人狼(ライカンスロープ)
シルヴィアです。
私は今、大急ぎでお城に向かっている。
グレンバスターから託された任務を遂行するために。
そしてついに城門前へ来れたのだった。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
しかし、あまりに急いで来たので息を切らしたのだった。
「あの、大丈夫でヤンスか?」
門番の一人に心配された。
なかなかユニークな声の人だった。
「は、はいぃ・・・。」
せめて返事だけでもしなくてはと思い、息を切らしながら答えた。
しばらくは呼吸を整えることを優先した。
そして、中腰だった体をしっかりと伸ばして、ちゃんと立ち上がった。
「あの、グレンバスターさんからの伝言があります。」
私は真っ先にそう言った。
言葉の続きを聞くために、二人は一切声を出さずにいてくれた。
「か、"母ちゃんが部屋の掃除をし出した" と・・・。」
私はやや恥ずかしかったが、しっかりとその言葉を伝えた。
二人の門番は言葉を聞くと、黙って顔を見合わせた。
そして片方が門を開いて城の中に入っていった。
「あ、あの・・・、どうなさいました?」
私は、今起こっている状況が理解できず、困惑しながら門番を見ていた。
「どうやら、グレンバスターさんでもかなりキツい状況になっているようです。」
「そ、そうなのですか・・・!?」
「はい。 そういう状況のときにグレンバスターさんはその言葉を伝えてきたりするのです。」
門番は優しく答えてくれた。
そうか・・・。
確かにあの狼男相手にやや押されていたようにも見えたわね。
私がいたのもあるけど・・・。
「我々兵士が救援に駆けつけますので安心してください。」
「よ、よろしくお願いします。」
門番はそういうと、腰に下げていた剣を鞘から少しだけ引き抜き、そしてすぐに再び収めた。
私は今の動作に、特に興味はなかった。
しばらくすると、城の中から7人くらいの兵士が出て来た。
その内の一人は、あのガンダリオスさんだった。
門を開いて、外に出て来た。
「キミは、あの時の・・・。」
ガンダリオスさんがコチラに気付いた。
相変わらず全身鎧で、大柄な体型だった。
「こ、こんばんは・・・。」
「キミが伝言を伝えてくれたらしいな。」
「は、はい・・・!」
「感謝する。」
ガンダリオスさんは一礼をした。
私も「いえいえ」という感じで礼を返した。
「では後は我々に任せて、キミは帰りなさい。」
「え、でも・・・。」
「あの男が救援を呼んだ。 これは相手がかなりの強敵である事実だ。 そんな危険なことにキミを巻き込むわけにはいかない。」
「・・・。」
「分かってくれ。」
背の高いガンダリオスさんは、中腰になって私を見ながら優しい声色で言った。
確かに私が行っても足手纏いになってしまう・・・。
魔物のことに関してはやや詳しいが、人狼のことはさすがに知らない。
悔しいが、仕方ない。
「分かりました。」
ややローテンションで私は答えた。
すると、ガンダリオスさんは無言で敬礼をすると、他の兵士たちと共に歩き出した。
グレンバスターの場所を目指して・・・。
・・・ん?
ちょっと待って・・・。
「あ、あの、場所はご存知ですか?」
私がそう言葉を発すると、ガンダリオスさんを始め、他の兵士の足も一斉に止まった。
そしてこちらを振り向いた。
「そういえば、そうだった・・・。」
やはり分かっていなかったようだ。
気付いてよかった・・・。
「私が教えます!」
「すまない、助かる。 えーと・・・。」
ガンダリオスさんはなぜか言葉が詰まった。
しばらく止まっていたが、やがて動き出した。
「そういえば、キミはなんという名前なのだ?」
ああ、そうか。
まだガンダリオスさんには名前を教えていなかったっけ。
というか、ここまで彼と関わるとは全く予想してなかったし、仕方なかったのかもしれない。
「シルヴィアと申します。」
俺はグレンバスター。
現在「人狼」と激しく交戦中・・・。
ヤツは強い。
俺が借り物の武器で戦っているのもあるが、ヤツが強いのも事実。
気を抜いたら死ぬかもな。
あれから戦い続けて明らかになったことがある。
数分前より人狼の動きが良くなっている。
どうやら最初のは手を抜いていたようだ。
・・・いや、もしかしたら今もそうなのかもしれない。
どちらにしても、早く倒さねばならない。
コイツが町を襲ったりしたら危険すぎる。
そうならないためにも・・・。
だが、問題はそれだけではない。
前々から予想はしていたが、ついに使っていた剣の刃が折れた。
斬ることは一応できるが、これでは刺すことはできなくなってしまった。
まぁ、俺は剣を刺すことはあまりしないが。
さて、問題となるヤツの動きだが、かなり激しくなっている。
さっきまで平均で五秒に一回くらいで攻撃をしてきたが、今は二秒に一回くらいで攻撃をしてきている。
そして強烈な攻撃で、剣の刃が折れた。
仕方ないので防御ではなく、攻撃を避けることにした。
当然俺も攻撃をするが、奴に当たることもあれば外れることもある。
まあ、折れた剣では全然斬り裂くことはできんがな。
さてと、ヤツの攻撃だ。
飛びかかって来たかと思うと、弧を描いて飛び、俺の真後ろから攻撃を仕掛ける。
その攻撃を俺は素早く避け、体勢を立て直す。
ヤツの背中に向かって折れた剣を振る。
しかしヤツは後ろを向かずに前に飛んで回避する。
そして空中で方向を変え、俺の方を見る。
それから1秒後に再攻撃を仕掛ける。
地面を4本足で走り回り、近付いたら素早く攻撃をしてきた。
俺はなんとか回避に成功した。
ヤツに目線を合わせた頃にはやや距離があり、明らかに攻撃は届きそうにない。
俺は反撃を諦め、次の攻撃に備えた。
ヤツは今度は背を向けた状態からバク転をしてきた。
そして俺と距離をやや詰めた瞬間に空中で体をこちらに向け、右腕を振り下ろしてきた。
俺は慌てて後ろへ跳び回避した。
ヤツの爪が地面を刺した。
かなり鋭利な爪だ。
地面から爪を引き抜くと瞬時に後方へ跳び、俺と距離を取った。
しかしすぐに四足歩行で走り出し、俺の背後に移動した。
俺が振り返った頃には、跳びかかってきていた。
俺は慌てて避けようとしたが、瞬時に背中から後ろに倒れた。
そして人狼が俺の真上を通過しようとしていたところで、俺は手を使わない背支持倒立のように勢いよく両足を蹴り上げた。
そしてすぐに立ち上がった。
ヤツの方を見ると仰向けに倒れていた。
どうやら前方に回転して倒れたようだ。
本来なら追撃をしたいが、この武器では危険だ。
ここは安全を優先して、さらなるチャンスが訪れるのを待とう。
「グレンバスター!!」
・・・ん?
この声は・・・、ガンダリオスか?
そういえば、シルヴィアに頼んで呼んでもらっていたことを忘れていた。
「大丈夫か、グレンバスター?」
「まあな。 剣はこのザマだが。」
刃の先が折れた剣をガンダリオスに見せながら言った。
近付いてきた6人の兵士。
その内の一人はガンダリオス。
「合計で7人か・・・。」
「いや、後から一人来る。」
「なぜ?」
「他のことをしてもらっている。」
なんだかよくわからないが、まあいいか。
さて、手短に説明せねば・・・。
「とりあえず、一切油断はするな。 それだけは覚えていてくれ。」
「分かっている。 お前が救援を求めたのだからな。」
そう言うとガンダリオスを始め、兵士たちが散らばり身構えている。
ヤツはというと、いつの間にか起き上がっていた。
「これって・・・。」
「ああ、『人狼』だ。」
うっかり言い忘れていた。
今ここに来たばかりなのに、相手のことを知っているハズがねえじゃねえか。
「初めて見たが・・・、これは確かに手強そうだ。」
ガンダリオスが小手から刃を出しながら、呟いていた。
俺もしっかりと刃が折れた剣を構えながら、ヤツを見張る。
「来るぞ・・・!」
俺がそう言ったのと同時に人狼は行動を開始した。
手始めに一番近くにいた一人の兵士を狙った。
兵士に勢いよく跳びかかった。
本来なら「避けろ!」と叫んだり、救出に向かったりするところだが、その心配はない。
なぜなら、この国の兵士は 普通に強い からだ。
兵士は向かってくる人狼を華麗に横に避け、宙に浮いている人狼の横っ腹に回し蹴りを放った。
人狼はやや吹っ飛んだが、四足歩行で綺麗に着地をした。
透かさずヤツは近くにいる別の兵士を攻撃した。
今度は爪で引っ掻くつもりだ。
ヤツの爪が兵士を斬り裂く・・・前に兵士が剣を横にして受け止めた。
刃物と刃物がぶつかった金属音が響く。
兵士は人狼を押し返す。
人狼も後方に跳び続け、かなりの距離を取った。
すると、今まで透かさず攻撃を仕掛けてきていた人狼が、しばらく動かなかった。
・・・疲れたのだろうか?
「はあぁぁぁー!!」
一人の兵士が動かなくなった人狼に突撃した。
もし本当に人狼が弱っているのならチャンスだ。
今度はコチラが攻める番だろう。
・・・しかし、俺はふと嫌な予感がした。
なぜなら、一度だけヤツが動きを止めたときがあったことを思い出したからだ。
その時ヤツがナニをしたかを思い出した。
そう、あの時・・・。
俺が今使っている剣の刃を折った攻撃をした時だ・・・。
人狼のもとへ向かっている兵士を止めるために、慌てて走り出して大声を出そうとした。
・・・しかし遅かった。
次の瞬間、人狼は兵士に向かって走り出したかと思えば、同時に前転をしだした。
そして前転による回転は徐々に早くなり、パッと見ればまるで大きな球体のようにも見えるようになった。
その状態で高速で兵士に向かって突撃した。
その光景を間近で見ていた兵士は、あまりの奇妙な光景を見たせいか、思わず足を止めてしまった。
そしてうっかり防御を取り忘れていた。
高速回転をする球体は、勢いよく兵士に衝突した。
当然兵士は吹っ飛ばされ、人狼も衝撃でやや後方に飛んだ。
技が直撃した兵士は全身に身に纏っていた鎧が砕けた。
鎧のカケラが宙を舞い、地面に仰向けで倒れた兵士の周りに降り注いだ。
俺は慌てて負傷した兵士に近付いた。
中が一部丸見えになっており、色々なところに怪我を負っていた。
かなり酷い怪我だ。
俺は今度は人狼の方を見た。
するとヤツが森の中に入っていくのを見た。
・・・どうやら逃げたらしいな。
「待て!!」
後ろからガンダリオスが追いかけていたが、人狼が森の中に消えると、足を止めた。
「ちっ、見かけによらず頭がいいみてえだな。」
「おそらく、分が悪いと判断して逃げたようだな。 しかも最後に爪痕を残しやがって・・・。」
俺はふと負傷した兵士を見た。
兵士はついに流血をしだした。
「反省会は後だ。 まずはコイツを手当てしねえと。」
「ああ、そうだな。」
ガンダリオスも負傷した兵士に近付いた。
近くにいた兵士の鞄から傷薬を取り出して応急処置をしだした。
俺は邪魔になりそうなので、少し離れた場所に移動をしていた。
『人狼』・・・。
噂以上の強力な種族だ。
人狼というからには、人間の姿もあるハズだな。
普段はどういう姿をしているんだろうか。
しっかし、あのように危険なヤツを野放しにするのは危険だ。
おそらく明日には兵士たちが捜索を開始させるだろうな。
なんとも、穏やかじゃないな。
しばらくすると、町の方向から人影が見えてきた。
先程ガンダリオスが言っていた一人の兵士だろう。
「よう、ご苦労さん。」
「あ、グレンバスター様。 お待たせしました。」
兵士はご丁寧にお辞儀をした。
全身鎧で姿は分からないが、声からしてどうやら女性の兵士らしい。
「悪いがもう終わったぞ。」
「えっ、そうなのですか?」
あと数分早ければ間に合ったな。
まあ、今回のことに関しては間に合わなくてよかったかもな。
「ところで、お前はなにをしてたんだ?」
「はい。 道案内をしてくださったシルヴィアさんを無事に送り届けていました。」
なるほど。
これがガンダリオスが言っていた「他のこと」か。
「悪いが、俺は先に帰る。 そうガンダリオスに伝えておいてくれ。」
「えっ!?」
俺は女性兵士の兜の天辺を左手で ポンッ と叩いて、そのまま町に向かって歩き出した。
後ろから女性兵士になにか言われていたが、聞き流して歩き続けた。
今日は疲れたな・・・。




