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救われた命 と 失われた命


 数週間後・・・。






 ハァ・・・ハァ・・・。

 逃げなきゃ・・・!

 逃げなきゃ、殺される・・・!!


 奴は追って来てるのだろうか?

 それを確認する余裕はない!

 足を止めれば、殺される・・・。

 確実に殺される・・・!




 あそこ!

 あそこを曲がって、物陰(ものかげ)に隠れよう・・・!


 私は全速力で物陰に隠れた。

 私は鎧を着ているため、そんなに速く走ることができない。

 ならば、隠れてやり過ごすしかない・・・。



 ・・・。

 みんな、死んでしまった・・・。

 四日間だけの付き合いだったけど、とても優しくて良い人たちだった。

 なのに・・・、なのに・・・。


 全部アイツのせいだ・・・。

 アイツが私から仲間たちを奪ったんだ・・・!!


 あの()まわしい"魔物(モンスター)"のせいだ!!!




 私は物陰から魔物の姿を見た。

 ・・・どうやら、私を探しているようだ。


 いわゆるドラゴン型の魔物だ。

 四足歩行で、手足は少々細い。

 翼は生えてないが、足は速い。

 大きさは2メートルぐらいか・・・。


 だが、あの額にある大きな一本角にみんな殺された・・・。

 胸や頭にツノを刺され、みんな殺された・・・。

 そして・・・、もしかしたら今度は・・・。

 ・・・いや、そんなことは考えるな!

 私は逃げる!

 逃げて、生きてみせる・・・!!




 私は忍び足で違う物陰へと移動した。

 魔物から見えない角度で移動した。


 ・・・おっと!!

 しまった、つまづいてしまった!!!

 岩場だから地面がデコボコしてるんだもん!!


 に、逃げろぉ!!!



 私は一目散に魔物から反対の方向に全速力で逃げた。

 (かす)かに走ってきている音が聞こえる。

 やっぱり気付かれたんだ!!


 私は岩壁(がんぺき)や岩の間を蛇行(だこう)などをしながら走った。

 一直線に逃げると、追いつかれてしまうからだ。

 実際、なんとか追いつかれてはいない・・・。


 このまま行けば・・・!!




 どれほどこの状況に絶望したことだろうか・・・。

 私の到達した場所は「行き止まり」であった。

 どこにも逃げ道はない。

 なぜなら唯一の逃げ道から"奴"が来ているからだ・・・。


 ・・・ここまでなのね。

 私はもっと、生きたかったわ・・・。

 お父さん・・・お母さん・・・。



 戦う選択肢など、私にはなかった。

 私一人の力では、無様に負けるのが分かっていた。

 だから私は、ただ神に祈りを捧げ続けた。

 それが今、唯一できることなのだから。






 私は普段、神様を意識したりなどはなかった。

 ・・・だが、この目の前の光景は神の助けなのだろうか?


 目の前には魔物がいる。

 その魔物の首には、なにかが刺さっていた。

 そのせいで、魔物はもがき苦しんでいた。



 私はチャンスだと思ったが、完全に腰が抜けてしまい立つことができなかった。

 だが、不思議と安心していた。


 岩壁の上から一人の人物が飛び降りてきて、魔物の首を持っていたオノで斬り裂いた。

 魔物の首からは血が噴き出し、悲痛な叫びをあげていた。

 そして「人」は魔物の背中に飛び乗り、オノを何度も頭に刺しては引き抜き、刺しては引き抜き、と繰り返した。

 やがて魔物は地面に倒れ、動かなくなった。


 「人」は魔物の首に刺さっていたモノを引き抜いた。

 それもオノであった。

 どうやら二つ持っていたようだ。


 「人」は二つのオノを使って、魔物の首を斬り裂いた。

 魔物の首からは再び血が噴き出した。

 だが「人」はオノを地面に捨て、遠慮なく魔物の首の斬り口に手を突っ込んだ。

 そして次の瞬間、魔物の頭と胴体を分離させた。

 分離させた頭を地面に投げ捨てると、「人」は落ちているオノを拾い直した。




 その一部始終を見ていた私は、思わず嘔吐(おうと)してしまった。

 あまりにも無残な光景だったからだ。


 しかし、私は「人」に話しかけるために、なんとか落ち着きを取り戻した。

 そう、私を救ってくれた恩人に感謝の言葉を言うために・・・!


「あ、あの・・・!」


 私が「人」に声をかけると、「人」は私の存在に気付いたように振り返った。


 「人」は、ボロボロのフード付きマントを羽織っており、軽装だった。

 鎧などは身に着けておらず、私と違って動きやすそうな格好だった。

 両手にはオノを二つ持っているが、腰に小刀のようなモノも刺していることに気付いた。

 フードを深く被って、布で口元を隠しているため顔は見えなかったが、そんなことは関係ない。


「あの、助けていただき本当にありがとうございました・・・!!」


 そう、この一言を言いたかった。

 この人のおかげで私は生き延びることができたのだから・・・!


「この御恩(ごおん)は一生忘れません!!」


 魔物による恐怖や、明日を迎えることができることの感動などで、涙が出そうになっていた。

 だけど私は、泣きそうになった顔を誤魔化すために、精一杯の笑みで「人」を見ながらそう言い放った。


 すると、「人」は私に背を向けて口を開いた。


「・・・お前がそこにいただけだ。 ・・・俺は、・・・コイツを狩っただけだ。」


 そう一言喋った。

 声からして男性だった。


「だとしても、アナタが私の命の恩人であることは変わりません!」

「・・・そう思いたいのなら、・・・好きにしろ。」


 彼は即答した。

 そしてそのままどこかへと行ってしまった。


 ・・・お名前を聞きそびれた。






 ギルドに報告後、私はギルドにある席の一つに座っていた。

 当然、「彼」のことを考えていた。


 彼は誰だったのだろうか・・・。

 冒険者・・・?


 姿は初めて見たから、この街の人では無さそうだな。


 だけど一番印象に残っているのは、あの戦い方だ。

 まさか頭をもぎ取るとは・・・。

 良い言い方をすると、ワイルドな人だったな。


 そんなことを私は思っていた。




 ふと、近くの席に座ってい冒険者の話し声が聞こえてきた。


「隣町の悪徳商人が惨殺されたらしいぞ・・・。」

「惨殺?」

「刃物で何度も頭を斬られ、上半身と下半身が切断されてたらしいぞ・・・。」

「ひえぇ・・・。」


 また殺人事件か・・・。

 ここ最近多いんだよね。


 被害者は全員悪事を働いてた者たちばかりだった。

 殺人犯を英雄扱いしてる人もいれば、当然殺人を許さない人もいる。

 だが、なにより被害者の遺体の悲惨さに恐怖する人々が多かった。


 被害者は先ほど言われた通り、上半身と下半身が切断されている人がいれば、頭と体が切り離されていた人もいる。

 もしくは、胸を何度も刺された人もおり、手足をバラバラにされた人もいた。

 どれも痛々しい死体ばかりだった・・・。


 当然犯人の捜索を国が行っている。

 たとえ被害者が悪党だったとしても、殺人は殺人なのだから。



 ・・・ん、待てよ?

 頭と体が切断・・・?


 もしかして・・・。


 ・・・いや、決めつけるのは良くないわね。






 私は街中を歩いていた。

 今回の依頼(クエスト)で道具を結構使ってしまったから、道具屋に向かっていた。

 あと、死んだ仲間たちのためにお(そな)え物も買っておかないと・・・。


 残念ながら、仲間たちの遺体の回収はまだできていない。

 私一人ではあの場所に戻ることはできないからだ・・・。

 ・・・いつか、迎えに行かないと。



 そんなことを考えていたら・・・。



 ドン!



「ふにゃ!」


 誰かとぶつかり、尻餅(しりもち)をついてしまった。

 どうやら左の店から出てきたようだ。


「ご、ごめんなさ・・・。」


 私は謝りながら顔を上げた。

 ・・・しかし、私は言葉を途中で止めてしまった。

 なぜなら、目の前にいたのは・・・。


「・・・あなたは!!」


 そう、あの時私を助けてくれた「人」だった。

 ボロボロの赤いフード付きマントと、動きやすそうな軽装備。

 間違いなく「彼」であった。


「!」


 彼は私の姿を見ると、急に私の後ろの道を走り出した。

 ・・・私から逃げてる?


「ま、待ってください!!」


 私は(あわ)てて立ち上がり、彼の後を追った。

 しかし彼はかなり足が速く、あっという間に見失ってしまった。


 せっかくまた会えたのに・・・。




 ・・・そういえば、あの店から出てきたわね。


 私は道を戻り、あの人が出てきた店に行った。

 ここは・・・、「クスリ屋」・・・?


 私は「クスリ屋」に入った。

 棚には綺麗な色をしたクスリが並べられている。

 私や他の冒険者も普通に利用しているので、見慣れた風景だ。


 だが、今回は違う用事だ。

 私は一直線に店主のもとへ向かった。


「すみません。」

「はい、なんですか?」


 店主とはクスリを買う際によく会っている。

 まあ、雑談などの話などはしたことないが。


「あの、先程の人はここでなにをしていました?」

「あー、なんか「最近この店でクスリを大量に買っていった人がいないか」と聞いてきたよ。 たしかに一週間前にそんな人がいたから、とりあえずそう答えたけど。」


 ・・・どういうことなの?

 誰かを探している、ということなのかしら?


「ありがとうございます。」

「なに、お礼ならクスリ一個買ってくれればいいよ。」


 うっ・・・。

 さすが商売上手ね・・・。








 それから二日後・・・。


「聞いたか? また殺人事件だとさ。」

「今度は誰だ?」

「転売屋だとさ。 クスリを大量に買って、その店で買った値段より3倍の価格で売り付けていたらしいぞ。」


 クスリ・・・転売屋・・・。

 これはもう・・・。



 次に会った時には、必ず話を・・・。






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