闇夜の襲撃者
俺はグレンバスター。
今現在、王女様を護衛している。
また夜の密会だ。
「ごめんなさい、毎回してくださって。」
「いや、大丈夫だ。」
まあ、俺もたまにはアイツの姿を見てえし。
おっと、噂をすればだ。
赤いマントの怪しい男登場。
「お待ちしておりました。」
「・・・どうだ?」
「行方不明者は数名、帰還が確認されました。 あの御二方も、兵士が連行しました。」
「・・・そうか。」
どっちも仕事が早えな。
俺なんか全然知らなかったぜ。
「・・・で、・・・他にはあるか?」
「いえ、今は特にお願いしたいことはありません。」
「・・・そうか。」
そういうと、ヤツは背を向けて俺らから離れていった。
特になにも言わずに。
「せめて「じゃあな!」とか言って帰ればいいのに。」
「いえ、私は大丈夫です。」
「そうかぁ?」
王女様は綺麗な笑顔を見せている。
さすがは王族。
亡くなった王妃様はとても美しい人だったと聞いたことがある。
その娘である王女様が美人なのは納得だ。
一度、王妃様の姿を見てみたかったものだ。
数十分後・・・。
王女様を城に帰し、俺は夜の街をブラブラしていた。
さすがに深夜であるため、人気が少ない。
夜空を見上げると星々が輝いており、月が綺麗だった。
「今日は"満月"か・・・。」
ふと、そう言葉を漏らした。
治安が悪い世の中でも、綺麗なものは綺麗だ。
それに変わりない。
俺は自然と、前に王に紹介した酒場の前に来ていた。
せっかくなので、中に入った。
意外にも店の中には客が結構入っていた。
だが俺は気にせず、一直線にカウンターの席に座った。
「あら、久しぶりね。」
「最近色々とあってな。」
俺の前にグラスを置きながら、マスターは話しかけてきた。
相変わらず声以外は女性的だ。
「あれ?」
「どうした?」
「おかしいわね・・・。 確かに昨日まではここにあったはずなのに・・・。」
マスターはとても不思議そうに困っていた。
「もしかして、いつものヤツが無いのか?」
「ええ、そうなの・・・。」
昨日まではあった・・・。
と、なると・・・。
「"泥棒"じゃねえか?」
「まあ、この町には結構出るからありえるわね・・・。」
ちぇっ、いつものヤツはお預けか・・・。
泥棒が判明したら一発殴ってやる。
「入荷はいつくらいだ?」
「隣町からの入荷なので、大体早くて明日には届くはずよ。」
「そうか・・・。」
隣町、か・・・。
数十分後・・・。
俺は酒場を出て、深夜の町を歩いていた。
やや肌寒そうな風が吹いている。
そういや、寝床を確保してなかったな。
この町で泊まると色々と押し寄せてきそうだし、さっきマスターが言ってた隣町にでも行くか。
少し時間がかかるが・・・。
俺は仕方なく、夜の草原を歩いている。
本来ならかなり危険な行為だ。
だが、まあ俺なら大丈夫だろ。
・・・たぶん。
正直、少し不安だ。
なぜなら、俺の武器である大剣はフロープスに預けている。
取りに行くのは、あと5日後くらいだ。
それまでは城で借りた、兵士用の剣で戦わなければならない。
できれば厄介ごとに巻き込まれなければいいが・・・。
・・・ん?
誰か歩いてくる・・・。
俺は腰に刺している剣の握りを掴みながら、徐々に距離を縮めた。
そして、相手の顔が見える位置まで来た。
「・・・ん?」
「・・・あっ!」
「なんだ、あんたか・・・。」
その姿に見覚えがあった。
・・・シルヴィアだ。
「こんな時間にどうした?」
「いえ、依頼が長引いてしまいまして・・・。」
シルヴィアは苦笑いをしながら答えた。
こんな夜遅くになるまで依頼をやるとは、冒険者も大変だな・・・。
実際、シルヴィアが身につけている鎧が少し傷ついている。
「で、街に帰っている途中か?」
「はい・・・。」
こんな時間だ。
なにかに襲われたら危険だな。
「町まで送るぜ。」
「え、いえ、大丈夫ですよ!」
「遠慮すんなって。」
シルヴィアは申し訳なさそうにしている。
その姿を見ると、逆に助けたくなるのが「男」という生物だ。
・・・しかし、俺はなぜかイヤな予感がした。
ふと、周りを見渡した。
「ど、どうしました・・・?」
「しっ! 静かに・・・。」
なにか音が聞こえる・・・。
まるでこちらに接近しているような・・・。
!!
「俺の後ろに移動しろ!!」
「え!?」
俺はシルヴィアの腕を掴み、俺の後ろに引っ張った。
そして素早く音のする方向を向いた。
次の瞬間、目の前の森から「なにか」が飛び出し、草むらの中を走っている。
俺を目掛けて。
俺は冷静に城から借りた剣を引き抜き、横にしてガードする体勢に入った。
草むらから「なにか」が飛び出し、俺に急接近した。
すると、剣になんか当たった。
よく見ると、それは鋭い爪が伸びた"手"だった。
「ひっ!?」
後ろにいるシルヴィアが怯えている。
当然だろうな。
なぜなら、襲ってきた「なにか」の姿がハッキリし始めたからだ。
その姿は人のようで、人ならざるモノだった。
身体は灰色のフサフサな毛で覆われている。
しかし、ズボンを穿いている。
そのモノの頭は完全にオオカミだった。
つまり・・・。
「『人狼』か・・・!!」
『人狼』・・・。
名前の通り、狼の姿に変身する人間だ。
今は全く見なくなったと言われていたが、まさかまた現れるとは・・・。
話は聞いたことあったが、見るのは初めてだ。
確か、満月の夜に強制的に変身をするらしいな。
「『人狼』がなぜここに・・・。」
俺の問いに、人狼は答える気はなさそうだ。
後方に跳んで俺らから距離をとり、草むらに着地した。
しかし隙を見せず、人狼は頻度に右へ左へと跳び、惑わしている。
そしていきなり前方、つまり俺たちの方向へ跳んでくる。
俺は一切油断をせず、ガードして対処する。
気を抜いたら、マズい・・・。
それにシルヴィアもいる。
ここは一度、シルヴィアを逃がさなければ・・・。
そして、この事を王へ伝えなければ・・・!!
人狼は相変わらず右へ左へ動き、突然こちらへ跳んでくる。
その度に俺はガードをする。
たまに後ろに回ってシルヴィアも狙うが、その時も俺は見逃さずに攻撃を剣で受け止めた。
そんなことが何回も起きた。
「ちっ・・・。」
思わず舌打ちをしてしまった。
こんなときに俺の大剣があれば・・・。
・・・こうなれば仕方ない。
俺は覚悟を決めた。
地面に剣を突き刺した。
「え、なにを・・・。」
シルヴィアは困惑していたが、説明してる時間はなかった。
俺は人狼の動きをしっかりと見張っていた。
右・・・左・・・右・・・右・・・左・・・。
そして突撃。
・・・今だ!!
俺は跳んできた人狼に向かって走り、思いっきり右ストレートを放った。
先に人狼の爪が俺の左肩より下あたりに突き刺さり始めた。
だがその1秒後、俺の拳が人狼の顔面にぶつかった。
その衝撃で人狼は後方に吹っ飛んだ。
幸い爪が深く刺さらなかったので、重傷は免れた。
「だ、大丈夫ですか・・・!?」
「ああ、心配ない。 それより頼みがある。」
今しかチャンスがなかった。
「城まで行って、伝言を伝えてくれないか。」
「え、は、はい・・・! わかりました!!」
シルヴィアはやや慌てていたが、しっかりとそう答えてくれた。
俺は地面に突き刺した剣を引き抜きながら、話を続けた。
「じゃあ、この言葉を門番にでも伝えてくれ。 "母ちゃんが部屋の掃除をし出した" と・・・。」
「・・・え?」
「合言葉みてえなものだ。 この言葉をそのまま伝えてくれればいいだけだ。」
「わ、わかりました・・・!」
「俺のいる場所も伝えてくれ。 頼んだぞ!!」
シルヴィアは大急ぎで城のある町へ向かった。
とりあえず、シルヴィアを逃がすこともできた。
俺は持っている剣を再確認し、人狼が飛んで行った方向を見張った。
人狼は頭を振りながら、ゆっくりと立ち上がった。
そして、再び構えた。
俺も同様に剣を構え、相手を目から離さないよう注意した。
しかしワンパターンだと思った動きを変えてきた。
二足歩行から四足歩行に変えてきて、俺の周りをグルグル回り始めた。
さすがに俺も体が追い付かず、少し目を放してしまった。
そして真後ろを取ったときを狙い、飛び掛かってきた。
俺はなんとか防いだが、攻撃を弾くのがやっとだった。
二足でも四足でも走れるとは、なんとも厄介な相手だ。
・・・しかし、こうなると防御の姿勢を貫くのは無理だ。
いずれ体力がなくなり、奴に仕留められてしまう。
ならば、攻めなければ・・・。
俺は逆に、周りを駆ける人狼を目で追わず、目を閉じて音だけで追うようにした。
深夜帯なのでとても静かで、聞こえるのは人狼の駆ける音のみ。
大体場所が分かる。
しばらく周りを駆け回る音がした。
まるで休むことがなく、ずっと走り続けていた。
そして、約一秒間だけ音が止んだ。
・・・今だ!
俺は音がした方向である右斜め後ろの方向へ振り返った。
人狼がこちらへ飛びかかってきているのが見えた。
だが、眺めている暇はなかった。
俺は右足を後ろに下げ、少しだけ体を小さくした。
そして手に持っている剣を前方へ振り下ろした。
それと同時に体も前屈みになり、人狼の攻撃を避けた。
人狼の方は俺の持っている剣で肩を斬り裂かれていた。
人狼は衝撃で背中から地面に落ちた。
草むらなので、あまりダメージはないだろう。
だが、切り傷は浅くはないだろう。
そう俺は思っていた。
しかし、現実は俺の想像を遥かに超えていた。
人狼は肩を斬り裂かれたにもかかわらず、簡単に立ち上がった。
二足歩行で、腕も問題なく動かしていた。
どうやら、人狼とは想像以上に強力な生物のようだ。
人狼は斬られた方の肩を回した。
そして俺に顔を向けた。
オオカミの威圧的な顔が、闇夜の中でこちらを睨んでいた。
コイツは、かなり危険だ・・・。




