王城内の悪
俺はグレンバスター。
今、大男を運んでいるところだ。
アイツ・・・アキトと別れて数分後、放置しておくわけにもいかないので城まで運ぶことにした。
つまり、独房行きだ。
・・・すげえ重い。
アキトは城内に悪党がいると言っていたが、果たしてどういうことだろうか・・・。
とても気になるが、一体・・・。
だが、あまり考えたくないことだ。
俺は元々西の国の兵士団に所属していた。
あのガンダリオスの下で戦った。
国籍や実の家族が不明の俺にとって、城の人々は家族みたいなものだ。
・・・だが、その中から悪党がいるらしいな。
勘違いでいてほしいが、あの連続殺人鬼の情報だしなぁ・・・。
冗談を言うような奴では絶対になさそうだよな。
「おや、グレンバスター様ではありませんか。」
考えている間に、城の前まで来た。
門番が二人立っていた。
「犯罪者らしき奴を捕まえた。 独房へ運ぶぞ。」
「えっ、あっ、・・・はい。」
言い終えてすぐに門を開いて入ったため、戸惑っていた門番だった。
まあ、俺は出入り自由みたいな感じなので大丈夫だ。
「コイツは一体?」
「わからん。 ある男を殴り殺そうとしてた以外のことはサッパリ。」
城の地下にある独房へ放り込み、鉄格子越しにガンダリオスと眺めながら話していた。
大男はまだ目を覚さない。
「とりあえず、目を覚ますまでなにもハッキリはしないな。」
「しかしまぁ、独房も賑やかなったな。」
奥の方にもかなりの犯罪者たちが独房の中に入れられている。
この国の治安の悪さが目に見えてしまっている。
なんとも頭が痛くなることだ。
とりあえず、今はこの男を尋問する必要があるな。
「・・・また後で様子を見にくるか。」
俺は階段がある方向を向いて、歩き出そうとした。
その前にガンダリオスの声が耳に入った。
「ところで、殴られていた男は大丈夫だったのか?」
・・・。
やはりそこも気にしていたか。
さすがガンダリオスだ。
「ああ。 軽症で済んで、無事に帰ったよ。」
「・・・そうか。」
実際は一回死んでいたがな。
ガンダリオスにアキトの話をすると厄介なことになる。
話した途端、目の色を変えるだろうな。
まあ、俺は別にどっちでもいいがな。
「兵を二人呼んでくれ。 見張りをさせる。」
「りょ~かい。」
男のことはガンダリオスに任せるか。
俺はもう一つのことをやらなければ。
「最近おかしい奴?」
「兵士か誰かにいないか?」
「うーん・・・、特にいないと思うが。」
俺は王と話していた。
アキトの言ったことは伝えてないから、遠回しに聞いている。
「最近は人狼の騒ぎとかで兵士たちは強化特訓を欠かせなくなったしな。 変なことをしている暇ではないと思う。」
「そうか・・・。」
そういえば、人狼の件も解決しねえとな。
簡単にはいかねえと思うが。
「邪魔したな。」
「いや大丈夫だ。 今度飲みに行こう。」
「ああ、そうだな。」
王は忙しいからな。
座ってるだけのオッサンではない。
治安、犯罪、魔物、人狼、・・・そして殺人鬼。
なんとかしなければならねえことだらけだ。
玉座の間から出ると、外は日が暮れて暗くなっていた。
時間の進みは早い。
こうしている間にも、悪党はなにかを企んでいるのだろうな。
「グレンバスター様!」
声がした方を向くと、そこには三人の兵士がいた。
全身鎧の姿だったが、俺にはその三人が誰かすぐにわかった。
「ライケン、ガスタード、クガ。」
「おおっ、よく分かりましたッスね。」
今のはクガだな。
相変わらず軽い奴だ。
「クガ、いつも言ってるが・・・。」
「分かってます。 これでも結構頑張ってるッスよ?」
「嘘つけ。」
ライケンも相変わらず真面目だ。
そしてガスタードもいつも通り物静かだ。
「ところで、なにかあったのですか?」
「ん? ああ、そんな大したことじゃないんだ。」
さすがに一般兵士のコイツらに教えるわけにはいかねえよな。
・・・待てよ。
一般兵士のコイツらに聞けば、身近だしなにか分かるかもしれない。
「なあ、最近城内でおかしな行動をしている奴とかいなかったか?」
「おかしな行動・・・?」
三人は互いに兜で隠された顔を見合わせた。
しばらくしてライケンが口を開いた。
「知りませんね。」
「兵士たちはここ最近、みんな筋トレやら遠征やらしてますッスからね。」
「そうか・・・。」
王の言った通り、兵士たちは特訓などで忙しいようだ。
兵士は多いから、一人くらいいなくても気付かなそうだが。
「あっ、でも少し変だと思った人ならいるッスよ。」
「なに・・・!?」
クガが持っていた槍を片手で振り回しながら言った。
「それは、誰だ?」
「それは・・・。」
クガは名前を言おうとした。
その時だった。
ガシャンガシャンガシャンガシャン・・・!!
後ろから4、5人の兵士が走ってきた。
しかし俺らを避けてそのまま通り過ぎた。
「な、なんだ・・・!?」
なにかあったのだろうか?
また後ろから一人だけ兵士が走ってきた。
「なぁ、なにかあったのか?」
今度は声をかけてみた。
兵士は速度を落としながら止まってくれて、こちらを向いた。
「だ、脱獄ですぅ!!」
・・・。
・・・脱獄ぅ!!?
先程の兵士と三人と一緒に独房の方へ向かった。
独房へは階段を下りなければ行けない。
その階段から一人の兵士が後ろ向きで現れた。
「お、おい、どうした!?」
俺が兵士に近付こうとした次の瞬間、下から謎の男がその兵士に飛びかかった。
兵士は持っていた槍で応戦し、攻撃を防いだ。
兵士は槍を逆さに持ち、石突で男を突いた。
男は後方へ押し出され、階段から転げ落ちた。
「脱獄したのは彼だけではありません!」
兵士はそう言うと、大急ぎで階段を下りて行った。
すると、別の方から女性の叫びが聞こえてきた。
「あっちだ!」
クガはそう言うと、一目散に声の方向へと向かった。
「あっちは俺とクガに任せろ。 お前ら三人は独房の方を頼む。」
俺はそう言ってクガを追いかけた。
途中でクガに追いつき、二人同時に目的地に着いた。
そこでは一人の兵士とさっきの奴とは違う謎の男が戦っていた。
おそらく別の脱獄者だろう。
「ハァー!!」
兵士は叫びと共に脱獄者へ向かって槍を振った。
脱獄者は防御の構えをとって、攻撃を防いだ。
ちなみに兵士の声は、どうやら先程の女性の叫び声とほぼ一緒だった。
どうやら攻撃の際の掛け声だったようだ。
「危ない!!」
クガが犯罪者に向かって突撃した。
鋼の体での強烈なタックルが犯罪者を直撃し、吹っ飛ばした。
「グボァ!!?」
変な声をあげながら犯罪者はノックダウンした。
クガは凄い速さで女性兵士のもとへ近付き、安否を確認した。
「クガ、相変わらず女のことになると凄い力を発揮するな。」
「男なら当然っしょ。」
本当に大物だよ。
お前は・・・。
・・・。
待てよ・・・?
「ちょっと待て・・・。 脱獄者は真っ先に向かうとするなら・・・。」
「あ・・・。」
・・・外だ!!
あの場をクガに任せて、俺は城門へと急いでいた。
道中に脱獄者が2、3人いたが、ぶっ飛ばした。
おっと、着いた。
やはり城門には脱獄者がワラワラといる。
だが、城門には強大な守護者がいる。
・・・ガンダリオスだ。
ガンダリオスは迫り来る脱獄者たちを掴んでは投げ飛ばし、捕まえては投げ飛ばして、誰一人として門に近付かせなかった。
ガンダリオスの後ろにも二人の兵士がいる。
城門の兵士だろう。
左右を見ると、塀を乗り越えようとしている脱獄者もいるが、そちらも兵士たちが阻止している。
相変わらず『武力だけは飛びぬけて凄い』と言われている西の国の兵士たちだな。
俺が出る必要もなさそうだ。
「グレンバスター!!」
ガンダリオスに大声で呼ばれた。
俺は早足でガンダリオスに近付いた。
当然脱獄者たちを倒しながら。
「ここは俺に任せて、王のもとへ行ってくれ。」
「王のもとへ?」
「もしかすると、本当の狙いは王の命かもしれない。」
「・・・オーケー、とりあえずここは任せた。」
俺は脱獄者たちを倒しながら王のもとへ向かった。
ガンダリオスなら大丈夫だろう。
まあ、王の方も大丈夫だと思うが。
しかし、まぁ・・・、よくこんなにも独房にいれてたな。
人口が全く減ってねえのが信じられねえぜ。
そんなことを考えている内に、玉座の間の扉付近に着いた。
大きな扉の前には二人の兵士が倒れていた。
痙攣していたから生きてはいるようだ。
だが、それより気になったのは扉の中の音だ。
かなりの衝撃音が聞こえてきている。
俺は半開きになっていた扉を開けて、中へと入った。
中では、激しい戦いが繰り広げられていた。
・・・というより、片方が必死に攻撃を避けているだけだが。
「おお、グレンバスター。 来てくれたか。」
ちょうど目の前に来た王が俺に声をかけてきた。
だが次の瞬間、対戦相手の攻撃が王へ近付いた。
王はそちらを見ずに、軽く後方へ飛び回避した。
見た目のわりに、超強いんだよな・・・。
しかも恐ろしいのが、これでリミッターがついているんだよな。
軽やかな動きで攻撃を回避する王。
休み暇なく攻撃を連発する相手。
しかも相手はさっきの刺青の大男だ。
連続で殴りかかるが、全部攻撃を外している。
王の回避率が異常だからだ。
「やはり、心配することはなかったな。」
俺は一度、扉の外へ出た。
「おーい、大丈夫か?」
俺は倒れている兵士二人を壁際に座らせた。
やや弱々しかったが、返事はもらえた。
「まあ、ゆっくり休んでろ。 あとは俺に任せろ。」
俺は再び部屋の中へ入った。
やはり激しい攻防が続いており、間に入れそうにない。
他のところへ行こうと思ったが、王の身になにかあったらガンダリオスに殺されそうだし、念のためこのまま見守っておくか。
・・・。
他の奴らは大丈夫だろうか・・・?




