の使用人のようだ。
使用人が「彼」の体から剣を抜き取り、彼は地面に前のめりに倒れた・・・。
彼の体から血が流れ出ている・・・。
「ひ、ひぃ・・・。」
私は突然のことに反応しきれず、叫び声をあげられずにただそう言葉を発した。
私の恩人が目の前で殺されたからだ。
確かに彼は殺人を犯している。
誰かに恨みを持たれ、いずれ殺されるのではないかと思っていた。
・・・しかし、それが私の眼前でだとは思いもしなかった。
「よくも旦那様を・・・。 私はこれからどこで生きて行けばいいのだ・・・!」
剣を持った男は、姿から察するに「執事」であろう。
整った服装と白い髪と髭を生やした高齢者の男性だった。
屋敷の主の仇討ちをしたようだ。
「これでは、また貧乏な生活に逆戻りではないか・・・!」
・・・真の理由は違ったようだ。
どうやら主より金の方が本命だったようだ。
「あ、あなたの主人は、女性を「玩具」にするような方だったのですよ!?」
私は隣で扉が開いている部屋を指しながら言った。
そこには先程の三人の女性が傷だらけの状態で捕まっている。
真っ先にそのことを伝えたのは、正直自分でもわからなかった。
おそらく少し混乱していたのだろう・・・。
このことを聞かせれば、執事の心境は変わるかもしれない。
そう思っていたが・・・。
「そんなことは知っていた。」
執事はキッパリとそう言った。
予想外の答えだった。
私は唖然としていた。
「金さえ貰えればどんな悪事を働いたとしても、私は見て見ぬ振りをしてやったさ!!」
どうやら執事も中々も悪人だった。
顔も凶悪な表情に変わっていた。
「ひ、ひどい・・・。」
これが金の力に溺れた、人間の末路なのかしら・・・。
なんて醜いのかしら・・・。
「それなのに、この野郎のせいで私は・・・!!」
執事が怒りのあまり、持っていた剣を「彼」の死体に刺そうとしていた。
その時だった。
「彼」の死体の上に突如、光り輝く魔法陣が出現した。
魔法陣の発生で執事は吹っ飛ばされ、持っていた剣も遠くに吹っ飛び、床に刺さった。
そして魔法陣の中央から裸の人間が出てきた。
上半身も下半身も丸裸の人間だった。
そしてなにより、顔がとても恐ろしかった・・・。
白目をむいていて、外鼻や耳が無く、口が大きく裂けて歯が尖っていた。
頭部に髪は一切生えてなく、スキンヘッドだった。
体はスリムだが、筋肉がついていた。
・・・正直言って、魔物のような外見の人間だった。
不気味な人間の全身が出てくると、魔法陣は自然と消えた。
その不気味な人間は、私には目も向けず真っ先に後ろにいる執事の方を向いた。
そして足の下にいる「彼」の死体が持っているオノを両方持ち、執事に近付く。
執事は尻餅をつきながら後退るが、不気味な人間の歩く速度の方が明らかに早く、全く意味がない。
簡単に追いつかれてしまった。
そして執事目掛けてオノを振り上げた。
その光景に恐怖する執事だったが、一瞬の内に彼の頭にオノが突き刺さった。
脳天から血が流れ出て、執事は白目をむいて倒れた。
すると、不気味な人間はもう一つのオノを使って、執事の胴体を斬り始めた。
屋敷の主と同じだ・・・。
その状況で不気味な人間の正体がわかった。
フードで顔を隠されていたから分からなかったが、おそらく「彼」で間違いない・・・。
私を助けてくれた「彼」と同一人物であろう・・・。
・・・しかし、そうなれば新たな謎が生まれる。
一つは、先程の魔法陣は何だったのか。
一つは、先程の「彼」の死体が残っていることだ。
一つは、なぜ全裸なのかだ。
私は足の痛みに耐えながら、彼の元へ近づいた。
途中に、先程まで人であったモノが落ちていたが、目を向けないよう注意した。
「あ、あの・・・。」
私は少し距離を話したところから声をかけた。
すると「彼」は手を止め、後ろを向いた状態で喋り始めた。
「・・・悪党以外には見られたくなかったが、・・・とうとう見られたか。」
彼は相変わらず冷静な声だった。
すると彼は体を私の方に向けた。
再び映った彼の素顔は、やはり恐ろしかった・・・。
そして全裸だから、彼の大事な部分が丸出しであった・・・。
私は目線を嫌々顔へ向けた。
「・・・仕方ないな。」
彼は舌打ちをした。
すると、彼が少々近寄ってきた。
顔の迫力に思わず後退りそうになるが、なんとか耐えた。
彼は目を閉じ、静かに語り始めた。
「・・・何故かは知らないが、・・・俺は死んでも生き返れるんだよ。」
死んでも生き返れる・・・?
そんなまさか・・・。
でも、確かに目の前でそれっぽいことが起こっていたし・・・。
じゃあ、本当のことってわけ?
とても信じられそうなことではないが・・・。
「・・・口外はするな。 ・・・その時は容赦しない。」
そう言うと再び執事の死体の胴体をオノで斬り始めた。
「なぜ胴体を斬るのですか・・・?」
私は再び、彼が行っていることについて問いた。
すると、今度は耳を貸してくれた。
「・・・二度と目覚めないようにだ。」
彼はただ、そう一言喋った。
彼が胴体を斬る理由は、トドメを刺しているだけのようだ。
「あなたは、なぜ悪人を殺すのですか?」
質問に答えてくれたので、私はすぐに次の質問をした。
彼は胴体を斬り続けていたが、しばらくして話してくれた。
「・・・それが、・・・俺の使命だからだ。」
彼は手を動かしながら、答えてくれた。
ただ、私が求めていた答えではなかった。
「使命とは・・・?」
私が「使命」について聞こうとしたとき、彼は胴体の切断を完了していた。
すると今度は執事の首をオノで斬り落とした。
あまりにも簡単にやってのけたので、思わず私は若干引いてしまった。
彼は作業を終えると、私の方を向いて近付いてきた。
無言で近付いてきたので、私は恐怖を感じていた。
なにをされるのか・・・。
私はただ、動かず彼の行動を待っていた。
・・・すると、私の横を素通りした。
どうやら私に近付いてきていたわけではなかったらしい。
私は彼の方を見た。
彼は「先程まで自分だったモノ」を見下ろしていた。
そしてその死体から服を剥ぎ取り、次々と身に着けていった。
しばらくして、彼は先程の姿に戻った。
逆に死体は全裸になっていた。
着替え終わると、今度は近くの開いている部屋の中へ入っていった。
捕まっている女性たちがいた部屋だ。
私も彼を追って、ドアの前で部屋の中を覗いた。
・・・するとそこには、三人の内一人の女性の服の中に手を入れている「彼」の姿があった。
「ちょ、ちょっと! なにをしてるのですか!!?」
あまりにも衝撃的な光景に思わず驚愕してしまった。
しかし彼は気にせず、服の中から取り出し、別の女性の元へ近付いた。
その途中、冷静な声で私に言った。
「・・・安否確認だ。 ・・・お前が思っているようなことではない。」
キッパリとそう言った。
勝手に卑猥なことを考えてしまった私は、少々恥ずかしくなった・・・。
全員の安否確認が終わると、彼は繋がれている全員の鎖をオノで順番に斬った。
全員の鎖は切断され、女性の吊るされていた手首が自身の膝に下ろされた。
すると彼は一人の女性を肩に抱えた。
そして部屋を出て行こうとしていた。
「ど、どこへ・・・?」
恐る恐る彼に聞いた。
すると彼は歩みを止め、静かに喋った。
「・・・街の近くに置く。 ・・・誰かしら気付くだろう。」
彼は背を向けながらそう言った。
「街中ではなくて?」
「・・・俺が目立ってしまう。」
・・・そうか。
そういえば彼は、ここ最近の殺人事件の容疑者だった・・・。
国に知られれば捕まってしまうだろう・・・。
私は、近くで座っている女性一人を抱えた。
「わ、私も手伝います!」
助けてもらった恩を一部返すことも含めて、これくらいはしなくては・・・!
しかし彼は背を向けながら言い放った。
「・・・いらん。」
冷淡にそう言い放った。
「で、でも・・・。」
「・・・その足で満足に運べるか?」
・・・そう。
私は片足を怪我していた。
普通の状態でもあまり満足に歩けない状況だ。
そんな状態で運ぶとなると、かなり苦労するハメになる・・・。
「・・・今のお前はただの「荷物」だ。 ・・・大人しく帰って寝てろ。」
「彼」はそう言うと、部屋を出て行った。
遠くでドアが開く音がした。
どうやら彼が外に出たようだ。
私は抱えていた女性をゆっくりと下ろし、「彼」に言われた通り大人しく帰ることにした。
屋敷を出て、森を抜け、街がある方角へ向かった。
痛みを感じる脚で、なんとか歩き続けた。